活動を続ける中で感じる変わらない楽しさ、広がる喜び

掲載日:2021 年 10月 29日  


 昨年から続くコロナ禍をきっかけとして、「子どもの体験活動」がとても重要だと再注目されています。2020 年 4 月に緊急事態宣言が発令され、学校や幼稚園が一斉休校となる中、専門家から「子どもたちの学習や体験の機会を奪うことは長期的なデメリットが大きい」と提言がなされるようになりました。子どもも親も長引く「ステイホーム」に限界を感じていた状況もあり、2020年の初夏以降は、感染症対策を工夫しながら、体験活動やキャンプを実施する団体が見られるようになりました。
 体験活動では、参加する子どもたちは保護者や兄弟と離れ、日常とは異なる環境で日常にはない様々な経験をします。そのためには、大学生や高校生をはじめとするボランティアスタッフも、様々な個性を持つ子どもと関わり、その時々で変化していく天気に応じてプログラムを調整し、臨機応変な対応が求められます。つまり、スタッフとして関わる青年にとっても、自分を成長させることができる絶好の機会なのです。

 京都子どもセンター青年部 KAMONASU が実施する「無人島一週間チャレンジキャンプ」は、社会人になっても「大人未満」と思っている人であれば、スタッフとして参加し続けることができます。

 今回は、京都子どもセンター青年部 KAMONASU の体験活動にスポットライトを当てて、高校生の頃から社会人になった現在もスタッフとして参加している、梅下かんのさんにお話を伺いました。

このページのコンテンツは、NPO 法人 京都子どもセンター 梅下 かんのさんにスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

 しみセンが梅下さんに取材するのは、実は 2 回目です。1 回目は NPO やボランティア団体で活動する人の声を紹介する「ボランティアスイッチ」でお話を伺いました。
 その時に話していただいたのは、京都子どもセンター青年部 KAMONASU の活動へ参加する中で、ひとつひとつのことを妥協せずに、大事に話し合っていく姿勢の重要性や、その準備があるからこそ最高のキャンプができることなどを実感したこと。そして、京都子どもセンター青年部 KAMONASU が実施している事業で、東日本大震災を学ぶ「KAKEHASHI」に参加したことで、新聞やテレビを通して知っているつもりのことがとても浅く表面的だったという気づきを得たこと。自分の想いから行動するだけでなく、思いに幅を持たせ、思いを膨らませて形にしていくために、大学で理論や方法を学びたいという夢についても語っていただきました。

 前回の取材から 7 年。大学生を経て社会人となった梅下さんは、現在も引き続き京都子どもセンター青年部 KAMONASU の活動へ参加しています。学生から社会人への変化や、長く活動する中で経験を積み重ねてきたことを通して感じたことなどをお伺いしました。

「楽しそう」がきっかけとなり活動を開始

久内:京都子どもセンター青年部 KAMONASU の活動へ参加したきっかけを教えてください。

梅下さん:京都市福祉ボランティアセンターの HP で京都子どもセンター青年部 KAMONASU の「無人島一週間チャレンジキャンプ」のボランティア募集を見つけ、「楽しそう」だと思ったのでスタッフ会議に参加しました。そこでは、1 週間のキャンプを成功させるために、スタッフ自身がやりたいことや子どもたちと一緒にやりたいことをどう実現するかについて話し合っていました。1 週間のキャンプを成功させるために何をやるのか、危険なことは無いか、どうすればもっと楽しくなるのかを、ゼロからみんなで話し合って作っていることが新鮮で楽しく感じ、現在も活動を続けています。

 京都子どもセンターは 1989 年に「京都府親と子の劇場協議会」から始まります。「京都府親と子の劇場協議会」では、京都府内 13 地域の「親と子の劇場」、「おやこ劇場」のネットワークを作り、京都府全体での活動作りを進めていました。
 1999 年に、より公益的な子どものための活動作りを目指して「京都子どもセンター」となり、現在も活動を続けています。
 京都子どもセンターは、子どもたちが社会体験や社会参画の機会をひろげ、のびやかで豊かな「子ども時代」を過ごす事ができる環境づくりを目指して、「青年部 KAMONASU」や「おやこ狂言」などの事業を実施しています。

