sacula流 居場所の作られ方

掲載日:2024 年 4月 26日  


 京都市を中心に、子どもや若者が安心して過ごせる居場所づくりと、相談サポート事業を展開するNPO法人コミュニティ・スペースsacula。2016年に木村さんがひとりで立ち上げ、任意団体として様々な事業を展開しながら2021年NPO法人を取得されました。

今日まで様々な人々の関わりをとおして作られてきた活動の経緯を
「巻き込んで、巻き込まれて、巻き込んでの繰り返しで今がある」と話す代表の木村さん。

今回はそんなNPO法人コミュニティ・スペースsacula(以下、saculaとする)の「生い立ち」について伺いました。

このページのコンテンツは、特定非営利活動法人 コミュニティ・スペースsacula 木村 友香理さんにスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

子どもや若者の居場所が必要な背景

 自分の悩みや、自分のことを誰かに話すことは、とても勇気がいることではないでしょうか?

 「何でも相談してください」と言われても、その相手のことを知らなければ、なかなか話せないものです。まず相手との信頼関係ができていないと難しいと感じる人は多いと思います。それが、子どもとなるとさらに勇気が必要になります。

 思うように「話せない」「伝わらない」「わかってもらえない」などが続くことで、話すことに疲れて諦める子ども若者もいます。 2022年政府の孤独・孤立の実態調査の結果では、孤独感を感じたことがあると答えた人は計約40%に上り、初めて調査を実施した21年の36%から増えている状況にあります。特に30代より下の年代に多く、社会的立場の弱いで子どもでは、さらに声が届きにくくなります。

 若者支援が目的の助成金の内容も近年大きく変わっています。従来の若者支援助成は「青少年の健全育成」などが主なテーマとなっていましたが、近年の募集内容はそのほとんどが「貧困層の支援」「孤独・孤立支援」となっています。日本における、子どもや若者の抱える課題が変わってきたことがうかがえます。

NPO法人コミュニティ・スペースsaculaについて

 saculaは、「『専門性』より『関係性』」を理念とし、「この人になら、ここでなら、話してもいいかな」と思えるような関係性づくりを意識して、安心できる居場所や相談サポートを提供しています。子どもや若者が 【挑戦する理由】 や 【できること】 をみつけて、様々な 『達成』 や 『経験』 ができる世の中になることを目指して活動されています。

 現在西京区と下京区の2か所で居場所を運営し、主に子ども食堂や不登校児の居場所、自立サポート付きシェアハウスの運営・就労サポートなど、実に様々な事業をもとに活動を進められています。

saculaの事業

西京区の居場所

みんなの食堂 ひまわり食堂
フリースペース クローバー
自主学習スペース すみれ
夜の食堂 みにひまわり食堂
レスパイト・ケア ポピー

下京区の居場所

若者の秘密基地 すずらん
若者のご飯会 ミモザ
のんびりスペース スイートピー
すずらん子ども食堂
若者のお泊まり会あさがお
対人援助者交流会 オリーブ

相談・サポート

就労サポート
相談サポート
若年女性の自立サポートシェアハウス サクラソウ

活動の原点、様々な出会いが生む転機

創設者である木村さんが対人援助職に興味を持ったのは、中学時代。不登校だった友人が、適応指導教室の学生とのコミュニケーションをとおして、元気になっていく姿を見たことで、自身もその学生のようになりたいと思うようになりました。
 大学進学後、木村さんはあることがきっかけで日中はひきこもり、深夜に外へ出歩くようになりました。しかし、悩みを抱える若者が立ち寄れる深夜の場所は、当時ほとんどありませんでした。鴨川沿いやマクドナルドなどに行き来することしかできない日々の中で、しんどさを抱えた若者が気軽に立ち寄れる場所の必要性を考えるようになったそうです。
 ひきこもりから抜け出すためにも、家庭教師を始めました。しかし、当時担当した中学生は、学校で暴れるなど問題を抱えていました。その子どもの両親は、父親が単身赴任、母親が自営業と、子どもをやむなく一人にさせている状況が日常になっていました。木村さんは、家庭教師の時間が終わった後も、母親が帰ってくるまでの間、その子どもと一緒に過ごす中であることに気が付きました。それは、親とのコミュニケーション不足からくる「寂しさ」を誰にもわかってもらえず、学校で発散をしているということでした。子どもだけではどうにもできないこの状況に、「自分が引きこもっている場合ではない」と感じた木村さんは、大学卒業後に一般就職したあと、西京区の児童館に努めながら社会福祉士の資格を取得しました。

