ギャンブル依存症者の家族の悩み

掲載日:2023 年 7月 28日  


 世界保健機関 ( WHO ) では、ギャンブル依存症を「病的賭博」という疾病として診断ガイドラインを定めています。
カジノを含む統合型リゾート( IR )の設置を進める「 IR 推進法」が 2016 年に成立し、その 2 年後、IR の整備や運営ルールを定めた「 IR 実施法」とともに「ギャンブル等依存症対策基本法」が制定されました。
 IR の議論とともにギャンブル依存症はにわかに注目を浴びました。しかし、ギャンブル依存症に対する社会的理解や対応が一気に進んだとは言えません。
 今回は、ギャンブル依存症の家族が抱える問題を広く知ってもらうことを目的に 2020 年に設立された「全国ギャンブル依存症家族の会京都」にスポットライトをあて、その取り組みをご紹介します。

(執筆者:土坂のり子)

このページのコンテンツは、全国ギャンブル依存症家族の会京都 にスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

ギャンブルをする人は誰でもギャンブル依存症になりえる

・ギャンブルにのめり込み、負けたお金をギャンブルで取り返そうとする
・ギャンブルをするために嘘をついたり借金したりする
・ギャンブルを減らそう、やめようとしてもうまくいかない
これらの症状は典型的なギャンブル依存症の症状として、周知されています。

  依存症全般にわたる高度専門医療センター(独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター)では、「ギャンブルをする人は誰でもギャンブル依存症になりえる。リスク因子としては、若い人、男性、ストレスへの対処がうまくない人、ギャンブルが身近にあるなどの環境要因などが指摘されている。」と発信しています。 さらに、「パチンコやスロットのような電子ゲーム機の場合は、機械そのものに依存させる要因がある。」とも説明しています。

ギャンブル依存症の認知度はとても低い!

 日本では競馬、競輪、競艇、オートレースなどの公営ギャンブルがあり、街中にはパチンコ店や宝くじ販売所が溢れています。誰もが「ギャンブルが身近にある環境要因」にさらされていると言えるのではないでしょうか。
 ですが、ギャンブルにのめり込む人を見て「あの人は病気だね」と言う時の言葉の裏には、非難のニュアンスが強く含まれているように感じることがあります。
 薬物やアルコール依存症は “回復できる病気” として認知が広まっている一方で、ギャンブル依存症者に冷たい視線が向けられるのはどうしてなのでしょうか。

 厚生労働省が発行している広報誌 『厚生労働』では、2019 年 5 月号の特集として、「依存症」を取り上げています。
その中に、「最も患者数が多いのはアルコール依存症だが、“依存症が疑われる人数” が最も多いのは、実はギャンブル依存症である」とするデータが掲載されています。

厚生労働省 WEB ページ(広報誌『厚生労働』バックナンバー)より

 厚生労働省がギャンブル依存症の実態を把握するため 2017 年に発表した別の統計では、生涯でギャンブル依存症が疑われる状態になったことのある人は人口の 3.6%(約 320 万人)と推計しています。

 つまりギャンブル依存症は、潜在的な患者数が多いにも関わらず、病気としての認知度が他の依存症と比べて圧倒的に低いのです。この認知度の低さが、世間のギャンブル依存症者に対する「厳しい視線」につながっており、さらには、ギャンブル依存症の早期治療や回復を阻害するとともに、依存症者家族の悩みを増大させているのではないかと考えられます。

ギャンブル依存症者の家族が抱える悩み

 依存症は自身の行動をコントロールできず悪循環を深めていく病気ですが、そこには家族や身近な人の言動と対応が大きく影響すると言われています。
 例えば、「自業自得だ!情けない」という非難は当事者の自己嫌悪を煽ってしまい、依存が益々加速してしまいます。逆に、苦しんでいる状況を見過ごせないと、例えば借金の返済を肩代わりすると、依存を続ける環境が整ってしまうことになります。
 嘘をついてギャンブルを続け、借金の返済が滞る事態になれば、家族としては当然、叱りたくなります。時には諭しなだめ、時には行動と小遣いを管理し、時には寄り添い共感することもあるでしょう。

 そうして様々な感情と時間と労力と資金を総動員して、何とかギャンブルをやめさせようと苦労したことが、逆に依存症を悪化させてしまうとしたら、家族はいったいどうすればよいのでしょうか。

啓発ポスター(内閣官房ギャンブル等依存症対策推進本部事務局)

