その人らしく生きる Well-beingな社会を目指して

掲載日:2023 年 5月 26日  


皆さんの周りには、介護を必要としている方もおられると思います。
しかし、そういった介護対象の方々が、地域社会において支援がないといけない人たちととらわれやすく、本人が希望していてもその支援によって、自立の機会をのがしている場合があるのをご存じでしょうか。
そのような状況に課題を感じて、「個のWell-beingを高める」をテーマに活動する団体がいます。それが今回ご紹介する「NPO法人地域共生開発機構ともつく」(以下ともつく)です。
ともつくは、つながりを大切にした環境を作ることであらゆる人々が地域社会で活動でき、生涯現役で生き生きと共生することができることを目的としています。
今回はそんな「ともつく」について理事長の河本 歩美(こうもと あゆみ)さん、事務局スタッフの田端 重樹(たばた しげき)さんにお話を伺いました。

このページのコンテンツは、NPO法人地域共生開発機構ともつく にスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

ともつくの活動について

クリエイティブハウスともつく

ともつくは、以下の活動を通して個々のWell-beingを高めることを目的にされています。

1. 人々の通いの場
2. 高齢者の就労的活動の場
3. 情報発信と仲間づくり

嵯峨野にある一軒家クリエイティブハウスともつく(以下ハウス)を活動拠点として、主にコミュニティカフェ「ともつくカフェ」を毎月第1・3日曜日に開催しています。そこでは、季節のイベントやものづくりイベントなどを開催し、地域の高齢者と共に就労的活動も行っています。様々な経験や技術をもとに作業を行い、その作業に対して対価が支払われていると伺いました。

 大正琴の発表会

更には地域活動に関連するオンライン講演会を季節毎に開催したり、大学や行政機関、NPO団体など多彩なセクターとの連携も行うなど活動は盛りだくさんです。

現在は、二階部分をシェアハウスとして運営しており、学生が中心に生活をしています。シェアハウスに住む条件を特に設定していないにも関わらず、不思議と居場所カフェ利用者とシェアハウスの利用者の交流が自然と生まれていると聞きました。

Well-Being意味について

就労活動の様子

Well(よい)とBeing(状態)が組み合わさった言葉で、より良い状態・存在としてあるという意味で、存在とは、その場にその状態であり続けているということだそうです。また類義語にあるHappiness(幸せ)は、一時的であったり、瞬間的な状態を指すため同じ意味ではなく、wellbeingは、その人がより良い状態であり続けているという意味だと伺いました。
またWell-beingは国連の「健康」の定義の中に以下のように示されています。

健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。

(公財)日本WHO協会HPからの引用

その意味は、人間の存在とは「心のあり方」、「体のあり方」、「環境の影響」の相互作用の中で存在している。その中で緩く「幸せ」を感じて生きていくことは可能であると、単純に病気や障害がない状態の事を言っているのではなく、病気であっても、障害があっても、心身が満たされているのであれば健康でいることができるということだと教えていただきました。

理事長の想い

理事長の河本さんは、デイサービスなどに通われている高齢者や認知症の人たちが、通うたびに本来彼らが持っている「その人らしさ」が失われていく姿を見ているのが辛かったとおしゃっていました。元気でその場にいたら良いという意味ではなく、元々あったその人らしさを持って過ごしてほしいという想いで法人を設立したと教えていただきました。 まさに個人のWell-beingを高めることこそが、「その人らしさ」を保つことに繋がっているのですね。

これまでの経緯について

河本さんは、現在社会福祉法人に所属し介護施設に勤めています。
施設に務める中で、利用者が施設の用意したプログラムを行って過ごすあり方に疑問を持っていました。もちろん利用者は楽しんで通っている分にはそれで良いとは感じているが、施設に言われたことを常に行う「受け身」の状況が続くことに課題を感じていたのです。それは、自分自身から「こうやりたい」といった自立的な姿が利用者から見受けられないことが多かったからでした。「これまでは様々な仕事や社会に役に立つことをやってきた人達なので、そういう思いを持ち続けて「自分の存在意義」を発揮してほしいと感じていた。」と河本さん。
しかし、介護施設としては利用者を守る・助けるという支援の考えから運営していることもあり、多くの介護職の方が「困っていたら助けないと。」と行動するのだそうです。そこで河本さんは、自立支援を行うために作業療法士を募集しました。その時に現在のスタッフ田端さんとの出会いがあったそうです。
作業療法士の田端さんは、利用者のできることを引き出してあげたいという視点で業務に向き合っていました。
介護施設の支援サービスのあり方が、利用者のできることも支援してしまっていることに課題を感じていたこともあり、河本さんと意見が合致していたのです。
最初は施設の人と考えを擦り合わせるのに、苦労をしたそうですが、利用者が目に見えて変化するのを目の当たりにするようになってからは、施設に自立支援の大切さが浸透していったと聞きました。

ワークショップの様子

ある日田端さんから、当時九州保健大学の医学博士で作業療法士でもある小川さんの活動を紹介してもらい講演を聞きに行きました。その小川さんこそ、後のともつく副理事長となる人だったのです。

小川さんは、障害や高齢を理由に全否定するのではなく、できないことがあっても心の持ちようでいくらでもできることは「ある」と考えて、それを引き出すのが作業療法士としての仕事であるという考えから、宮崎にある社務所を借りて地域の高齢者向けの居場所を運営されていました。そこでは、しゃもじを磨くというちょっとした収入が得られる仕事が用意されていました。社務所に通われている利用者は、「俺がいないと、この仕事はダメなんだ。」とそこに自身の「役割」を感じて通われていたのです。その役割が「やりがい」「生きがい」へと繋がり社務所へ通う高齢者はイキイキと過ごしている活動でした。 河本さんは、その活動と考え方に感銘を受けて2018年に高齢者の自立支援と社会参加を行う目的で高齢者のものづくりブランド「sitte」※2プロジェクトを当時努めていた高齢者福祉施設 西院ではじめました。

