「おうち時間」を越えて

掲載日:2021 年 9月 24日  


「 With コロナ/ after コロナ時代の新しい生活様式」を表す言葉として用いられることが多くなってきたニュー・ノーマル※の代表的なものが、オンライン会議ツールの活用です。仕事だけでなく、オンライン学習やオンライン飲み会、オンライン婚活など、私たちの生活の場でオンラインが根付いてきました。

今回は、オンライン劇場を実施している『あっとほーむ・シアター』にスポットライトをあて、現在のレギュラーメンバーである、俳優の鈴木佳由さん、田中夢さん、薬丸夏子さんの 3 名にお話をお伺いしました。
コロナ禍を発端とした取組みが、今後どのように広がっていこうとしているのか、その可能性についてご紹介いたします。

※ ニュー・ノーマル(new normal)は直訳すると「新たな常態・常識」という意味になります。社会の構造やあり方に大きな変化が起こることで、これまでの社会では当然とされてきたことが当然ではなくなり、従来とは異なる常識が定着することを指します。

このページのコンテンツは、あっとほーむ・シアター にスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

『あっとほーむ・シアター』は、ウェブ会議システム zoom を活用したオンライン劇場です。2020 年 4 月の緊急事態宣言下に、自らも子育て中である舞台芸術のアーティストたちが中心となって、活動を開始しました。
毎回 3~4 名の出演者が、オリジナルの紙芝居やひとり語り、歌、クイズなど、それぞれ 10 分前後のライブパフォーマンスを披露。お昼の時間帯に行う「おやつパーティ」や「夏休みシアター」などのプログラムの他、夜の時間帯に行う「おはなしパジャマパーティー」や「赤ちゃんころころ広場」など、プログラムも日々進化中です。

◆俳優として、親として、経験から紡ぎ出されたプログラム

土坂:先日、「おはなしパジャマパーティー」に、3 歳の娘と一緒に参加させてもらいました。正直、夜 20 時からの時間帯で子どもを対象にした取組みがあるなんて思ってもみなかったので、とても斬新でした。

薬丸:緊急事態宣言が出されたときに感じたのは、「同じ部屋で親子がずっと一緒にいなければいけない状況は、お互いに大変」だということ。私自身も子育て中で、その大変さは身をもってわかっていたので。同じような立場の俳優やミュージシャンが集まり、親も子どもも息抜きができる時間になればと、取組みを始めました。

田中:私の場合は、この取組みに声をかけてもらったとき、子どもの保育園が休園になってしまっていて、まさに「動けない状態」でした。でも何かしらの表現活動はやりたい。「きっと自分と同じような状況にいる親子はたくさんいる」と感じたことから、「おうちで子どもとできる表現」をテーマにして、毎回作品を作るようになりました。
今まで子どもが描き溜めた絵を集めてきて紙芝居を作ったり、子どもが作ったクイズを出したり、子育て中の方が共感してくれるような内容を盛り込んでいるんです。
当初は、一斉休校となった子どもたちに向けた昼のプログラムが中心でしたが、学校再開に伴って、子どもたちが参加できなくなっていったんです。土日は外に遊びにいきたいだろうから、いつだったら参加しやすいのかと、メンバーの中で模索して・・・。

鈴木:私が個人的に、「金曜夜の朗読会」という取組みをオンラインでしていて、意外と人が集まることを経験上知っていたので、夜のプログラムを実施してみることにしました。

創作紙芝居では、参加している子どもが眠りに誘われることも・・・。

土坂:娘は寝かしつけに 3 時間かかることもざらにあって、この時間帯が私は一番イライラするんです。「おはなしパジャマパーティー」では、参加家庭の多くが「顔出し」していて、お布団が敷いてあるのが見えたり、ソファでジャンプしながら聞いている子どもが見えたり。終盤で部屋を暗くしている参加者の方が見えたので、「うちも電気消そうね」などと自然に寝かしつけに促すことができました。
オンラインであっても同じような子育て家庭とつながることができ、心に余裕もできました。こういうのも、皆さんの狙いなのでしょうか。

鈴木:はい、狙いです。
親って、夜が一番孤独なんですよね。独りぼっちだし、無力だし。私も寝かしつけに苦労していたので、いつもそう思っていました。だからこそ「おはなしパジャマパーティー」では、「子どもが本当に寝られるようなお話を」と思って取り組んでいます。「子どもが寝てくれました」という感想もいただいています。いい夢を見てほしいです。

