子どもたちがつくる、地域と環境と未来

掲載日:2021 年 11月 26日  


京都市の地域コミュニティを特徴づける「学区※注1」。行政の区画ではなく、一定の地域の自治会・町内会等が自主的に集まってできています。各学区を代表する住民組織(学区自治連合会など)では、自主防災や高齢者の見守り活動、子育て支援など、地域事情に合わせた活動を実施していることも。歴史的な経緯もあり、地域コミュニティ危機が叫ばれている今日であっても、「地域(学区)の安心安全は地域で守り、子どもたちは地域全体ではぐくむ。」という意識がとても強いと言えます。

この特性を活かして、気候変動をはじめとする環境への取り組みを地域レベルで進めようとする京都市の施策が、「エコ学区※注2」です。京都市から委託を受けたサポーターが、地域に根差した環境学習プログラムや、学区独自の様々なエコ活動を支援してきました。それらの取組み事例の中には、地域コミュニティ活性化との相互作用を狙った取組みも多く、まさに「京都議定書のまち」と「町衆文化」の融合のカタチとも言えます。

今回は、「エコ学区サポーター」の実績と経験を基に設立された「NPO 法人子ども環境ネットワーク」にスポットライトを当てました。代表の大丸洋一さんと監事の高瀬まどかさんよりお聞きした、あっと驚くような活動の広がりをご紹介します。

*注1 「学区」とは、幕末の動乱や明治維新に伴う人口流出によって壊滅的な被害を受けていた京都の町を復興するため再編された地域コミュニティの区画名称。明治2年に全国に先駆けて作られた 64 の「番組小学校」は、京都府と各学区の町衆らが資金を出し合い、設立・運営されました。「番組小学校」は地域のコミュニティセンターとして、町会所、徴税、戸籍管理、交番、府兵駐屯所、消防などと様々な自治機能を果たしていました。

*注2 京都市は温暖化に対する国際条約「京都議定書」が採択されたまちとして、日本で初めて温室効果ガスの削減目標を明記した条例を策定。市民と進める温暖化対策に力をいれ、地域ぐるみでエコ活動に取り組んでいる学区を「エコ学区」として、活動を支援しています。

このページのコンテンツは、NPO法人子ども環境ネットワーク 代表:大丸洋一さん/監事:高瀬まどかさんさんにスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

京都の NPO 法人が釧路で環境教育プログラム ?

 2021 年 4 月に NPO 法人として設立されたばかりの NPO 法人子ども環境ネットワークは、子どもたちの環境学習と地域の環境保全に取り組む団体です。しかし、こう簡潔にまとめてしまうとその活動の魅力がまったく伝わらない、独特の視点とノウハウを持っている団体なのです。
 コロナ禍真っ只中に設立され、しかもフィールドワークを伴う活動のため、事業が進みづらいのではないかと思いきや、北海道釧路市の教育委員会と連携した事業が動いているとのこと。実は現在、釧路市内にある複数の公立小学校 4 年~小学校卒業まで、3 年間の環境教育プログラムが試行されているのです。
 しかもこのプログラム、来年度に新 4 年生となる児童への本格実施が決まっており、今後は複数学年のプログラムを同時並行で動かすことになるのだとか。

 プログラムの中身は 2 本柱になっています。
 1 つ目の柱は釧路の複数の小学校の子どもたちが力を合わせて釧路湿原を守る環境教育プロジェクト。釧路湿原は国立公園に指定されているため、子どもたちが湿原の中で保全活動体験を実施することは様々な困難があります。しかし、他県に住む児童との交流を通して視野を広げ、釧路湿原の魅力をより深く理解しすることで、湿原の環境や生態系と自分たちのライフスタイルなどが連動している構造に気づくことができるようになります。すると子どもたちは、どんな行動が必要なのかを考え、行動を選択していくことが可能になります。
 子ども環境ネットワークは、授業プログラムの構築はもちろん、子どもの気づきを促すグループ学習でのファシリテートや、交流校との交渉などを担います。

