スマートフォンをはじめとして、科学技術は私たちの生活の身近なところにあふれています。具体的にどんな技術が使われているのかをあまり気にせずに過ごしていますが、そのひとつひとつに専門家がいます。
では、その専門家である「技術士」ってご存知ですか?
技術士とは、科学技術分野における専門知識と豊富な実務経験、高度な応用能力をもつ優れた技術者のことを言います。技術士は、国家試験に合格し、登録した人だけに与えられる資格です。技術士の分野は 21 分野に分かれており、「○○ 分野の技術士」という形で資格を与えられます。複数の部門で資格を持っている人もいます。2022 年 3 月末時点で、技術士の資格をもつ人は 9 万 7 千人しかいません。(※)
京都にはこの技術士が集まって、市民や子どもを対象に科学技術の正しい理解を広め、また、地域への貢献活動をしている団体があります。今回はその団体、京都技術士会さんにスポットライトを当てて、代表の野田 公彦さんにお話を伺いました。
※ 「技術士制度について」より。(公益社団法人日本技術士会 令和 4 年 4 月)
京都技術士会は 2022 年で設立から 45 年が経ちました。名前に技術士と入っているとおり、技術士・技術士補が中心となって活動をしています。技術士が集う団体としては、全国組織の「日本技術士会」があり、その近畿本部は大阪にもあります。京都技術士会は日本技術士会とは別の組織として、当時さらに少なかった技術士が京都で集まり、技術士同士が交流するサークルのような形で活動が始まりました。2006 年頃を契機に活動が広がっていき、現在は 1. 講演会、2. こども理科実験教室、3. 無料相談会の 3 つをメインとしています。
京都技術士会の会員は現在、200 名を超えています。9 割は技術士や技術士補で、その半数は現役として企業で働いています。所属する技術士の分野も幅広く、21 ある部門のうち 18 部門の専門家が所属しています。メンバーは京都府内を中心に近畿全体に存在しています。また、「京都技術士会の活動に参加したい」と遠方から参加してくれる人もいます。年齢層も幅広く、30 代~ 90 代の人が活動しています。
1. 講演会
講演会は月に 1 回、一般公開で開催しています。この講演会では、それぞれの専門分野における最新情報だけではなく、専門分野にも関連する趣味の発表、技術士以外の講演など、特定の分野に偏らない様々な発表をしています。テーマの設定は、月ごとの幹事が企画を出し合う他、「この人が手を挙げているからこの人に発表をお願いしよう」という形で講演会の内容を決めています。
2. 無料相談
京都技術士会では、企業や個人の方から科学技術に関する様々な相談を受けています。商品開発や、「工事で建物が揺れて困っている」といったご相談が寄せられると、科学技術の応用で解決できないか考えます。また、困っていること以外にも、テレビや新聞で紹介された科学技術についてご質問いただき解説するなど、科学技術に関する様々な質問に答えます。
相談の他にも、ある NPO 法人が開催する子どもたちから製品開発のアイデアを募集する催しでは、審査にも参加しています。
3. 子ども理科実験教室
子ども理科実験教室は 2006 年から始めた事業です。日本が目指す科学技術立国の将来を支えるような後継者を育てるため、また、技術士の資格をもつ大人たちがその知識と技術を社会に還元するためとして、主に小学生を対象に行っています。講師は、京都技術士会に所属している技術士が務めます。
夏休みには京都府や滋賀県、さらに秋には東北でも毎年開催しています。また、向日市中央公民館の主催企画や他地域にも招かれて、開催しています。
東北では「東日本大震災復興支援 子ども理科実験教室」と題して宮城県や福島県で開催しています。
この教室を開催するようになったきっかけは 2011 年に発生した東日本大震災でした。京都技術士会としてもなにか被災地に支援をしたいと考えていましたが、会員の多くが本業をもっており、現地で継続的にボランティア活動をすることは難しい状況がありました。そこで、2011 年は京都技術士会から義援金を送りましたが、送った義援金が具体的にどこに使われたのかについてはわからず、自分たちにできる支援を直接したいと考えるようになりました。
甚大な被害が出た東日本大震災は復興にとても長い期間がかかります。それを将来的に支えていくのは現在の子どもたちですから、京都でやっているように、「理科好きな子どもたち、理系の若者を育てよう」と復興支援として子ども理科実験教室を始めました。