◆こだわったのは、創造性と双方向性

土坂:『あっとほーむ・シアター』のプログラムは、オンライン会議ツール zoom の機能を上手く使ったものや、創作パフォーマンスなど、独特なものが多いですね。私が参加したときには透明なピーマンを使ったクイズがあり、どんな仕掛けをしているのか、とても驚きました。娘は薬丸さんの一人二役の「雪女」を見て、怖くて走り回っていたほどです。

zoom の背景機能を活用した一人二役の創作芝居

薬丸:オンラインですので、著作権にひっかからないように考慮しているのですが、私は読み聞かせが苦手なので、自分自身を使って行う表現を創作しています。zoom の背景機能を設定してカメラの前に小さなパネルを置き、自身は後方に座ると、自分の姿が画面に映らなくなるんです。そしてパネルの横に顔を突き出すと顔半分だけが映る。この機能を活用して左半分を男性メイクに右半分を女性メイクにすると、一人二役の芝居がオンタイムでできるんです。
他に、zoom は緑色を検出し、zoom の背景画面に置き換えることができるので、緑色の顔面マスクを装着して自分を消したり、緑のピーマンを使ったクイズをしています。ピーマン部分にだけ背景が映るようにして、ピーマンを素早く動かし、「映ったものはなんだ?」というクイズをしたりしています。
クイズと言えば、お話の中にいろんな動物を入れ込み(例:ありゃまこあらくまったなあ)、「何匹でてきたかな」というものも、子どもたちに人気です。

土坂:そんなクイズ仕立てのお話があると、子どもはしっかりと聞いてくれますね(笑)

鈴木:ただ本を読んでいるだけじゃ全然面白くないし、読み聞かせは YouTube でもいっぱいあがっていますよね。著作権を考慮するのと同時に、子どものそうぞう力(イメージもクリエイティブも両方)を刺激するようなものをしたいんです。
家の中を見てみると、「見立て」で遊べそうなものがたくさんありますよね。例えば、ボールペンを 2 本持って、「むかしむかしおじいさんとおばあさんがいました」ってするだけでも、子どもは想像力を膨らませることができます。「キッチン劇場・一寸法師」は題材そのものが、お椀を舟にし、針を刀にします。しかもこれって、オンラインの「枠」をフル活用できる表現なんです。リアルの舞台でやったら、前方にいる少人数にしか見せることができない。
オンラインでしか出来ないことでいっぱい遊べて、さらに、観終わった後も参加した子どもたちが、スプーンやフォークを使って見立て遊び、「劇ごっご」をしてくれたらいいなあと思っています。

田中:お話を諳んじながらライブペインティングをすると、参加してくれた子どももお話にあわせて一緒に描いてくれて、「できた!」って画面越しに見せてくれるんです。
他に私は身体表現も好きなので、「身近なものをダンスにしてみよう」というパフォーマンスで、家事、お料理・洗濯・お掃除などをダンスで表現し、みんなで踊ってみたりしています。

鈴木:私たちのテーマは「双方向」です。参加者がずっと画面の前でかたまっていないように、ゲームをいれたり、五感を使ったり。声をだしたり、描いたり、手をつかったり、、、。とにかく「受け身にならない」ということを大切に、プログラムを考えています。
参加している子どもの名前を呼んでみたり、クイズの時には一方的に答えを言ってもらうだけではなくて、「◎◎ちゃんが手を挙げているから、ちょっと待とうか」と意識を全体に持って行ったり。みんなが楽しめるよう、参加者ひとりひとりの様子をしっかりと見るようにしています。

土坂:だから、『あっとほーむ・シアター』では、夜のプログラムでも「顔出し参加」している家族が多いんですね、確かに私の娘も、クイズで当ててもらいたくって頑張って手を上げていました。みんなで一緒にリアクションするのも楽しかったみたいです。このあたりはYouTubeとの圧倒的な違いですよね。

鈴木:私たちは TV ドラマなどの「映像」の仕事をすることもあるけれど、元々「ライブ=舞台」で生きている人間なので、やっぱり、YouTube のような一方向性の強い取組みにはしたくなかったんです。映像と舞台の圧倒的な違いは、双方向性です。舞台では、観客のリアクションで作品がより面白くなったり、拍手ひとつでキャストが「もっと頑張ろう」と意気込んだり、まさに響き合っているんです。
『あっとほーむ・シアター』ではハプニングも起こりますが、私たちは舞台を土台に活動してきた役者なので、対処ができます。パフォーマーが対処できないときは、他のメンバーがすかさずフォローに入る。
これってもう、生の舞台にすごく近いと私は感じているんです。自分に何かあっても、共演者が絶対に助けてくれるという信頼感が根底にある。そこは、『あっとほーむ・シアター』ならではだと思っています。

子どもが描いた絵を使ったパフォーマンス

◆どこにいても、家族全員で参加できる「シアター」。

土坂:私は先日、娘と 2 人で参加したんですが、家族全員で参加している方もいらっしゃいました。実際の舞台を家族全員で観に行くことは難しいと思うので、これもオンラインならではだと感じました。みなさんどんな感じで参加されているのでしょうか。

鈴木:開始時にはお母さんは洗い物や家事をしていて途中から入ってきたり、クイズのときに子どもに呼ばれてきたりしています。お父さんがその場にいれば一緒に参加することも多いですね。画面には映っていないけど、足だけ映っていることも(笑)。

田中:そうそう。いつの間にか後ろの方におじいちゃんとおばあちゃんが参加していたり、 友達家族がひとつのおうちに集まっていたり、人が多くなっていることは多いです。「巻き込み型」と言えるかもしれません。後は、「旅先で観ています」とか「キャンプ場で観ています」という参加スタイルもありました。