 そんな家族ならではの悩みを分かち合い、家族同士が互いに学び合いながら連帯して問題の解決を図ることを目的に活動をしている団体が「全国ギャンブル依存症家族の会」です。全国に 42 の「家族の会」があり、京都では、ひと・まち交流館京都を拠点に「全国ギャンブル依存症家族の会京都(以下、「家族の会京都」)が 2020 年から活動をしています。

 家族の会京都のメンバーである、ゆかりさんとるりこさん(仮名)にお話をお聞きすると、そこには一般的に想像される「ギャンブル依存症者」とは全く異なるイメージが浮かび上がってきました。

ゆかりさん
 今や、競馬、競艇、カジノなど、スマホがあれば寝ながらでも仕事の休憩時間でも、24 時間どこからでもギャンブルができるようになっています。当人はいつものように仕事をし、日常生活を送っているので、ギャンブルにハマっていることが家族からは見えづらいんです。
 それに、実はギャンブル依存症の人は、まじめで働き者の人が意外と多いんですよ。「そんな人がまさかギャンブル依存症になっていたなんて」というのは、家族の会では “あるある事例” としてよく聞かれます。

るりこさん
 私の場合は夫がギャンブル依存症なのですが、家ではいつも「良き夫、良き父親」で、その姿が変わらないため、夫がギャンブルにのめり込んでいるなんて全く気づきませんでした。
 ところがある日突然、借金を返済できないことを家族に明かされる、もしくは自宅に督促状が届く。ギャンブル依存症は、そうしてようやく発覚することがほとんどなんです。
 本人がどうしようもできない事態になってようやく家族に打ち明けられるので、その段階ですでに大きなトラブル(主に借金)を起こしていることも多く、本来であれば家族にもどうしようもできないですよね。でも、夫を信じているからこそ「自分が夫を助けなくては!自分がなんとかしなきゃ!」と巻き込まれていく。
 嘘に引きずられていくことに、家族は気づけないんです。

家族支援の重要性

 家族が借金返済を手伝い、債務が整理されたとしても、ギャンブル依存症という病気が回復するわけではなく、依存症であるがゆえに、再び借金を繰り返し問題は悪化していきます。そのため、周囲が安易に金銭的な援助をしないことや、専門家と相談しながら借金問題にとり組むことが重要になります。
 しかし、日本ではこのような依存症からの回復プロセスが十分認知されておらず、医療機関や支援体制も不十分な現状があります。行政の窓口に相談しても極めて事務的に「ここでは対応できない」と返答されたり、当人が失踪などした場合に警察に相談にいくと、ギャンブル依存症ということで心無い対応をされることもあるそうです。

 社会的認知度の低さや偏見によって、家族も傷つき、孤立し、問題を抱え込みがちになってしまうことも珍しくありません。

 だからこそ、依存症本人の回復支援だけでなく、家族の支援が必要になるのです。
 家族の会京都が開催している月に一度の例会は、「困っているけど、どうしたらいいかわからない」という不安な気持ちに対し、回復に向けて歩み始めているメンバーが経験を話し、正しい知識をみんなで学び合い、対応を変えていく大切さを共有します。


 ゆかりさんは、「ギャンブルの渦から抜け出す」と題して自身の体験談を語った際、「自分の体験というものは失敗の連続だった。経験談というより失敗談であるが、何か皆さんの役に立てば」と話し始められたそうです。

 家族の会京都につながることで、「ひとりではない、仲間がいる。共感してくれる人、支えてくれる場所がある。」と安心でき、家族は少しずつ傷を癒していくのです。そして、ギャンブル問題に苦しむ当事者と家族が「一線を画し」、お互いが幸せになる道を歩み始めることができるのです。

医療や福祉、行政に携わる支援者にも、家族の声を聞いて欲しい。

 昨今、公設競技やカジノなどスマホで手軽に、ゲーム感覚でギャンブルに手を出すことができる事に加え、コロナ禍のストレスなどでギャンブル依存症に罹患する若い世代が増加の一途をたどり、それに巻き込まれる家族が急増しています。
 家族の会京都においても、毎月の家族会・当事者会に、常に新しい方の参加があるそうです。

イメージ画像(写真 AC )

