私たちの第九は、誰もが参加する共生の社会を目指しています。『NPO法人命輝け第九コンサートの会』

掲載日:2024 年 5月 31日  


 通称「第九(だいく)」と呼ばれるベートーヴェンの交響曲第9番ニ短調。合唱団による合唱が最終楽章で演奏されることから「合唱付き」ともいわれます。クラシック音楽を普段聞かない人も、ベートーヴェンの「歓喜の歌」または「歓びの歌」という合唱部分の名前とその旋律をご存じない人はいないといってもよいのではないでしょうか。
 国内では毎年、大みそかに放送されるNHK交響楽団による「第九」の演奏会の他、12月には全国各地で演奏会が催され、年末の風物詩ともなっています。その他にも様々な演奏会が1年を通して開催され、市民合唱団による演奏会も多く行われています。

 今月のNPO スポットライトでご紹介する「NPO法人命輝け第九コンサートの会」も、30年以上前から2年に一度、第九の演奏会を催してこられました。このコンサートの特徴は、健常者もさまざまなハンディを持つ人たちも一緒に合唱に参加する演奏会だということです。コロナでの6年間の中断を経て、今年9月に14回目のコンサートを開催する同会理事長の久馬 正義(きゅうま まさよし)さんにお話を伺いました。

このページのコンテンツは、特定非営利活動法人命輝け第九コンサートの会 久馬 正義さんにスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

東京の音楽会で障がい者も参加していたのを見たのが活動のきっかけ

 私たちの活動は、初代代表となった馬庭京子さんが1991年に東京で障がいを持った人たちによる第九の合唱を聞いたことがきっかけでした。馬庭さんは心身にハンディを持つ子どもたちとその家族のための活動に半生をささげ、すべての人たちが共に生きる社会を目指して京都で活動してこられた人です。東京で開かれた音楽会に感銘を受けた馬庭さんが、「京都で、フルオーケストラによる演奏で、障がい者の人も一緒に歌う第九の演奏会をやりたい」と周りに働きかけたことから、私たちの活動は始まりました。


「会のシンボル ベートーヴェンの肖像画」

前例のない試みと、障がいに対する当時の人々の意識に苦労も

 なにせオーケストラと合唱団という大構成で、しかも難しい合唱曲を原語であるドイツ語で歌うという内容です。当時は、障がいを持つ人にそんなことができるはずがないといった意識を持つ人も少なくありませんでした。しかしながらこうしたなかで馬庭さんたちの懸命な努力、説得活動が実り、1992年には団体が発足しました。歌詞に登場する“Alle(アーレ) Menschen(メンシェン) werden(ヴェルデン) Brüder(ブリューダー)”「すべての人が兄弟になる」という言葉の通り、この合唱を通して、すべての人が共生できる社会を目指そうとする活動がこの時スタートしました。当初から、やる限りはアマチュアだから、障がい者だから、といった妥協はありませんでした。


 指揮者もオーケストラも、ソリストも一流の人たちに協力してもらい、自分たちもそれに応える完成度の高い演奏をしようと取り組んだのです。そして1年後の1993年、第1回「命輝け第九コンサート」が八幡市文化センターにおいて開催されました。この時の合唱団は総勢150人の規模でしたが、実は私もその一員として参加していました。