被災地でご迷惑にならないよう、当初は行く前に開催予定地の状況を調べ、紹介してもらうことで開催し、教室だけではなくごみ拾いもしました。
子ども理科実験教室は、会員有志が理科支援チームを結成し企画・運営をしています。始めた当初は 3 名だった理科支援チームですが、現在は 50 名を超えるチームメンバーがいます。
実験のテーマは講師がそれぞれの専門を活かして考えます。市販の教材を使用するのではなく、一から手づくりでテーマを設定して子どもたちに楽しんでもらえるようなオリジナル企画を考えるのです。2022 年は「ブーメランをとばそう」や「電球をつくろう」などのテーマで実施しました。
参加してくれる子どもは理科好きな子どもだけではありません。「理科は好きじゃないけど面白そうだから」、「宿題の参考にするため」、「親や知人に勧められたから」との理由で参加する子どももいます。
感想には、「ふしぎに思ったことがたくさんあってとってもむずかしかったし楽しかったです。」「とてもおもしろくて、家でもできそうなじっけんばかりだったので、ぜひほかにもおもしろいじっけんを作ってください。またきたときにそれをやってみたいです。」という声が寄せられており、子どもたちが楽しんでいる様子がわかります。
この実験教室は、小学校低学年の子どもたちは必ず保護者同伴で参加してもらっていますが、高学年が参加するものも保護者の多くが子どもたちと一緒に参加しています。保護者からも、「子供が楽しそうに取り組んでいたので参加させて良かったです」「大人が見ていても楽しくなるほどと思い勉強になりました。」との感想をいただいています。
子ども理科実験教室では、できる限り参加費を低くして様々な子どもに参加してもらうために助成金を活用しています。そのための申請や実施後の報告など、事務的な手続きが伴います。
また、広報面ではチラシを小学校へ持ち込み、配布してもらうため校長先生や教頭先生、理科担当の先生などに、直接お願いをしています。
当日の運営では、各回 30 名程度の参加がありますが、講師だけではなく、テーブルごとにスタッフがついています。その甲斐もあり、今まで大きな事故は発生していません。
京都技術士会には事務専門のスタッフはいませんが、子どもたちに楽しく参加してもらうため、事前準備や当日の運営、事後の手続きを担当者で分担し、協力して開催しています。「彼らはそれぞれに本業をもっています。その合間をつかってこの事業を実施してくれていますから、頭が下がる思いです。」と野田さんは話されました。
子ども理科実験教室は毎回、定員を超えるほどの申込をいただいています。当日も参加した子どもたちやその保護者の笑顔を見ることができ、「楽しかった」「また参加したい」といった感想も多く寄せられます。実施する側としても「やってよかったな」と思える企画です。
毎年、しみセンにも子ども理科実験教室のチラシが届きます。私も子どもたちと同じように、「気になる実験ばかりだな」「楽しそうだな」と思いながら見ていました。
今回、これらの事業を担っている人が本業の合間を縫って事前準備から後片付けまで分担して行っていることや、東北での子ども理科実験教室は祝日の 3 連休を使って行っていることを聞きました。
子ども理科実験教室では、当日会場で「夏休み理科自由研究・宿題相談コーナー」も開催されています。その中では、「こんなことを調べたいのだがどう実験すると良いのか」「こんな結果が出たのだけど、どう考えてまとめたらいいのか」という相談が寄せられ、技術士が一緒に考えてくれるそうです。
事前準備から当日の運営、後片付けまで、子どもたちに楽しく学んでもらい理科に興味をってもらうため、本当に熱意をもって活動されているのだと感じました。
京都技術士会 会長
京都にある化学会社の研究開発部門を定年で退職し、以降、京都技術士会を中心に活動している技術士 (化学および総合技術監理部門) です。
孫たちが大きくなったのは良いが、あまり遊んでくれなくなったのが残念です。
※ 個人の肩書や所属する団体は、執筆時点 (2023年4月) の情報です。
団体名 | 京都技術士会 |
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代表者 | 野田 公彦 |
メール | info@kyoto-pe.com |
Web サイト | http://kyoto-pe.com/ |
団体名 | 京都市市民活動総合センター |
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名前 |
久内 美樹 事業コーディネーター |