京都を拠点としたライフスタイルショップ「mumokuteki」とのコラボレーションにより、まな板や木製の器などが、認知症や要介護の方々の手によって作られて販売されました。実際に販売現場を制作に関わった高齢者と見に行くことで感動から「やる気」へと繋げることができたと伺っています。また京都市のふるさと納税にまな板が選ばれ、京都の林業活性と福祉の連携による林福連携プロジェクトが生まれるなど、「sitte」プロジェクトは魅力的なものとなったそうです。

※2「sitte」プロジェクトについてはこちら https://www.saiin-essassa.com/sitte/

福祉施設で続けることの難しさ

しかし、高齢者福祉施設 西院からの異動と社会福祉法人で介護職をやりながら仕事を生み出す事を模索し続けていくことの困難さもあって、当時の河本さんの頭には別法人を立てる必要性を感じていたと伺います。
そんな中、これまでも交流していた九州保健大学の小川さんから京都の大学で勤めることになった知らせがありました。そのタイミングに背中を押された河本さんは、小川さんに別法人を設立する考えがあることを相談し一緒に運営することになりました。これをきっかけに今の法人メンバーと繋がりが生まれ2020年2月末に設立が叶いました。

また、現在の拠点もメンバーからの紹介で利用できることになり、縁が縁を呼ぶように活動が広がっていったそうです。

「それいいですね!」から始まる自己尊厳への担保

現在のともつくカフェは、70〜80歳の高齢女性を中心に利用されています。
お披露目会を開催した時に、5人の女性がハウスに訪れるようになりました。その人たちは、もともと近隣地域でボランティア活動をやっていたこともあり、コミュニケーション能力が高く、どんどんと人を巻き込みました。気がつけば十数名の人が集まるコミュニティになっていたと伺います。
特に運営側で指示することをせずに、場を提供することに徹していました。利用者から提案が出た時に 「それいいですね。やりましょう!」と肯定する ことで、自分たちで手芸の先生を呼ぶようになり、ランチを皆で考えてから作って食べるなど、気が付けば自身で日々のプログラムを考え出して過ごしているそうです。
その様子は、まるで女子会のようで、参加者は毎回イキイキと過ごしているのだそうです。
「それいいですね」という肯定が、彼らの自己尊厳への担保へとつながったのですね。

ポイントは良い具合に放っておくこと

箸づくり体験

ともつくでは、運営側から何かを提示することを極力しないようにしていると聞いています。それは良い意味で放っておくことが、自分達で役割を見つける状況に繋がっているとのことです。
そうすることで自分達のするべきことを、自分達で見つけていき、今の形を作り出していると教えていただきました。 特に参加者から提案が出てきたときは、否定せず「それいいですね。やりましょう」と勧めています。そのあり方が、自分で考えて行動するに繋がり、「私がいないといけない。」などの自分の役割感が生まれ、「自分らしさ」へとつながる。 まさにWell-beingな状況が自分の尊厳をしっかりと担保している状況を生みだしているのではないでしょうか。

ともつくのこれからについて

最後に河本さんから
「居場所機能と就労機能を融合しつつ、地域や企業と一緒にできる仕事など、つながりを通して地域や社会に役に立つことを生み出したい。そして年齢や障害など関係なく、その仕事をやりたいと思っている人や生きづらさを抱えている人たちに提供していける法人を目指しています。」
「福祉施設との連携や新たな場所も作ることを考えながら、「働く」をキーワードにして関わるみなさんが元気になることを続けていきたいと思います。」
と今後の抱負についてお話いただきました。

おもちゃ病院

現在ともつくでは、一緒に活動をしていただける方や、寄付などで活動を応援してくれる方を募集しております。 もし活動に興味を持っていただいた方がおられましたらぜひご連絡をお願いします。

編集後記 「誰にでも必要なWell-being」

河本さんと田端さんとのお話の中で、介護施設のサービス化について触れました。最近では、介護施設でも利用者を「お客様」として扱い、サービスの向上に注力する傾向が強まっているようです。しかし、そのサービス化を追求する中で、利用者の自立できる機会も支援というサービスによって奪っていたのかもしれません。
取材を通じて、役割を感じる場を大切にすることが自己尊厳を守るための重要な要素であり、時には非効率さも重要であることに気づかされました。
個々のWell-beingの重要性は、年齢や障害に関係なく、どの人に対しても同様に大切なものだと考えます。


今回スポットライトをあてた団体・個人

NPO法人地域共生開発機構ともつく 写真右より 河本 歩美さん(理事長)、田端 重樹さん(事務局スタッフ) (こうもと あゆみ、たばたしげき) さん

団体名 NPO法人地域共生開発機構ともつく
代表者 河本 歩美
メール creative_house@tomotsuku.net
Web サイト https://www.tomotsuku.net/
Facebook https://www.facebook.com/profile.php?id=100057584464125
Instagram https://www.instagram.com/kyousei.tomotsuku/

この記事の執筆者

団体名 京都市市民活動総合センター
名前 向井 直文

事業コーディネーター

Web サイト http://shimin.hitomachi-kyoto.jp/
Facebook https://www.facebook.com/shimisen


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