皆さん、子ども新聞と聞いてどんな新聞をイメージしますか。多くの方は小学生向けに記事をやさしく解説し、たくさんのマンガとイラストがある「子ども向けの新聞」を想像するのではないでしょうか。新聞も、子ども新聞も、大人の記者が書くものだと思われがちですが、「子どもの目線」を大切にして子どもたちが記者になって取材をし、記事や絵をかく「子ども新聞」があります。
今回は、「子ども新聞」を作るワークショップを開催している “ inote+P (あいのてぷらすぴー) ” の服部加奈子さんにお話を伺いました。
※この記事では、大人が書いた子ども新聞と区別をするために、子どもが主体的にかかわる子ども新聞を「子ども新聞」と表記します。
服部さんは 2022 年に活動を始め、これまでに「子ども新聞」を 33 回も発行されています。そもそも、「子ども新聞」を作るとは、どのようなものなのでしょうか。そして、子どもが「新聞を作る」ことの意義は何でしょうか。
はじめに、新聞を作るためには、取材先を見つけ、取材をし、記事を書き、編集するという一連の過程があります。 「子ども新聞」では、取材先は大人の服部さんが探して交渉をしますが、当日の取材は「子ども」が記者になって地域や企業の方にお話を直接聞きます。当日は子どもたちが聞きたいことを聞けるように、服部さんは場を作り、一緒に取材をする「ジェネレーター (場の盛り上がりをつくる人) 」として参加します。子どもたちは質問の仕方等を事前に学習したうえで、思ったことを口に出して取材をします。取材先は地域に根ざしている町工場や、出版社、信用金庫など、業態も規模も様々です。時には子どもの声を反映して、取材先を企画することもあります。
取材のスタイルは他に 2 つあります。
地域で開催されているマルシェでは、取材ミッションが記されたカードをボックスから引き、そこに記載された質問を出店者に聞きにいくスタイルを用いています。
伏見区の子ども食堂と連携した取組では、地域の方を子ども食堂へ招いて取材をしたりするそうです。
この「子ども新聞」を作るワークショップには、小学 1 年生から小学 6 年生までの子どもが毎回約 10 名参加しています。見出しや記事は、子ども記者に書いてもらいます。服部さんは その記事や取材メモの表現をできるだけそのまま活かして、服部さんが編集長となり記事を仕上げます。 文章を書くことが苦手な子ども記者には、絵を書いてもらうなど、それぞれの得意なことを活かして新聞づくりに参加できるようにしているそうです。
学校の授業の一環で取り組む新聞づくりは、子どもが本や、インターネットを使って「調べて、まとめ、書く」学習であることが多いですが、「子ども新聞」では直接人と会って、「対話」することと、「探求」することを大切にしています。
子ども記者は、大人だと聞くのをためらうようなことを聞いたり、思いもつかないような質問をします。例えば、信用金庫を取材した際には「どうしたら、銀行強盗が成功できますか?」と単刀直入に質問したというエピソードも。
子どもは、大人であれば聞くことが憚られるようなことでも遠慮なく質問します。率直で思いがけない質問に、大人はたじろぎながらも、真剣にどうすれば成功するかを考え、真摯に答えます。服部さんは、このように子どもと大人が対話をすることで、「おとなの四角い頭を柔らかくし、やさしい社会を作りたい」と言います。
実際に現場に行き、匂いを嗅いだり触ったり五感を働かせ、人の温度を感じながら対話をすることで、本質的な「わくわく」を感じること。服部さんはこの「わくわく」こそが生きる原動力になると考えていらっしゃいます。「子ども新聞」で取材することを通して「地域の中にわくわくがたくさんある」ことに気づいてほしい、服部さん自身も「わくわく」しながら、子どもたちと日々関わり、子ども新聞を作っています。
服部さんは、「子ども新聞」を作るワークショップを無料で開催しています。取材先企業との交渉や記事作成、印刷代など様々な経費と時間がかかりながらも、参加費を無料で実施するのは、「体験格差をなくしたい」というという想いがあるからです。親の収入や家庭の事情など「子どもたちが自らの力で変えることのできない環境的要因によって、やりたい体験をあきらめざるを得ない現状がある」いつの世も変わらない社会の現実ですが、「体験格差の重み」は、今、大きな社会的課題として注目されています。