 2 つ目の柱は、子どもたちのアイデアや行動宣言を企業などに紹介して、取組みを実現させるプロジェクト。実施する取組みは子どもたちが話し合って合意をし、「子どもたちでできること」と「大人にお願いしたいこと」にわけて整理します。
 そして「大人の力が必要な取組み」実現にむけて、企業・地域への提案を行い、連携実施を子ども環境ネットワークが担います。

 実は、この取組みは単なる環境保全を目的としたプログラムではなく、釧路市の関係人口※注3 を増やす狙いがあるのです。人口減少が進行している地方自治体では、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が、地域づくりの担い手となることが期待されています。この取り組みには、釧路を離れたとしても釧路のことを忘れずに、さらに、釧路を思い宣言した行動を実行し続けて欲しいという、地域再生視点での狙いが非常に大きく影響しています。
 今年度は試行段階とのことで、釧路湿原ではなく、より身近な春採湖(はるとりこ)※注4 にフィールドを設定して実施されるとのことです。

 教育に関する取組をしている団体の多くが学校や教育委員会と連携したいと願っていますが、公的な教育機関に NPO が入ることは意外とハードルが高く、相応の実績がなければ難しいのが現実です。4 月に立ち上がったばかりの子ども環境ネットワークが、なぜ遠く離れた釧路市教育委員会と連携し、このような大がかりなプログラムを実施できるのでしょうか。

*注3 「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉(出典:総務省「関係人口ポータルサイト」より)

*注4 春採湖(はるとりこ)は釧路の市街地の中にあり、ヒブナの生息地として昭和 12 年に国の天然記念物に指定、周辺は春採公園として整備されており、市民に親しまれている湖です。淡水と海水が混じった汽水湖のため、汽水性の生物が生息している他、鳥類は 130 種以上が飛来しており、湖畔には 400 種ぐらいの植物が見られる、たいへん希少な湖沼です。

子ども環境ネットワークのメンバー(一部)左:高瀬さん、中央:大丸さん、右:猛禽類医学研究所副代表の渡辺有希子さん

これからは子どもを中心に考えていくほうが、現実的。

 子ども環境ネットワークは、冒頭で取り上げた「エコ学区」のサポーターとして活動してきたコアスタッフを中心に、生態学分野におけるデータ解析やアプリ開発などを行うベンチャー企業の社長、釧路市をベースに野生生物の保護に取り組む獣医師、地方自治体のガバナンスや地域コミュニティ再生を研究テーマとする大学教授など、非常に専門性の高いメンバーで設立されているのです。実践に裏打ちされた確かな実績と積み上げられたノウハウ、さらにメンバーの多様な専門性こそが、釧路での取組みの要因だといえそうです。
 代表の大丸洋一さんと監事の高瀬まどかさんが、「エコ学区サポーター」としてどのような活動に関わっておられたか、詳しくお話をお伺いしました。

 現在、京都市内の全 222 学区が「エコ学区」として活動中です。しかし、地域コミュニティの中では高齢化や防災などの問題がどうしても優先されますので、エコ活動については後回しになってしまいがちです。
 そこで私たちは発想を転換し、「地域(学区)の課題を解決することを前提に活動を進めると、エコ活動が後から自然と伴ってくるという」取組みにしてみました。

 例えば中京区の北東に位置する銅駝学区は、学区内に、日本銀行、京都ホテル、京都ロイヤルホテル、リッツカールトンホテルがあり、オフィスと住居の混在した地区です。島津製作所旧本社ビルの近辺はマンションが多く、町内会への加入率も低下しています。これらの悩みを解決するためにいろいろインタビューをしていたところ、学区内にある高瀬川に、元々蛍が住んでいたことがわかりました。
 そこで、「蛍を自生させよう」と高瀬川を整備し、6 月上旬ごろ1週間近く、電気を消して蛍鑑賞イベントを実施しました。学区の方から地域企業や地域商店に協力を呼び掛けてもらい、商店やホテルも全て消灯に協力してくれたことにより、この期間だけで 1 トン分の CO2 (電気消費量)を削減することができました。
 地域企業も住民もマンションに住む新住民も、みんなで一緒に協力することによって、コミュニティの強化が図れ、結果的にエコ活動に取組むことができたのです。

