暮らしの変革の内から安全な食べ物を

掲載日:2024 年 1月 26日  


ここ京都において、発足から 50 周年 (2023 年) でを迎える NPO 法人があるのはご存じでしょうか。しかも、正会員数 (NPO 法上で総会の議決権を持つ人) は約 1500 人という NPO 法人ではめったに見ない規模です。その団体の名前は「使い捨て時代を考える会」。

皆さん「使い捨て時代を考える会」と聞いてどんな印象をもたれたでしょうか。筆者自身は団体名だけを聞くと、「使い捨て容器とかを無くす、環境問題系の団体なのかなぁ」、そんな風にもイメージしました。でも違うんです。もちろん団体の中で環境問題を取り扱うプロジェクトも存在します。でもそこには限定されません。

「使い捨て時代を考える会」は、有機農業、食、流通、環境、人と人とのつながり作り、子どもたちへの教育活動など、多様な角度から、「人々の持続可能なくらし」を志向、仕組化、そして実践する団体です。今回は「使い捨て時代を考える会」代表理事の山田晴美さん、事務局員の木下紀子さんにお話を伺いました。

このページのコンテンツは、NPO法人使い捨て時代を考える会 にスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

◆使い捨て時代を考える会って?

1973年、京都大学の助教授だった槌田劭(つちだたかし)さんが、自らリアカーを引いて古紙回収を始めたことが団体発足のルーツとなります。それまでの高度経済成長期において、当たり前になっていた大量生産、大量消費という人と環境を無視した経済優先の社会のあり方、さらには物も人も「使い捨て」にされる「時代」に一石を投じるため、槌田さんは行動を起こしました。

◆事業内容

会のルーツは上述のとおりですが、時代の変遷を経て、現在の使い捨て時代を考える会の事業は多岐に渡ります。50 年という長い間、持続可能な「くらし」を考え続けていたら当然です。なぜなら、「くらす」とは、私たちが「生きること」全てだからです。その中でも現在の基幹事業は「有機農業」を守り、支えあう取り組みです。「食」は「くらし」の中でも最も大切なこと。人間の体にも、そしてもちろん地球環境にも安心安全な「有機農業」を守るため、会では1976年に流通を担う株式会社安全農産供給センターを設立、現在は京都、滋賀、三重等の約30件の有機農業従事者、約1200件の購入者と連携してネットワーク化しています。会は、生産地から都市へ、都市から生産地へ、売り手と買い手、互いに支えあう仕組みを構築し、持続可能な食と農の在り方を追及してきました。
また、「生産者に会いに行く」といった体験イベントなどを実施し、生産者と消費者がコミュニケーションをとり、学びあうことを通して、有機農業や食の大切さについての啓発、またこの仕組みを支える強固なコミュニティの構築にも取り組んでいます。


会の中にはこの他にも様々なプロジェクトが存在します。「野菜はともだち委員会」、「縁故米運動推進委員会」、「NANTAN委員会」、「脱原発委員会」、「ポコ委員会」などなど・・・。会のメンバー各々が「使い捨て時代を考える会」という枠組みの中で、やりたいことを自由にやれる、そんな雰囲気なのだそうです。

様々な事業をされていますが、現在の「使い捨て時代を考える会」のミッション、そして社会課題だと考えられていることはどのようなことでしょう?

【山田さん】
一言でいうと「今社会の中で起こっている、あらゆる『分断』の解消」です。今社会は、行き過ぎた市場・競争原理による商業化、工業化、また人々の個人(利己)主義によって、世代間、職業間、あるいは食と人など、あらゆる意味において社会は分断され、人々は孤立化しています。私たちの現在の基幹事業は有機農業に関連する活動となっていますが、あくまでどの活動についても、活動自体は手段です。活動をすること自体が目的ではありません。私たちは、会の活動を通して、あらゆる分断の解消、本当の意味において持続可能な社会、そして有機的な人の繋がりの構築を目指しています。


団体自身で現在感じている問題や課題はありますか?