※ 親と子の劇場運動
 テレビをはじめとする間接的な経験に偏ることで子どもたちが生で感じる感動が薄くなったという危機感から、特に生の劇を見る機会が少ない地域で、子どもたちに劇を見せたいと会員制の組織を作ったことが始まり。子どもたちが優れた舞台芸術や文化にふれる機会を継続的に持つことを目指し、活動を行っています。

 「青年部 KAMONASU」は京都子どもセンターの事業の一つであり、チームの名前です。「みんなでつくる」ことを大切に、「無人島一週間チャレンジキャンプ」や「KAMONASU 大運動会」、「東日本大震災を学ぶ KAKEHASHI」をはじめとする、子どもを主体にした様々な事業を実施しています。参加するスタッフは、「高校生以上 “大人未満”」な幅広い年齢層の人たちです。

梅下さん:子ども以上大人未満の幅広い年齢層の人たちが集まるからこそ、学ぶことや感じることは多くあります。いろいろな年齢、様々な考え方のメンバーが「スタッフ」という同じ立場で一つの目標を達成するために真剣に話し合っていることや、それぞれが「やりたい」と思うことを一緒にやっている場ということが、私にとっては魅力的です。

 彼らが企画・運営する「無人島一週間チャレンジキャンプ」は、スタッフと子どもたちで一つの班を作り、班ごとで活動をしたり、全体でプログラムを実施しながら、無人島で夏の1週間を過ごします。
 キャンプの内容は毎年同じ企画を実施するのではありません。年ごとに異なるテーマを設定し、それをもとに、一からみんなで決めながら作ることを大切に、それぞれがやりたいことを出し合って計画を立てていきます。そのために、朝から晩までに及ぶ長時間の会議を積み重ねるのです。
 2021 年のテーマは「世界一周」。日ごとにテーマとなる国を決め、無人島でテーマの国のご飯を作って食べたそうです。別の年には、段ボールにアルミを張りピザ窯の代わりとしてピザを焼いたとのこと。
 自身のことを「大人未満」だと感じている人たちが集まることで、子どもたちと同じ目線で、子どもたちだからできることを、子どもたちに体験してもらうために考えることができるのだと感じました。

班の中に入ることで見える一面と本部スタッフだから見える一面

久内:大学生までと現在で、スタッフとして活動する中で変化したことなどありますか。

梅下さん:学生の時はスタッフでも「班付き」として、1 週間ずっと同じ班で、子どもたちと一緒に過ごしていました。
 参加する子どもたちの中にはキャンプの 3 日目~ 5 日目まで、寂しくて泣く子もいます。しかし、最後の夜まで泣いていた子はいませんでした。終わりまであと 2 日といったゴールが見えるからなのか、環境に慣れたからなのか、楽しいことを見つけたからなのか、理由はわかりません。
 「班付き」の時は子どもたちの変化や強さを間近で感じることができて、それがなんだか「家族みたいにぎゅっとなる」という感覚だったんです。

 現在もスタッフという点では変わりありません。しかし、一昨年から社会人となり、1 週間まとまった休みが取れないため、「班付き」として 1 週間を通してキャンプに参加することが難しくなりました。そのため、仕事が休みの日、1 日~ 2 日だけ無人島へ行き、サポートする本部のスタッフとして「無人島一週間チャレンジキャンプ」に参加しています。

久内:学生の頃と現在で活動への参加の仕方が変化したと伺いました。活動の中で見るポイントにも変化があったのでしょうか。

梅下さん:現在は 1 週間ずっといられるわけではないため、子どもたちと「ぎゅっとなる」ことはできなくなりました。
 しかし、本部のスタッフとして参加することで、スタッフや全体の子どもたちのことがよく見られるようになりました。スタッフに対して「こういうところがかっこいい」、「まねをさせてもらいたい」といった憧れる部分を見つけたり、班についていた時に見えていた部分とは異なる子どもたちの一面が見えたり、今年は小学4年生が多いなどの全体的なメンバーの雰囲気などを見ることができるのは、「班付き」ではなく本部のスタッフだからこそだと感じています。