 この取組みで分かったことは、子どもたちの影響力です。小学校で蛍の餌になるカワニナを高瀬川に自生させる役割を担ってもらったのですが、子どもたちが必死に取り組んでいる姿を見て、大人たちも協力してくれた側面が大きかったのです。
子どもたちの意見の中から「自分たちの地域をキレイにしたいんだ、〇〇を守りたいんだ」という想いが出ると、子どもの一生懸命さに応えようと大人は動き、温度感の異なる人々も協力しやすくなる、ということに気づきました。

オンラインを活用した子ども同士の意見交換

異なる地域の子ども同士が意見交換することの意義

子ども環境ネットワークのプログラムの特徴は、全く異なる環境にある地域の子どもたちを交流させ、子どもたちの視野を広げながら学びを深めることです。それぞれの地理的環境はもちろん、地域環境も大きく違うので思い浮かべる「自然」も異なります。
 いったいどのように子どもたちの意見を引き出し、気づきを促しているのでしょうか。

 昨年は、京都市立安朱小学校での環境教育プログラムにおいて、北海道教育大学附属釧路義務教育学校の児童とオンラインで意見交換の授業を行いました。まずは両校混合の小さなグループに分かれ、事前に作成したもらったポスターを使って「地域の好きな場所」を紹介。安朱小学校の児童は疎水や毘沙門堂などを挙げ、一方の釧路義務教育学校の児童は、森の中のクマゲラやザリガニ、珍しい魚などを見せてくれました。安朱小学校の児童は「それってなに?どんな生き物?」と興味津々。全然違うからこそ、「これ何?」という会話からスタートすることができます。

 釧路義務教育学校の児童は、「阿寒の森」の保全について「人間が森に入ったほうがいいのか、それとも手を付けずにそのままにしておくほうがよいのか」といった、とても難しい問題について提起し、安朱小学校の児童はそれを受け、「例えば、森に再生エネルギーがたくさんできている。再生エネルギーは大切だが、森を切り開くのはよくない」など、視野を広げている様子が伺えました。

 一方、釧路小学校の児童は最初「森を守るためには植林をしなければ」という観点ばかりだったのですが、安朱小学校からは「SDGs」に取り組んで街を守っていきたいという話がでたことで、自分の日々の生活が森林を守ることにも大きく影響していることに気づき、自分なりの行動宣言をすることにつながりました。子ども同士だとしっかりと意見交換ができるし「どう実現しよう」という話もできることがわかりました。

 地域性を越えて交流し意見交換することで、子どもたちはマクロの視点とミクロの視点を持つことができたと言えます。環境教育においてはとても重要ですが、実際にこの交流をファシリテートし、そこから具体的な行動のビジョンをたて、実行することは簡単ではありません。そこには、環境の知識、教育におけるファシリテートの技術、地域特性の鋭い分析、そして地域住民へ働きかけるための交渉術など、様々な専門性が必要不可欠です。
 子ども環境ネットワークではIT分野のメンバーも参加し 2025 年には海外の環境先進国の子どもたちと情報交換を行う目標にしているとのこと。それぞれのメンバーが持っている高い専門性を結集するからこそ、可能な取組みだといえます。

釧路義務教育学校の児童がザリガニを紹介している様子

地域と未来のための、ポジティブ・サイクル

 「子どもたちは『大事な景色』をしっかりと持っています。子どもたち自身が考え、話し合い、行動を起こすことが重要で、それをどうやって実現するか。子ども環境ネットワークの活動はプロトタイプ的な活動だと思っています。」と、大丸さんはおっしゃいます。
 プロトタイプとはある製品の原型あるいは試作品のこと。  本質的なプログラムの軸をつくって、地域特性に合わせてカスタマイズしていけることを子ども環境ネットワークは目指しています。決して「京都のエコ学区サポーターの取組み事例をモデルに、他地域で同様のプロジェクトを実施する」のではありません。必ず、教育委員会、小学校、地域関係者にヒアリングを行うことで、それぞれの異なる文化をもつ地域に合わせたプロジェクトの展開が可能であるといえます。