【山田さん】
ひとつは、現在会メンバーは逆ピラミッド型の年齢構成となっていること、それからコロナ禍4年で思うように事業ができなかったことで、活動の周知ができず、なかなか新しい世代のメンバーが入ってきていないことでしょうか。また、団体名で判断されるからなのか、色眼鏡で見られ、政治団体だとか、とっつきにくい団体だと思われていた節もあります。



【木下さん】
発足当初、4~5年で会員数2,000名を超えていた時期もあります。でも今は減少傾向、さらに既存の会員も高齢化が進んでいます。若い世代にもっと会に関わってもらい、次世代の担い手になっていただくためにも、活動情報の発信方法を工夫し、強化していくことが課題だと感じています。今後は、活動情報をわかりやすく発信するために、ホームページやSNSを充実させていく予定です。またより多くの方、若い世代にも活動に賛同してもらうため、新たな事業にも着手しています。


◆コミュニティカフェ


会では「ツカジダコミュニティカフェ」という、法人事務所を拠点に新たなプロジェクトにも取り組んでいます。「ツカジダおいしいランチ」、「ゆる体操教室」、「ジェンダーカフェ」、「こどもといただきます」、「絵手紙教室」など、コミュニティカフェ内では様々なイベントを通して、地域に対して「学びの場」を提供しています。このように、今まで構築してきた大きなネットワークでの活動を活かしながらも、より地域(地元)の方がアクセスしやすく、関わりやすい事業にも取り組んでいます。

コミュニティカフェ「こどもといただきます」で行われた「こどもと味噌づくり」の様子
コミュニティカフェ「ツカジダおいしいランチ」生産者さんとのランチ会の様子

◆新しいけれど、原点を考える取り組み


先日、会は「気候変動を考える市民の会・高槻」との共催事業として、「パタゴニア京都」を会場に「くるくる交換会」と題したエコイベントを開催しました。



くるくる交換会は、不要なものを持ちより、必要なものをもらって帰ることができるという非常にシンプルなイベント。限りある資源の有効活用になるばかりか、「もう必要はないものだけど、捨てるのはもったいない」という人の思いの解消にも繋がります。木下さんは「必要なところに行けば、物自身も喜ぶ」といいます。


実は、会は発足当初、「子ども服の交換会」を実施していたそう。この活動は会の原点を考える取り組みでもあり、新たに若い世代が繋がる取り組みでもあります。


そもそも「くるくる交換会」自体は「気候変動を考える市民の会・高槻」が毎月開催しているイベントです。使い捨て時代を考える会の会員が参加したことをきっかけに、京都開催が決まりました。持続可能な社会を志向する人々がこうして横のつながりを生み出し、インパクトをさらに拡大していく姿が本当に頼もしい、そんな風に感じました。


◆まだまだチャレンジしたい


代表理事の山田さんは、まだまだやりたいことがあると言います。それは、全ての子どもたちへ、特に経済的に困窮する家庭の子どもたちに有機農業で育てられた食材を提供する仕組みを構築したいといいます。有機農業、そして食が子どもたちへ与える可能性は私たちが考えるよりも遥かに大きい。その子どもたちが大きくなり、実現したい持続可能な社会の担い手となってゆきます。「使い捨て時代を考える会」の進化はまだまだ続きます。


NPO法人使い捨て時代を考える会 

(左から)
・気候変動を考える市民の会・高槻
 パタゴニア京都 ストアアシスタントマネージャー 玉井秀樹さん
・使い捨て時代を考える会 理事 江副由紀子さん
・使い捨て時代を考える会 代表理事 山田晴美さん
・使い捨て時代を考える会 職員 木下紀子さん
・気候変動を考える市民の会・高槻 保田知奈美さん
※左記写真は「くるくる交換会inパタゴニア京都」にて

※ 個人の肩書や所属する団体は、執筆時点 (2024年1月) の情報です。

団体名 NPO法人使い捨て時代を考える会
代表者 代表理事 山田晴美
所在地 〒600-8061 京都府京都市下京区富小路仏光寺下る筋屋町 141
電話 075-361-0222
FAX 075-361-0251
Web サイト https://tukaisutejidai.com/

この記事の執筆者

団体名 京都市市民活動総合センター
名前 齋藤明秀

事業コーディネーター

Web サイト http://shimin.hitomachi-kyoto.jp/


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