 「ボランティアスイッチ」でしみセンが梅下さんを取材したのは 7 年前。その頃からスタッフとして活動していた梅下さんですが、活動を続けるからこそ出会えた嬉しいこともあるそうです。

梅下さん:「班付き」のスタッフとして活動していた大学生の時に、同じ班になった当時小学 4 年生の子が、成長して高校生になりスタッフとなってキャンプの企画・運営に参加してくれました。同じ立場で話し合いができる関係性になったことは今年とても楽しかったですし、こういったことが増えてきたことで、長く続けているのだと実感しました。
 「無人島一週間チャレンジキャンプ」はスタッフと参加者全員で作り上げます。しかし、参加者とスタッフという異なる立場でキャンプに参加するのではなく、同じスタッフとして企画を練る段階から一緒に考えたり、意見を出し合いながら活動できたことがとても嬉しかったです。

変わらない楽しさ、変わる楽しさ

久内:梅下さんは現在、障がい者の入所施設で働いていると伺いました。仕事をしながらボランティアにも参加されていますが、それらを両立するのは大変ではありませんか?

梅下さん:私にとって KAMONASU の活動は楽しいことであり、KAMONASU に参加すること自体が好きなので、休みの日はなるべく KAMONASU に参加したいと思っています。ボランティアと仕事を両立しているというより、休みの日に遊んでいる感覚です。

 以前取材したボランティアスイッチでも、「ボランティアというよりは、遊びや趣味のように好きなことをしている感覚」と話していた梅下さん。
 キャンプのスタッフについても当日の関わり方や会議へ参加できる回数など変化している部分はありながらも、企画作りや毎週の会議が楽しいという思いは変わらずあり、企画作りで頭を突き合わせながらどうやっていくかを考える部分への関わり方にも大きな変化はないと感じているそうです。
 活動の仕方、参加の仕方に変化はあっても、根底にある楽しさや活動の魅力は変わらずあり続けるようです。

 取材の中では、ボランティアを通して身についたことやボランティアをやってきたからこそ役立っていることが無いかについても質問してみました。
 梅下さんは「活動の中でいろいろなことを学ばせてもらって、感じて、考えさせてもらっていると思う」と話されていました。だからと言って、京都子どもセンター青年部 KAMONASU で学び、身についたことが何かという問いについては具体的な答えが見つからないのだそうです。しかし、京都子どもセンター青年部 KAMONASU の環境やそこで出会った人などを通して、今の考え方や判断基準の根拠の大部分が出来上がっているとおっしゃっていました。
 活動を通して経験したことや出会いが自然と身につき、実践につながっていることがとても素敵だと思いました。そして、京都子どもセンター青年部 KAMONASU との出会いは梅下さんにとって、ご自身が変化していくための大きなきっかけだったのだと感じました。

 ボランティア活動へ参加することで、学校では学べない社会課題の実情が見えるのもボランティアの魅力だと思います。しかし、それだけではなく、活動を通して新しい人と出会い、今までの自分では気づかなかった考え方を知るなど、自身を大きく成長させるきっかけとなることも大きな魅力ではないでしょうか。


今回スポットライトをあてた団体・個人

NPO 法人 京都子どもセンター 梅下 かんの (うめした かんの) さん

1995 年生まれ。
2012 年より京都子どもセンター青年部 KAMONASU で活動する。
重度身体障害者入所施設勤務。

※ 個人の肩書や所属する団体は、執筆時点 (2021年10月) の情報です。

団体名 NPO 法人 京都子どもセンター
Web サイト https://www.kodomo-doki.org/

この記事の執筆者

名前 久内 美樹

京都市市民活動総合センター 事業コーディネーター



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