うまくいかないことを、ほっとかない

掲載日:2024 年 8月 30日  


 不要になったベビー用品や子ども用品の処分に困る方も多いのではないでしょうか?これらのリサイクルを目的とした「ベビー&キッズ用品交換会(以下交換会)」を京都市内の様々な地域で開催している取組みがあります。子育て中のお母さん達が、集い交流する憩いの場にもなっているとうかがいます。その活動を運営しているのが今回取材したAt-Kyoto(アットキョウト)の武田みどりさんです。
 At-Kyotoはもともと、ダウン症のある人と一緒に歩く、世界的なチャリティーウォーキングイベント「バディウォーク®」を京都で開催する為に結成されたチームでした。さて、この活動が、どのようにして子育て中のお母さん達の憩いの場へと繋がり、様々な地域で展開されるに至ったのでしょうか。今回はその経緯について伺いたいと思います。

このページのコンテンツは、At-Kyoto にスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

At-Kyotoを立ち上げたきっかけ

 きっかけは、武田さんがダウン症のある子どもを授かったことで「どう育てたらいいか」「どんな未来が待っているのかわからない」と途方に暮れる中、周囲に同じような状況にある人がいるのかも分からず、孤立感を感じたことでした。インターネット検索をするとネガティブな情報も出てくる中で、我が子が安心して過ごせる「排除しない社会」を広めるべく、ダウン症のある人や子育て家族の周りに、理解者や知り合い・顔見知りを増やす事を目標に、2014年にAt-Kyotoを立ち上げ「バディウォーク@京都」をスタートさせました。

「バディウォーク®」とは

 1995年10月に全米ダウン症協会(NDSS)が「ダウン症啓蒙月間」の一環としてニューヨークで始めた活動です。現在は全世界約300カ所以上で開催されている活動で、ダウン症者もそうでない人も、ともに参加できる世界的なチャリティーウォーキングイベントになっています。ダウン症への理解と受容、社会的な平等を促進することが目的の、誰もが参加できる1マイル(約1.6km)の行進で、健常者もダウン症者も区別なくお互いを尊重しながら歩く心あたたまるイベントです。

 京都下鴨神社糺の森を最初の会場として始まったバディウォーク@京都は、その後会場を平安神宮前の岡崎公園に移して、誰もが楽しむことがきるオープンなイベントにするために、会場には地元のお店の出店や様々なアーティストによる演奏や表現、舞台など、バディウォーク®以外も盛り込んだ内容にするなど、毎年続けて今年で10年になります。

 また、At-Kyotoでは、バディウォーク®の他に、ダウン症について知ってもらうための啓発活動や、同じ状況にある家族が迷うことなく過ごすために支援をするピアサポートにも取組まれています。

 立ち上げ当初は、At-Kyotoを10年続けるとは考えておらず、続けていく中で関わる人々の後押しや、毎年楽しみにしてくれているダウン症のある家族の声を支えに続けてこられました。続けていく中で様々なことがありました。その中でも、自身がこうあるべきだ!と振りかざしているときほど、物事はうまくいかず、関わってくれた方に委ねることで、様々な提案が溢れ出てくるようになり、関係者がどんどんと増えたのだと。また、At-Kyotoの活動を通して「排除しない社会」を広めることは、ダウン症だけでなく、障がいの種類や有無、国籍に関わらず、老若男女全ての人にとって「生きやすい社会づくり」へとつながることに武田さんは気づいたと話されています。

民生委員・児童委員との出会い

 バディウォーク@京都をスタートして約4年、子どもが小学校に入学する時期を迎えました。家から遠く離れた療育園に通っていたこともあり、近所に同級生が居ない我が子のためにも学校に関わっておくべきと考えた武田さんは、積極的にPTAに参加されました。その活動の1つ、「本の読み聞かせの会」の集まりの場で、自己紹介をしていたときにとある人物が気になりました。その方は、武田さんの家庭状況の話に対してよく反応し、優しい言葉をかけてくれる方でした。隣の学区の民生委員だということを知った武田さんは、その時にはじめて民生委員・児童委員(以下、民生委員)の存在を知ったのです。 武田さんの住んでいる地域の小学校は、隣接する2学区を対象とした学校だったため、隣の学区の方との交流も活発でした。

 At-Kyotoでは、関係者づてや、イベントなどで出会ったダウン症のある子どもを持つ家庭のピアサポートを主に行なっていましたが、どうすれば幅広く支援できるのかをこれまで考えていました。地域のセイフティーネットとしての立場にある民生委員の存在に衝撃を受けたと聞きます。

これをきっかけに、自身が住む地域の中で活動する民生委員に興味を持つようになった武田さんは、居住地域で次期の委員選出が行われていることを聞き、率先して手を挙げました。民生委員には、「民生委員・児童委員」と「主任児童委員」の二つがありますので、主任児童委員を希望し活動することになりました。

民生委員・児童委員

 厚生労働大臣から委嘱された非常勤の地方公務員で、地域住民の生活や福祉に関する相談・支援を行います。彼らは子育てや介護、障害者支援など、地域の福祉全般に関する活動を担当し、住民と行政を結ぶ役割を果たしています。

主任児童委員

 民生委員・児童委員の中から厚生労働大臣に指名され、地域の児童福祉に特化した相談・支援を担当します。特定の区域は担当せず、児童委員の活動をサポートし、関係機関との連携を図ります。