「子ども新聞」ワークショップでは、体験格差が生じないよう、開催する都度に参加者を募っています。習い事のように毎回同じ人が参加するのではなく、地域にいる様々な子どもが体験できるように工夫しているのです。
服部さんは「子どものやりたいことは、経験したことからしか生まれない」と語ります。「子ども新聞」で取材をすることで、さまざまな人の生き方を知り、そこで実際に体験をすることで、子どもの将来の選択肢を増やしたい。子どもの夢と未来をつくりたい、そんな想いが服部さんを奮い立たせているのです。
体験格差とは
日本では 2008 年に「子どもの貧困」に注目があつまり、その過程で「体験格差」にも注目が集まるようになりました。子どもの教育格差・体験格差問題に取り組むチャンス・フォー・チルドレンは、「世帯年収 300 万円未満の家庭の子どもの、学校外の体験活動にかける年間支出は、世帯年収 600 万円以上の家庭と比較して 2.7 倍の差が生じている。*注 2」と明らかにしています。
*注 2公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンからの引用
服部さんが「子ども新聞」を作ろうと思ったきっかけは、「子どもたちが、高齢者になったときに心寂しく感じるのではないか」と感じたことでした。服部さんは高齢者福祉の仕事を 20 年近くされています。高齢者福祉の現場で多く聞いたのは、「あの人に会いたい」「最後に〇〇さんと話したい」という言葉。過去の人のつながりや思い出をお話しされる方がたくさんいらっしゃったそうです。人生の最終章を迎える 200 人以上の先輩から服部さんが学んだことは、「人とのつながり」が人生の幸福につながるということでした。
けれども、今の子どもたちはスマートフォンやインターネットが当たり前の時代を生きています。人と会わずとも、生活できるようになっているのです。便利になった反面、人とのつながりが希薄になり、直接人と会って話すことを煩わしく感じる人が増えているのではないか。今いる子どもたちが、高齢者になったときに心寂しく感じるのではないか。切なさを感じていた時、他の地域で「子ども新聞」を作っている方と出会い、この取り組みを京都でもはじめよう、とエンジンがかかったそうです。
服部さんは「子ども新聞」というツールを通して、子どもだけでなく、保護者にも様々な人とつながってほしいと願っています。人が関わり合うことで「わくわく」し、子どもも、保護者も幸せに生きてほしいと思っています。
編集後記
服部さんは、「子ども新聞」の取り組みをさらに広めるために、京都市市民活動総合センターが主催する市縁堂2024に参加していらっしゃいます。市縁堂は、「聴く・話す」ことにかかわる京都のNPO・市民活動団体の活動を多くの方にお知らせし、寄付等による応援を広く集める取り組みです。服部さんは、この取り組みを通して、子どもの体験格差をなくしていくだけではなく、「子ども新聞」を地域の高齢者宅に高齢者が手渡しで届けることで、会話のきっかけをつくたい。そのために発行部数を増やしていきたいと仰っていました。「子ども新聞」を通じて、人と人とがつながり合い、街の中にたくさんのわくわくが広まっていく、これからが楽しみです。
寄付先の口座情報は市縁堂の特設サイトをご覧ください。
inote+P (あいのてぷらすぴー) 代表
団体名 | inote+P (あいのてぷらすぴー) |
---|---|
代表者 | 服部加奈子 |
団体について |
京都を中心に、子どもたちによる新聞づくりをしています。子どもたちには、大人に「聴いて・話して」取材することを通じた『わくわく』する体験や生涯にわたって残る思い出を提供しています。子ども新聞は地域の方に無料で配布し、地域での交流に役立てています。 |
メール | inoteplusp@gmail.com |
Web サイト | https://kyoto-kodomo-shinbun.my.canva.site/ |
https://www.instagram.com/inote_plus_p |
名前 |
松浦 旦周 事業コーディネーター |
---|