薬丸:「子ども向け」だと思って、最初は子どもだけ参加させているんだけど、聞いていたら大人も楽しめそうだとわかって、参加してくださることが多いのかもしれません。次の回には、最初からみんな揃って画面前に座っていて、「あ、お父さん今日は最初からいるんだ」と驚くこともあります。

土坂:参加してみると確かに、家族が巻き込まれていく様子がよくわかりました。なんだかドリフターズの『 8 時だよ全員集合!』みたいな雰囲気ですよね。お茶の間に集まってみんなでTVを囲むようなイメージでした。

薬丸:そうです!私はそれを狙っていました(笑)

鈴木:子どもを「子ども扱い」せず、ひとりのお客さん、ひとりの人間としてみているところは、確かにドリフターズと共通しているかもしれません。

田中:私たちは子どもの現場に関わることもあるけれど、ずっと子どもに関わっているわけじゃない。大人向けのシビアな舞台をやることもあるし、エロティックな表現に挑むときもある。そのため、普段から幅広くいろんな表現や演出を試せているのかなと思います。

透明人間となってクイズを出す薬丸さんと、参加家族の様子

◆afterコロナはコラボレーションを基軸に

土坂:当初は緊急事態宣言下での「親子の息抜き」から始まりましたが、コロナ禍が終わった後の活動についてはどうお考えですか?

薬丸:まずは、この取組みを継続していくべきだと思っています。例えば介護が必要な方や入院している方でも気軽に観られるので、そういった方々にどうしたら広げていけるか、探っていきたいです。

鈴木:元々『あっとほーむ・シアター』をスタートするとき、病院にいる子どもたちにこそ届けたいという想いがあったんです。

土坂:コロナ禍だからやっているというわけではなく、コロナ禍が終わったとしても、劇場まで足を運ぶことができない人たちに、活動を届けていきたいということですね。

薬丸:演劇は東京など大都市中心になってしまっているので、地方に住んでいる方は観る機会そのものが限定されてしまっていると思うんですよね。この取組みには北海道から沖縄までいろんな方が参加してくださっているので、気軽に来られる「シアター」としてオンラインの場を守っていきたいと思っています。

鈴木:以前、『あっとほーむ・シアター』に参加された京都の方が、おにぎり屋さんとコラボした取組みを企画してくださったんです。最初におにぎりの絵本を読み聞かせてから、各家庭で炊飯スイッチを入れ、ご飯が炊けるまでの間に「キッチン劇場」というパフォーマンスをして、最後にみんなでおにぎりを作って食べるという取組みでした。
京都には素敵なお店やお寺がたくさんありますよね。そういったところと、どんどんコラボをしていきたいです。例えば、名所旧跡にまつわるお話をもとに見立て遊びの劇に仕立てて、オンラインツアーをすることもできます。お声掛けいただければテーマはなんでも OK です。作品作りから上演、ファシリテーションしていきます!

土坂:俳優ならではの表現力と「オンラインシアターならでのスキル」を活かすことで、これからは他団体とのコラボも増えていきそうですね。お話を聴いてみるとすごく可能性が秘められた取組みだと感じました。京都の NPO・市民活動と、どんなコラボレーションが生まれるのか、とても楽しみです。

「あっとほーむ・シアター」のことは、NPO スポットライト第 15 回でご紹介した 熊倉聖子さんから教えていただきました。
以前より主にネットでの情報発信を主事業とする団体はありましたが、実際的にイベントなど「活動の場」をオンライン上にて行う団体は、コロナ禍だったからこそ出てきたものではないかと思っています。

「あっとほーむ・シアター」は地域の拠点を持ちませんが、だからこそ、どこの地域の方ともコラボレーションができる可能性があると感じました。
新しいカタチの活動が、今後どのように発展していくのか、私も興味津々です!

あっとほーむ・シアター 

◆鈴木 佳由 さん(すずき かゆ 俳優)
演劇集団円の俳優、朗読家。0 歳から 100 歳までたのしめる朗読がモットー。コロナを機に対面でやっていた朗読会、レッスン、子どもワークショップ等のオンライン化を開始。自作の切り絵紙芝居による紙芝居朗読を YouTube に UP している。

◆田中 夢 さん(たなか ゆめ 俳優)
演劇やダンス、映像分野で活動中。大学や保育園でワークショップのファシリテーターなども実施。2019 年立教大学映像身体学科卒業。学科スカラシップを得て育児と俳優活動をテーマにしたドキュメンタリー映画を制作。

◆薬丸 夏子 さん(やくまる なつこ 俳優)
子どものころにバレエを習ったのをきっかけに舞台での表現に魅了される。現在は演劇集団円に所属。8 歳男児と共に成長中。

※ 個人の肩書や所属する団体は、執筆時点 (2021年9月) の情報です。

団体名 あっとほーむ・シアター
代表者 鈴木佳由、田中夢、薬丸夏子
Web サイト https://onlinereadinginfo.wixsite.com/athometheatre
Facebook https://www.facebook.com/athometheater

この記事の執筆者

名前 土坂のり子

京都市市民活動総合センター チーフ事業コーディネーター



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