電話を通して、子どもたちの心の中に安心できる場所を

掲載日:2022 年 2月 25日  


 「チャイルドライン」という18歳までの子どものためのフリーダイヤルがあることをご存じですか。
 この電話は、子どもの話を最後まで聴いて、時には一緒に考えてくれる、そんなボランティアのもとへ繋がります。ボランティアは電話を通して子どもたちの話を聴き、気持ちを受け止めたり、子どもと一緒に考えたりすることで、子どもたちが前を向くための手助けをします。
 この電話、「チャイルドライン」という取組みには子どもたちに安心して話してもらうため、「ヒミツは守るよ」「名前は言わなくていい」「どんなことも一緒に考える」「切りたいときには、電話を切ってもいい」という4つの約束があります。だからこそ、子どもたちは学校や家族、自分自身のことなど様々な話ができます。周りの人に相談することが難しい真剣な相談も、誰かと繋がるためのおしゃべりもできるのです。

 では、そのチャイルドラインの取組みを行っているのはどんな団体なのでしょうか。
 今回は、京都府内でチャイルドライン活動を実施している唯一の団体、NPO法人 チャイルドライン京都で理事長を務める、根本 賢一さんにお話を伺いました。

このページのコンテンツは、NPO 法人 チャイルドライン京都 根本 賢一さんにスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

「子どもたちの声を聴く」ことを大切に

「チャイルドライン」の取組みは、日本では 1995 年に東京都世田谷で始まりました。その後全国的に広がり、現在は 39 都道府県に 68 のチャイルドライン実施団体があります。2007 年からはフリーダイヤル番号となって全国どこからでもかけやすくなりました。さらに、2016年 からは電話だけではなくチャットでの相談も受けています。

 

 「チャイルドライン京都」では、電話でのチャイルドライン活動のみを引き受けており、チャットでのチャイルドライン活動は今はまだ実施していません。これはチャットでの相談が良くないということではありません。チャイルドライン京都が「子どもたち本人が、その声で今考えていることや自分の気持ちを話す」ということを特に重視しているため、チャットへの子どもからのニーズがあることを認識されていますが、今は電話のみで活動をされているそうです。


 チャイルドラインで子どもたちの話を聴くのは、「受け手」と呼ばれるボランティアの人たちです。
 「受け手」になるには、まず初めに養成講座を修了する必要があります。養成講座では、チャイルドラインの歴史や目的、理念としている「子どもの権利条約」について、また電話の中でも比較的多い「性」に関することについてなど、受け手となるための必要な知識を学びます。その後、受け手となる意思を確認したうえでインターン研修へと進みます。そこでは、電話を受ける際に想定される状況を、ロールプレイを通して学んでいきます。最後に選考を経て、ようやく「受け手」となることができます。
 チャイルドラインの電話番号は全国共通のフリーダイヤルで全国のボランティアが電話を受けています。全国の「チャイルドライン」実施団体は、スキルアップのための研修に取り組むことが要件として定められており、全国の団体が協力することで、子どもは毎日、チャイルドラインに電話をすることができます。

ボランティアスタッフから運営スタッフへ

 根本さんは大学で事務職員として働いています。その仕事の中で、チャイルドライン京都について知り、養成講座を受講したり、運営面で関わるなど、活動に参加するようになりました。以前から、市民活動やボランティア活動に関心を持っており、チャイルドライン京都以外の活動にも関わっていた根本さん。だからこそ、仕事をしながらチャイルドライン京都の活動をすることについても、しんどさや大変さは感じなかったそうです。

 いちボランティアとして活動していた頃は決められたことをやるだけでしたが、運営スタッフとなった際には、組織の運営面についても考える必要が出てきたため、慣れるまでが大変だったそうです。
 一方で、運営スタッフになったからこそ感じたうれしさもあります。それは、ボランティアスタッフとして関わる人達が団体内のさまざまな役割を担ってくれることと、そのおかげで組織が成り立つことを実感することです。
 それを特に実感したのは、チャイルドラインの電話番号と「4 つの約束」が書かれたカードの、京都府内のすべての学校への配布でした。京都府内の小学校から高校、特別支援学校などに通うすべての子どもたちへカードを届けようとすると、30万枚も必要です。大量のカードを発送する準備はとても大変ですが、その準備を行うカード配布チームの皆さんは和気あいあいと、手分けをしながら活動されていたそうです。ボランティアの方々の、そういった様子を見聞きできたことがうれしかったのだと根本さんは言います。

追いつくことはできなくても、自分にできることをやる


 チャイルドライン京都では、2020 年に外村まきさんから根本さんへ「理事長」というバトンが渡されました。外村さんは、京都府の中でチャイルドライン活動の立ち上げから中心となって活動されてきた方です。

 チャイルドライン京都が設立される大きなきっかけとなったのは、1997 年に神戸で起きた神戸連続児童殺傷事件です。これ以前から、青少年がバットで人を撲殺してしまうなどの青少年が起こす事件が頻発しており、メディアでも大きく取り沙汰されていましたが、この事件は一見「普通」な中学生が小学生を 5 人殺傷し、社会に衝撃を与えました。
 外村さんはこの事件を知り、「子どもたちの居場所はあるのだろうか」「大人は何をしているのだろうか」と考えるようになりました。ちょうどその時期に、東京でチャイルドラインを開設しようという動きを知り、「チャイルドライン」の取組みを知った外村さんは、この取組みがとても大切なことだと考え、京都でチャイルドライン活動を立ち上げました。