 児童館でも、様々な子ども達と関わる中で、問題を起こす子どもは本人が困っていることが多いことに気づいた木村さん。この時に居場所の必要性を更に強く感じたそうです。
そして転機は、居場所活動をしている人の集まりに行った際の参加者の言葉「子どもの声は待ってくれませんからね」に突き動かされて、2016年にコミュニティ・スペースsaculaを任意団体として一人で立ち上げたのです。
※ 活動を進める中で、子どもや若者の意思を守ることに任意団体では限界を感じるようになり、2021年にNPO法人格を取得しました。

反対から応援・協働に、熱意がつなぐ地域との信頼

 児童館で勤めていた地域で子どもたちの居場所として、子ども食堂を運営したいと考えていた木村さん。地域に開かれた居場所にするためにも地域コミュニティの会館を使う必要性を感じていました。地域の人たちに自治会の会長と民生委員をつないでもらい相談しましたが、「うちの地域に貧困があるとでも言いたいのか!出直してこい!」と怒られてしまったのです。当時の子ども食堂は、子どもの貧困対策としてクローズアップされていたため、「子どもの居場所」という包括的な役割はまだ認識が浸透していませんでした。また、地域の人たちがこれまで子どもたちを見守ってきた歴史がありますので、部外者である市民活動団体が地域の子どもを対象にした活動を始める際に、地域コミュニティからの理解を得るには難しい一面もあったのです。そこで木村さんは、児童館で子どもたちにアンケートをとり、地域の家庭状況や子どもの状況、ひとり親家庭・共働き家庭のニーズの調査を行い、改めて説得に向かいました。一緒に説得してくれた地域の人の助言と木村さんの熱意もあって、子ども食堂「ひまわり食堂」をスタートさせることができたのです。
 会長と民生委員の方々は、最初こそ少し距離をおいて様子をみるような感じでしたが、開始して数ヶ月後には、ほぼ毎回顔を出すようになりました。また、木村さんが、子ども食堂の材料をスーツケースに入れて荷物を運ぶ姿を見かねて、会館近所のアパートの大家さんを紹介してくれたこともありました。そのおかげで事務所を構えることができ、学習スペースの運用など事業の幅も広がりました。

 現在は、地域の様々な人たちが、食材の寄付や料理の手伝い、子どもたちの相手など、いろんなカタチで積極的に関わってくれています。地域にとってもこの活動が大切な存在になっています。

ひまわり食堂

勝手をわかってくれている人の存在の支え

 活動を開始して5年が経ち、居場所活動のみならず、オンラインも含めた相談サポートを展開していく中で、もっと気軽に立ち寄れる立地を要望する声が多くなりました。そこで「若者が集える、アクセスのよい場所」として京都市下京区の梅小路京都西駅近くに二つ目の拠点「すずなりランタン」(カフェバー&レンタルスペース)を立ち上げました。
 居場所の運営を始めるときに、まず苦労するのが、不特定多数の人が出入りする利用条件をクリアした物件とどのようにして出会えるかだと思います。子どもや若者の居場所や支援となると、夜遅くの対応も考えられます。また日中もにぎやかになることもあります。これらの条件を不動産仲介業者の方に話をすると、面倒に感じて避けられるケースも少なくありません。
 しかし、saculaの場合は、不動産会社の担当者が、半年ほどで下京区の拠点を見つけてくれました。この不動産会社は、事務所を構えた時にアパート契約の仲介をお願いしたことで偶然つながり、以来、担当者とはsaculaのシェアハウスの物件探しや、相談サポート事業で受けた、ひとり親家庭の居住相談、自立支援事業を活用する若者たちの居住の困りごとなど、条件に合う物件の相談を8年にわたってお願いしていたと聞きます。そのため、saculaの活動についても自然と理解が深まり、「また、無理なお願いを言いますね」と言いながらも物件を探し出してくれる関係性が出来上がり、「すずなりランタン」の大家には事前に活動内容を説明してくれていたと伺いました。仕事として木村さんとのコミュニケーションを重ねることで、saculaの活動を応援する気持ちが醸成されていたのだと思わせるエピソードです。