政府広報オンライン ご存じですか?地域の身近な相談相手「民生委員・児童委員」

民生委員・児童委員、主任児童委員の活動内容からの引用

スタートで転んでも

 民生委員の存在に感動し、「地域のセーフティーネットになるのだ!」と意気込んで地域の民生委員会の一員となりました。しかし、地域の事情やお互いのことを理解できていない中で、出し抜けに思いの丈を伝えてしまった武田さん。突然地域の中に入ってきて、新しい取り組みをスタートさせようとした事に驚かれ、身構えられてしまいました。当初そのことに気づかなかった武田さんは、「いいことを提案したのに、なぜわかってくれないのか?」とショック受けたと話されています。そんなヤキモキした気持ちを支えてくれたのが、自分の話を聞いて優しい言葉をかけてくれた民生委員の先輩や地域の人々と、バディーウォーク@京都に一緒に取り組んできた仲間たちの存在でした。「やろうとしていることは大事なことだから。焦らず行動を続けていれば、そのうち理解してもらえる。」と気持ちを落ち着かせてくれたと聞きます。その中で、At-Kyotoを立ち上げたときに「排除しない社会」を目指していたことを思い出し、今の自分こそ、「うまくいかないと遠ざけている。」つまり排除していることに気がついた武田さんは、「うまくいかないことは、ほっとかないことが大事なのです。」と。

「自分にできることはなにか」民生委員と市民活動それぞれの強みを活かして

 しかし主任児童委員になったその翌年に、世界中を巻き込んだ新型コロナウイルス感染症の蔓延により日本国内で緊急事態宣言が発令されました。ありとあらゆるコミュニケーションが制限されるなか、各自治体から地域団体に対しても活動に制限がかかりました。様々な施設が閉鎖され人々が孤立する状況に、武田さんは、自身が孤立した時のことを思い出しました。子育て中のお母さんがどこにも頼ることができない状況にあることが気になり、「主任児童委員として自分にできることは何か?」を考え続けました。そして1年経った頃に行動を起こします。

 その年も、地域全体の活動や、行政関係の施設、民生委員の行動などへの制限が続いていました。そこで武田さんは、市民の活動として動けば状況を打開できると判断し、いらなくなったベビー用品や子ども用品の交換会を通して地域のお母さんたちとつながる機会を、At-Kyotoとしてつくりました。交換会は外でも開催可能なため、“三密”を避けた場として開催することができました。また、交換会をスタートするにあたって武田さんは、「上京区民まちづくり活動支援事業を通した区のサポートや区社協、地域支え合い活動創出コーディネーター、主任児童委員としてAt-Kyotoとして繋がってくれた様々な人々のバックアップなしには、実現できませんでした。」と。

 武田さんは、交換会においてある時はAt-Kyotoとして、場合によっては主任児童委員として、立場をうまく活用することで、来場したお母さん達の困りごとに対応しました。当時行き場をなくしていた子育て中のお母さんにとって、子育ての相談から子どもの服まで、同じ境遇にある母親同士が知り合えると大変好評でした。バディウォーク@京都を通じて繋がった人達が、自分たちが活動している地域でも開催したいと話が広がり、さらにまた別の方によってその先、またその先へと活動はどんどん広がっていきました。また、主任児童委員のつながりを通じて隣の学区へと広がりを見せ、想定以上に様々な地域で開催されるに至っています。

 その後、武田さんの居住学区の人々にも、活動の話が伝わるようになり、交換会の開催希望が居住学区からでてくるなど、気が付けば就任当時に作ってしまった不安な状況から、少しずつ理解が広がっていくのを感じていると伺います。現在は、上京区、左京区、東山区、伏見区の4つの区の8か所で開催されるようになり、始まりは7名の参加でしたが、今では30〜40名の方が集まる交流の場として運営されています。

編集後記

 今回は、市民活動と地域の連携という視点で、武田さんにお話を伺いました。
 武田さんのこれまでの市民活動によって育まれた思いと経験と、主任児童委員というそれぞれの立場をうまく活用できたお話になります。しかし、その結果を出すまでには、大変苦労があったとお聞きしております。長く活動してきた組織に、新しい提案をすることは、どんな組織においても、そう簡単には話が進まないものです。その時、そこにいる人達によっても、タイミングが違っても進め方や反応は様々だと思います。
 「地域連携におけるベストプラクティスを教えて欲しい。」と相談を受けることはありますが、なかなか一括りでは言えないと考えています。しかし、今回の取材を経て言えることは、地域連携におけるベストプラクティスは武田さんの言葉にもある「うまくいかないことを、ほっとかない」。すぐに対応できなくても、向き合う気持ちを忘れない。正にこれではないでしょうか。


今回スポットライトをあてた団体・個人

At-Kyoto 武田みどり (たけだみどり) さん

代表

団体名 At-Kyoto
代表者 武田みどり
団体について

 At-Kyotoは、ダウン症啓発活動バディウォーク@京都、ダウン症のある家族へのぴあサポート、ベビー&キッズ用品交換会等を通して、障害の種類や有無、国籍に関わらず、老若男女全ての人にとって「生きやすい社会づくり」を実現するために活動しています。

メール atkyoto21@gmail.com
Web サイト https://atkyoto.crayonsite.net/
Facebook https://www.facebook.com/AtKyoto
Instagram https://www.instagram.com/atkyoto21/

この記事の執筆者

団体名 京都市市民活動総合センター
名前 向井 直文

チーフ事業コーディネーター



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