家族の会代表の安東さんはこの状況を捉え、次のように語ってくださいました。

 ギャンブル依存症によっておこる問題は多岐に渡っており、相談窓口で自身の状況を伝えたり相談したりすることが困難であることが多いんです。
 そこで、家族会・当事者会のメンバーが同行し、関係機関にきちんと状況や要望を伝えることで、適切に支援者と繋がれるようなサポートが必要だと感じています。
 関係機関の理解や連携を強化することがとても重要です。

 そのためにはまず、医療や福祉、行政に携わる支援者にも、家族がどんな悩みや苦しみを抱えているのか、家族の生の声を聞くことから始まるのではないかと思います。家族の問題や悩みがひとつだけでも具体的に見えるだけで、受け止め方は変わってきます。
 毎年 5 月 14 日 ~ 20 日はギャンブル依存症啓発週間です。これに先駆け家族の会京都では、一般市民や医療や福祉、行政に携わる支援者を対象とした企画講座「知ろう ! ギャンブル依存症」を 2023 年 5 月 6 日(土)に実施しました。

<知ろう!ギャンブル依存症>企画チラシ

 依存症の治療に詳しい医師、ギャンブル依存症者の借金問題に取り組む弁護士、そして当事者や家族など、京都・近畿にゆかりのある方が登壇しました。多角的な視点からギャンブル問題について発信することで、ギャンブル依存症問題の認知度を京都で広げようとするものです。
 2023 年 9 月 23 日(土)にも同様の大きな企画が予定されています。

「 Addiction (依存症)の反対語は Connection (つながり)」

 家族の会京都に参加するようになってちょうど 1 年がたったるりこさんは、家族の会に参加するようになってから、心境に大きな変化があったそうです。

 参加し始めた当初は夫のことでショックを受けていたので、話をしながら泣いている状況でした。1 年間、悩みや困りごとを話し、少しずつ気持ちが落ち着き、依存症の正しい知識や対応を学ぶことが大切と知りました。
 今では新しく参加してくる方に、以前の自分の姿を重ねてみられるようになりました。

 そして、ギャンブル依存症には解決策があること、借金は家族が支払う必要はないこと、悩みを家族で抱え込むのではなくぜひ相談して欲しいと、静かに、けれども力強い口調で語ってくださいました。

イメージ画像(写真 AC )

 依存症の自助グループでは、「 Addiction (依存症)の反対語は Connection(つながり)」という言葉をよく使います。
 この言葉の背景には、孤独な気持ちを紛らわせるためにお酒やギャンブルにのめりこみ、依存が進む中で周囲から孤立していく依存症の特性があります。
 家族も同じです。「家族の問題は家族で解決するもの」という意識こそが、社会から孤立する状況を引き起こしています。

 家族だけで問題を背負いこまず、社会とつながりを取り戻していく。
 同じ苦しみの中にいる家族たちが、悩みを分かち合い、当事者との適切な関わり方を学ぶ。

当事者と家族が心を回復させるとともに、
潜在的依存症者やその家族がつながりを求めやすくなる社会をつくっていくために、
家族の会京都の取組は、これから大きく飛躍しようとしています。

<執筆後記/執筆者:土坂のり子>

今回の記事を執筆するにあたり、内閣官房ギャンブル等依存症対策推進本部の WEB サイトに初めてアクセスすると、当事者と家族の方の体験談がたくさん掲載されていました。
その多くは、当事者や家族の方の真面目さがひしひしと伝わってくるような文面でした。

ギャンブル等依存症を克服された方の体験談のページ(内閣官房ギャンブル等依存症対策推進本部)

全国ギャンブル依存症家族の会京都にご相談やお問合せのある方は、下記に掲載している団体の連絡先をご覧ください。電話はすぐに出られないことも多いとのことですが、その際は折り返してくださるそうです。

全国ギャンブル依存症家族の会京都 

団体名 全国ギャンブル依存症家族の会京都
代表者 安東 洋子
団体について

ギャンブル依存症の家族が抱える問題を広く知ってもらうことを目的として、啓発活動、情報提供を行うと同時に、「ギャンブル依存症当事者会」も開催しています。
今後、治療施設やセルフケアサービス、行政機関との連携により、依存症者の就労機会の確保を図る活動や、ギャンブル依存症問題の啓発と予防教育の推進を図る活動を行っていく予定です。

電話 080-449-71811
メール g.kazokunokai.kyoto@gmail.com
Web サイト https://gdfam.org/group/kyoto/

この記事の執筆者

名前 土坂のり子

京都市市民活動総合センター 副センター長



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