「1993年 八幡市文化センターで開催された第1回コンサートの模様」

国内でただ一つ、ここにしかない合唱団

 健常者と心身にハンディを持つ人が一体となって構成する合唱団だということは先に申し上げましたが、団員は京都、大阪、滋賀、奈良に加え、東京からの参加もあります。こうしたメンバー全員が一緒になって毎回の練習に参加するというわけにはいきません。地域、パート別に10か所を超える練習会場でそれぞれ練習を重ね、3回の合同練習を経て本番のコンサートを開催しています。
 私たちの合唱団の特徴は、通常の合唱における男声(テノール・バス)と女声(ソプラノ・アルト)の4パートの他に、私たちの合唱団用に作られた第5パートが存在することと、聴力障がいを持つ人の身体表現(ボディランゲージ)によるパート「手話隊」があることです。障がいを持つ人の中には口を大きく開けて高い声や低い声を出すことが難しい人がいます。そこで、こうした高音域や低音域を避けた旋律を第5パートとして特別に作り、障がいを持つ人にはこちらのパートを歌っていただいています。第5パートが加わることによって、通常の4声による合唱に比べ、さらに重厚感のある合唱曲となったように思います。
 また「手話隊」の存在もこの合唱団ならではです。音楽表現は健聴者だけのものではなく、たとえ音は聞こえなくとも、これを身体表現することは音楽の楽しみ方の一つであると考えています。そもそもベートーヴェン本人が20歳代後半にはすでに難聴となり、この交響曲を作曲したときは完全失聴となって久しかったのです。そのような困難な中で、口にくわえた指揮棒から伝わってくるピアノの弦の振動を頼りに作曲していたといいます。音楽が健聴者だけのものでないことは楽聖と称されるこの大作曲家の存在を見ても明らかなことです。
 こうしたオリジナルパートの存在により、私たちの合唱団は国内でもここにしかないものとなったのです。


「身体で第九を演じる手話隊」

合唱団もオーケストラの面々も、皆が涙を流した感動の第1回コンサート

 優れた音楽に人の心は揺さぶられます。美しい旋律に感動したという経験は、多くの人にあることでしょう。私たちの「いのちの第九」もまた、多くの人に感動をもたらしました。ただこの感動は、優れた音楽に感動した、というだけではなく、合唱団もオーケストラの面々も、演奏者自身が困難を越えて成し遂げたことへの感動と、音楽というものがすべての人に分け隔てなく与えられたものであり、まさにこの楽曲のテーマである全ての人が兄弟になる、一つの社会を作っているのだということを体現したことに対する感動であったと思います。指揮者が指揮棒を下ろしたとき、合唱団はもとより、指揮者もオーケストラの奏者も皆が感動に涙しました。音楽会で演奏者が感動して涙を流すということは普通には見られない光景です。しかし私たちの「いのちの第九」にはその感動があるのです。これがその後30年以上もの間、活動を続けられてきた大きなエネルギーの一つであり、今も毎回の演奏会で人々の心を震わせ続けているのです。


「前回2018年のコンサート 総勢460人の大合唱団」

6年ぶりに開く私たちの「いのちの第九」コンサート

 2年に1回、入念な準備と練習を重ねて開催してきたコンサートですが、コロナ禍の中、一時活動を中止せざるを得ない状況が続いてきました。「今年こそは」と毎年思いながらも、なかなか状況はそれを許さず、6年が経過しました。ようやく昨年5月に、感染症の分類が二類相当の新型インフルエンザ等感染症から五類感染症に指定替えされたことを受けて、活動を再開しました。既に今月、5月7日から練習を開始しています。そして本番のコンサートは、9月29日の日曜日、京都コンサートホールで開催します。ぜひ、多くの方に私たちの「いのちの第九」を聴きに来ていただきたいと思います。演奏する側も、鑑賞する側も、その感動を共有したいと願っています。

2024年「命輝け京都第九コンサート」の詳細

日時:9月29日(日)14時開演
会場:京都コンサートホール 大ホール

指揮:山下 一史(大阪交響楽団常任指揮者、東京藝術大学音楽学部指揮科教授)
オーケストラ:京都市交響楽団
ソプラノ:四方 典子、アルト:森 季子、テノール:松原 友、バリトン:武久 竜也

合唱団参加者募集:インターネットで 命の第九 と検索、団体ホームページに募集要項、募集方法の案内あり

参加費:一般12,000円、大学生以下1,000円


今回スポットライトをあてた団体・個人

特定非営利活動法人命輝け第九コンサートの会 久馬 正義 (きゅうま まさよし) さん

理事長

団体名 特定非営利活動法人命輝け第九コンサートの会
代表者 久馬 正義
団体について

 この法人は、音楽を通じて一人一人の命が輝く社会の創造を目指し、ハンディの有無にかかわらず合唱活動、音楽活動を行い、ベートーヴェンの第九コンサートの実現をはかるなど、ハンディのある方々の社会参加への自信を育て、ハンディを超えた共生の社会づくりに寄与することを目的としています。

電話 080-533-95617
Web サイト https:// kagayakedai9.hatenablog.com/

この記事の執筆者

名前 近藤 忠裕

事業コーディネーター



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