障がいを持つ人が「本」になる。「本」と「読者」の対話から生まれる新しいまちづくりのかたち。

掲載日:2024 年 11月 29日  


市民活動において「まちづくり」は主要なテーマの一つであり、多くの市民団体が取り組まれています。これ自体は多くの成果を生んできましたが、障がいを持つ人がその活動に主体的に加わることによって障がい者目線をまちづくりに取り込んでいこうという動きはこれまでなかなか見られませんでした。今回のNPOスポットライトにご登場いただくのは『エイブル・パフォーマンス集団「ガラ(柄)」さん。障がい者自身が主体となって、障がいをもつ人たちの才能や個性、経験を活かしたインクルーシブなまちづくりに取り組んでいる団体です。
お話を代表の遠藤 喜生(えんどう のぶお)さんにうかがいました。

このページのコンテンツは、エイブル・パフォーマンス集団「ガラ(柄)」 にスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

団体の名前がユニークですね。どのような意味を持つのでしょうか。

“がら”という言葉は、柄がいいとか悪いといったような人の質(たち)を表す時に使われることもありますが、一般的には着物や紙などの色や模様のこと(色柄)をいう時によく使われます。私たちの団体では後者の、さまざまな個性があたかも柄模様のように一つひとつが合わさって全体を構成している、といった様を表しており、それぞれの特性をいかんなく発揮していこうという意味でこのようにネーミングしました。

障がいを持つ人が主体的に取り組む活動とはどういった活動でしょう。

私たちの団体は障がい者自身が中心となり、その活動をサポートしてくれる地域住民の人たち、そして専門的な立場から支援してくれる学識経験者によって構成されています。 “当事者のための活動”からさらに歩を進めて、当事者自身による活動を展開していくためには、障がい者と健常者が、また障がいの種別も超えてお互いが学び合い、交流するような機会が必要と考えています。そのためのプログラムを開発し取り組んでいます。私たちが取り組んでいるプログラムをいくつかご紹介します。

1.「人間図書館(ヒューマンライブラリー)」



「人間図書館」は文字通り人間が「本」となって読者である参加者に自身の経験を語り、対話を進めるプログラムです。これは私たちのオリジナルな取り組みではなく、全国にこの取り組みを行っている団体があります。様々な障がいや経験を持つ人があたかも書棚に並ぶ本のようにブックリストを構成し、参加者はその中から「本」である語り部を選び、その話を聞く、という催しです。ガラにはこの「本」となって活動する人が20人ほどいます。これまでに実施した人間図書館のイベントには、さまざまなブックタイトルが並んできました。その中からいくつかの本について、あらすじをご紹介します。

㋐「東日本大震災がなかったら」 2011年3月11日に発生した東日本大震災、あの日にもし、地震と大津波が来ていなかったら、私はどんな人生を送っていたのか、ふとそんなことを考えるときがあります。震災が起きてよかったなんて言えませんが、震災のおかげで気が付いたこと、学んだこと、出あえた人などがたくさんあります。震災を経験した私がどのような思いでこれまで過ごしてきたのか、お話をしたいと思います。

㋑「病気が私に与えたもの」 小学3年生の時、私は起立性調節障害と診断された。中学は3年間通えず、高校は夜間高校に進学した。朝は体調が悪く、昼から元気になる。そんな病気だから仮病と言われることもあった。大学生になった今、私には病気がきっかけで出会えた人、出会えた環境がある。病気で苦しむこともあったが、病気が私に与えたものもあった。病気=つらいことだけじゃないことを伝えたい。

㋒「『きょうだい』を知った日~障害のある弟の姉としての私~」 「弟は話せないけれど…」弟の存在は、私の人生の中で必要不可欠です。皆さんは「ヤングケアラー」や「きょうだい」という言葉を知っていますか?周りにいますか?「きょうだい」である私が “弟のせい” と “弟のおかげ” で得ることができた、社会人になるまでの経験や葛藤、夢についてのお話。

2.「知っ得・講座」

これは講座のタイトルにあるように、障がい者が講師を務める “まなびの場” です。堀川商店街の中にある、学びと本とアートをキーワードとしたスペース「knocks!horikawa(ノックスほりかわ)」を会場に、今年4月から始めたプログラムです。 障がい者のこと、病気のこと、悩みなどについて一般の人を対象に、教科書では教えてくれない、知っておいたら得になる豆知識という趣旨で開催しています。

3.「脱力系交流会」

“脱力系” という言葉は、京都文教大学のイベント「脱力系フェスタ」に因みます。このフェスタは、障がいや病を持つ人たちと学生や住民がさまざまなパフォーマンスをともに楽しむことを目的に開催されていたもので、ガラもこのイベントの企画運営に参画していました。文字通り、心からリラックスして気軽に語り合い、学び合おうという催しです。障がい者の個性や才能を生かした「脱力系アート☆パフォーマンス」や、生活経験から得た知識や工夫を語る「脱力系まちカレッジ」などと「ゆるい交流会」を一緒にしたイベントです。



これらの定例のイベントの他、個別のテーマによる催しも実施しています。 “障がいインクルーシブな防災活動” としたオンライン防災ワークショップでは、障がい当事者から災害時の不安を発信して、さまざまな立場の人たちを交えて災害が起こったときの対応を一緒に考えるという取り組みを行いました。その他には、 “ユニバーサルツーリズム” や “交通バリアフリー” をテーマとした活動なども行っています。


最後に、読者の方へのメッセージ

体調や移動手段のことなど、障がいや病気を持つ者自身では解決できない課題も多くあり、自分たちの目線での活動を続けるとは言っても、多くの人のご協力をいただくことが必要です。私たちの活動にご理解とご支援をお願いするとともに、こうした私たちの活動を街中で見かけられることがあれば、気軽にお声がけいただきたいと思います。


今回スポットライトをあてた団体・個人

エイブル・パフォーマンス集団「ガラ(柄)」 遠藤 喜生 (えんどう のぶお) さん

団体名 エイブル・パフォーマンス集団「ガラ(柄)」
代表者 遠藤 喜生(えんどう のぶお)
団体について

障害者の才能や個性を生かしたインクル―シブなまちづくり活動を行う任意団体です。
心身等の障害者と、そのサポーターの住民や学識経験者ら計23名の会員で構成されている結成5年目の団体です。
障害者が主役の交流会や講演会等を子どもからお年寄りまでの住民を対象に開催することを通して、障害の有無や障害種別を超えて住民同士が楽しく学び合い、交流できるような活動を展開されています。

電話 090-1589-1259
メール gara01ap@gmail.com

この記事の執筆者

団体名 京都市市民活動総合センター
名前 近藤 忠裕

事業コーディネーター



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