 地球環境も地域コミュニティも、これからますます厳しさを増していきます。その中で生活しなければいけない子どもたち世代。
  どんな風景を残していくかを子どもたち自身で決め、実行していく。
 大人主導の取組みではなく、大人たちを動かす取組みをつくっていく。
 子ども環境ネットワークの取組みは、環境保全と地域コミュニティの再生を同時に目指し、子どもたち自身が未来をつくっていくための、まさに本質的なプロジェクトなのです。

 子どもたちの思いを実現するためには、具体的に大人が動くことはもちろんのこと、資金も必要です。助成金は活動が申請内容に縛られることも多いので、時流の変化に合わせた計画のブラシュアップや不備の修正を行うのが困難です。
 この資金をどう集めていくかはこれからの課題ともなっていますが、SDGs や ESG 投資の流れからも、地域課題や環境保全に具体的に取り組むことで企業価値を高めていきたいと思う企業は多くなっています。
 地域のために子どもたちが出した夢やアイデアを企業が応援することで、地域の環境が守られ、また、地域企業に親密さを感じる住民も増える。このような好循環が生まれるのは、そう難しくないかもしれません。

NPO 法人子ども環境ネットワークは、京都市市民活動総合センターが主催する 「市縁堂 2021 」の参加団体です。2021年12 月 18 日(土)に開催される「市縁堂2021」に来場いただくと、直接寄付や応援をすることができます。

また、2022 年 1 月 31 日まで、 クラウドファンディングサイト(京都地域創造基金)よりこの取組みへのご寄付が可能です。

* (公財)京都地域創造基金を通した「市縁堂 2021」参加団体への寄付金は税制上の優遇措置の対象となります。
*クラウドファンディングサイトにて集まった寄付は参加団体で均等割りにて配分致しますが、団体を指定してのご寄付も可能です。(団体を指定されたい場合は、寄付申込時にその旨を京都地域創造基金にお伝えください。Web の場合は備考欄に「団体名」を入力してください。振り込みの場合は通信欄をご利用ください。)
*寄付の方法や税制優遇の詳細については、市縁堂特設サイトもしくは京都地域創造基金 HP でご確認ください。


今回スポットライトをあてた団体・個人

NPO法人子ども環境ネットワーク 代表:大丸洋一さん/監事:高瀬まどかさん (だいまるよういち/たかせまどか) さん

写真左:高瀬さん、中央:大丸さん、右:猛禽類医学研究所副代表の渡辺有希子さん

※ 個人の肩書や所属する団体は、執筆時点 (2021年11月) の情報です。

団体名 NPO法人子ども環境ネットワーク
所在地 〒600-8127 京都市下京区西木屋町通上ノ口上る梅湊町83-1 「ひと・まち交流館 京都」2階 京都市市民活動総合センター内
団体について

子どもたちが「守りたい景色」を子どもたち自身が守り続ける活動を応援しています。
子どもたち自身が力を合わせて、愛する地域、誇りの持てる国、大好きな地球を考え、思いを守り続けていく行動を実現させています。例えば、「子どもからの地域を守るアイデア」を地域団体や地域企業と結び、地域の人々が環境保全に具体的に取り組むことで、「アイデア実現していく楽しさ」を提供しています。この活動は、「環境」をテーマに、地域コミュニティを強化し、再生することも目指しています。

メール child.e.net@gmail.com
Web サイト https://www.ce-n.org/
Facebook https://www.facebook.com/child.env.network
Instagram https://www.instagram.com/c_e_network/

この記事の執筆者

名前 土坂のり子

京都市市民活動総合センター チーフ事業コーディネーター



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