 立ち上げた当初は当然のことながら、チャイルドラインという取組みが社会的に認知されていません。当時のスタッフは「チャイルドラインを子どもたちにも大人たちにも知ってもらいたい」という熱い思いで活動をされていました。その一つが、京都府内の学校へカードを届けることでした。
 現在はチャイルドラインに対する理解が広がり、教育委員会を通じて各学校へ配布していますが、活動開始当初は、車で一校ずつ訪問し、カードの配布を直接お願いしていました。しかし、学校へ持って行っても配ってもらえなかったり、代わりに門前で配れば「なにをしているのですか」と声をかけられたりといったことがありました。その中でも当時のスタッフは諦めることなく、子どもたちへカードを届けるべく活動を続けていました。困難な状況でもあっても、情熱をもって臨むことでひとつひとつ前に進んでこられたことがよくわかるエピソードです。

 このように、熱心に活動してきた「チャイルドライン京都」の中心となって活動し牽引してきた外村さん。その外村さんから、根本さんは理事長を引き継ぎました。はじめは外村さんに追いつくことができないことや同じようにはできないことに悩まれた時期もあったそうです。しかし、同じ目的のために活動しているという点で共通していることに気づいてからは、外村さんを追いかけるのではなく、自分にできることをしながら活動していると話していました。

より多くの人に活動を知ってもらうため、関わってもらうため


 最後に、チャイルドラインの今後について伺いました。

 京都府ではチャイルドライン活動を行っている団体は、チャイルドライン京都しかありません。しかし、京都府は南北に広いため、受け手ボランティアを広く募集したり多くの人に関わりを持ってもらうためにも、京都府の全域の人が関わりやすい拠点が必要です。ボランティア養成講座はオンラインで実施できる時代ですが、やはり電話を受けるためにはボランティアの方に拠点に来てもらう必要があります。しかし、遠方の方が来るのはお金や時間がかかって大変です。だからこそ拠点を増やしていきたいと考えているそうです。そして、チャイルドラインの活動理念である「子どもの権利条約」についても、より多くの大人たちにも知ってもらうための取組みを進めていくそうです。

 もちろん、チャイルドラインの電話番号が書かれているカードを府内すべての子どもたちに向けて配っていきたいという想いは変わることなく受け継がれています。カードの配布枚数は、着信件数に如実に反映されます。「一度配れば OK」なのではなく、毎年配り続け、子どもにチャイルドラインの存在を定期的に知らせることが重要なのです。「昨年と今年はすべての学校に届けることが出来たので、これからも続けていきたい」とお話しされる根本さんを見て、団体の活動は、その想いと共に引き継がれていくことを実感しました。

 小学生の頃、私の学校でもチャイルドラインのカードが配られていました。しかし、その裏側にボランティアの方の努力と熱い想いがあることを、私は今回初めて知りました。さらに裏側には、1 年 2 年だけでは足りない長年の努力と運営する皆さんの熱い想いがあることも知りました。

 子ども食堂をはじめとする「居場所」を作る活動では、実施するその場に居場所となる安心できる場所を用意しています。
 「チャイルドライン」という活動では、子ども食堂のように、直接子どもたちの居場所となるような「場」を作っているわけではありません。しかし、子どもたちが自身の言葉で自分のことを話し、それを大人が最後まで聴き、時に一緒に考えることで、子どもたち自身が自分を肯定できるようになることに繋げる活動なのだと感じました。

 目に見える居場所を用意するのではないけれど、「チャイルドライン」という電話を通して子どもたち自身の心の中に安心できる場所を作っていく。そのために、初心を忘れることなく、力を惜しむことなく子どもたちへ情報を届けていく。
 だからこそ、想いは受け継がれ、チャイルドライン活動は現在も続いているのではないでしょうか。


今回スポットライトをあてた団体・個人

NPO 法人 チャイルドライン京都 根本 賢一 (ねもと けんいち) さん

NPO 法人 チャイルドライン京都 理事長

団体名 NPO 法人 チャイルドライン京都
代表者 根本 賢一
所在地 〒607-8427 京都市山科区御陵久保町 52-24 真明電気 2F
団体について

 チャイルドラインは、18 歳までの子ども専用電話です。電話をかけてきた子どもたちは、自分の抱えている困難について話すことで心を開放したり、混乱した感情を整理したり、自分自身を癒したり、自分の気持ちを確かめたりする、ほっと安心できる場の一つであり、子どもたちの居場所提供事業です。2000 年より開設し、以来 10 年間で約 4 万件の子どもたちの声を受け止めてきました。

電話 075-585-3038
FAX 075-585-3038
メール kyoto.childline@gmail.com
Web サイト https://kyotochildline.org/

この記事の執筆者

団体名 京都市市民活動総合センター
名前 久内 美樹

事業コーディネーター

Web サイト http://shimin.hitomachi-kyoto.jp/
Facebook https://www.facebook.com/shimisen


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