すずなりランタン

居場所の利用者が教えてくれた、スローステップな就労サポート

 saculaが居場所だけでなく就労サポートを始めたのは、すずなりランタン2階のフリースペースを利用する子ども・若者たちから見えてきたある課題がきっかけでした。フリースペース利用者の中には、カフェスペースでスタッフや客と話す「関わり」や手伝えることを探す「社会的役割」を強く求める人もおり、「何もしないでただそこにいる」ことへの不安や罪悪感を感じる子どももいるという実情を目の当たりにしたことでした。
 しかし、saculaを利用する若者の多くは、「気持ちが落ち込んで動けない」「4時間以上は体力がもたない」「初対面の人との関係作りが難しい」など、一般的な求人条件と自身のギャップに不安や焦りを感じて自己肯定感が下がる若者もいました。公的な支援では手の届かない彼らを守るためにも、以下のポイントを大事にする取り組みを考えました。

 ● いつ来ても、いつ(作業を)辞めてもいい
 ● 本人中心で考える
 ● できることから無理のない内容で

など、個々の状況に合わせた「スモールステップ」での対応を心掛けて、「役に立てた」という自信を育むことを中心とした就労サポートを2023年から始められています。

巻き込んで、巻き込まれて、巻き込んでの関係で作られるコミュニティ

 「巻き込んで、巻き込まれて、また巻き込んで…の繰り返しなんです。」と取材の中で話す木村さん。「手伝いで入ってたのに、いつの間にかスタッフになっていました。木村さんに巻き込まれました。」と今のスタッフからもよく言われることが多いと聞きます。
 今回は、saculaがスタートする原点からお話を伺いましたが、木村さんも含め周辺で、様々な巻き込みあいが起きていたと取材を通して感じます。
 木村さんの様々な「巻き込み、巻き込まれ」から歯車が動き出しスタートしたsaculaは、その後も繰り返しながらそして、今後も様々なステークホルダーともお互いに巻き込みあいながら、更に進んでいくのではないかと感じる取材でした。
皆さんも、一緒に巻き込み巻き込まれてみませんか?


今回スポットライトをあてた団体・個人

特定非営利活動法人 コミュニティ・スペースsacula 木村 友香理 (きむら ゆかり) さん

代表理事

団体名 特定非営利活動法人 コミュニティ・スペースsacula
代表者 木村 友香理
所在地 〒615-8031 京都市西京区牛ヶ瀬林ノ本町42メゾン・ド・戸倉205
団体について

子ども・若者及びその家族に対して、居場所と相談サポートに関する事業を通じて様々な経験を提供し、子ども・若者の心身の成長と社会とのつながりに寄与することを目的に活動されています。

<事業内容>

  • 子どもの居場所の運営事業
  • 若者の居場所の運営事業
  • 若者の相談サポート・アウトリーチ事業
  • 若者の居住サポート事業
  • 若者の職業体験に関する事業
  • 居場所や相談に係る講演事業
  • 居場所や相談に係る専門家やサポーターの養成・コンサルティング事業
  • その他この法人の目的を達成するために必要な事業
電話 090-933-80393
メール sacula.office@gmail.com
Web サイト https://sacula.themedia.jp/
Facebook https://www.facebook.com/sacula.office

この記事の執筆者

団体名 京都市市民活動総合センター
名前 向井 直文

チーフ事業コーディネーター



上へ