「援助」に「家族」の学びをプラスして

掲載日:2021 年 1月 29日  


社会福祉士や精神保健福祉士、公認心理士などの対人援助の専門資格を持って働いている方がいらっしゃいますが、対人援助職者の方々が家族にまつわる勉強の機会は少ないのだそうです。
日本では、家族を 1 単位とした支援の枠組みが少ないですが、支援を行う方の背後には家族があります。

新型コロナウイルス感染拡大による自粛要請で家にいる時間が長くなったことで家族内の問題が深刻化し、「コロナ離婚」、「コロナ DV」、「コロナ虐待」といった言葉もよく耳にします。
子どもが親などから虐待を受けたとして全国の児童相談所が対応した件数は年々増加していて、2019 年度は 19 万 3780 件と、前年度からの伸び幅も過去最大になっています。

今回スポットライトを当てるのは、家族にまつわる学びの場を提供し、対人援助職者を支える仕組みづくりを行っている「家族支援と対人援助 ちばっち」主宰の千葉 晃央さんです。

このページのコンテンツは、家族支援と対人援助ちばっち 千葉 晃央さんにスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

働きながら学びたい!

大学で社会福祉を学びました。学びながら仕事をしたいと思い、その後は研修センターも運営している障害者福祉の施設に就職しました。
いつか大学院で学びたいと思っていたので、社会人が多く学んでいる大学院に仕事をしながら通うことになったのですが、大学院のカリキュラムには事例検討の場がなかったんです。

せっかく現場を持っている社会人がたくさんいるのだから事例検討の場が必要なのでは?と先生に持ちかけたところ、「自分でやったらどう?やるんだったら手伝うよ」と言ってもらい、在学 1 年目の 12 月から月に一度のペースで「家族をテーマにした事例検討会(以下、事例検討会)」を始めました。

これまで個人として世話人協力者数名と事例検討会を運営してきましたが、2020 年 4 月からその活動を「家族支援と対人援助 ちばっち」として行うことになりました。

家族の視点で対人援助を考える

家族のことは、障害者福祉でも高齢者福祉でも児童福祉でも、どんな現場にも絶対ついてくる問題です。その割には、社会福祉士や精神保健福祉士などの対人援助の専門資格を取得する上で、家族のことを学ぶ内容は、科目にはほとんど含まれていません。

家族の視点で物事を考えられる対人援助職者が増えるとよいと思って、家族について学び続けられる環境をつくることを目的に始めました。

対人援助職者が学び合える場づくり

事例検討会の様子

事例検討会で扱う事例は、職場での出来事や私事での事例を参加者に持ち寄ってきてもらっています。
当初は、毎月1事例を出してもらうのに苦労をしていました。どなたからも出ないときには世話人に事例を出してもらうようにお願いをしたりしたこともありました。
そうすると、事例を出す人と全く出さない人に分かれてしまいました。それでは面白くないなと思い、アドバイザーの先生に相談して、事例を出せる状態の人だけ参加可能ということにしました。

こうすることで、こちらも事例の準備に大変な思いをすることがなくなりましたし、参加者がみんな色々な役割や立場を経験できる豊かな場になったと思います。

この事例検討会では、「unclass」を大事にしています。「unclass」とは、授業にしない、クラスにしない、という意味なのですが、先生と生徒という役割を分けてしまうのではなく、お互いができることを教え合う関係性です。

コロナ禍での試み

事例検討会の中で、自分がいる現場で今何が起こっているのかをお互いに出し合い、交流や情報交換といったネットワークづくりのための時間をつくっています。
私自身、現場で働いていてネットワークをつくることが大事だと感じていたので、事例検討だけでなく、こういったことも行っています。

コロナの影響で、2 月から 4 月まで事例検討会は中止となりました。
5 月には Zoom で試験的に開催しましたが、個人情報のこともあり、事例検討をオンラインで行うのは難しいと感じました。
事例検討は行わなくてもネットワークづくりは継続してほしいという声もいただき、今はオンラインで対人援助職の方々がつながる場として「となりの事情」と題して開催しています。

オンライン開催「となりの事情」

コロナ禍でも、やらなければならない仕事に直接関係する研修はオンラインを使って開催されていました。
ただ、何が変わったかというと、研修の前後で、参加者同士で話す機会がなくなってしまったと感じていました。
オンラインだと、研修そのものの時間しかなく、隣の人とちょっと会話や意見交換をするウィスパリングができませんし、研修後に久しぶりに会った仲間と食事やお茶しに行く、ということもできず、会っているけれど会っていないという感覚でした。

ですので、「となりの事情」は、コロナ禍で失われた、研修のオプションで付いてくるような“気軽でゆるい”おしゃべり会として開いています。

オンラインでやってみてよかったのは、遠くの人と繋がれたことです。フィリピンに住んでいる日本人の方や秋田在住の方も参加しています。

京都発、全国展開をめざして

これまで京都を中心に行ってきた対人援助職者の家族にまつわる学びの場を全国に展開したいと思っています。
全国的に見てもこういった場が少ないのが現状ですので、まずは私の出身地である秋田県でできないかなと考えています。

また、事例検討会以外にも、家族を学ぶプログラムづくりや動画教材をつくっていきたいですね。


今回スポットライトをあてた団体・個人

家族支援と対人援助ちばっち 千葉 晃央 (ちば あきお) さん

家族支援と対人援助ちばっち 主宰

社会福祉士
立命館大学 客員協力研究員

秋田市生まれ、大阪府豊中市育ち。障害を持つ友人が必ずクラスにいる環境で育った。龍谷大学社会福祉学科卒業。学生時代はスイミングコーチ、キャンプリーダーとして活動。青年功績賞、感謝状をいただく。1996 年から障害者福祉の現場を経験。支援員、事務長、施設長も経験。1999 年から家族療法を学び、家族療法の相談員を現在も務める。2003 年、立命館大学応用人間科学研究科臨床心理学領域家族クラスターを修了(人間科学修士)。在学時に「家族をテーマにした事例検討会」を開始。現在も継続。2008 年から教育機関での業務も兼務。国家資格社会福祉士の養成課程、行政ソーシャルワーカー研修プログラム、児童福祉施設職員の海外研修プログラム、社会福祉情報誌の編集も企画、担当、講師を務める。2009 年に対人援助学会の設立発起人となり、常任理事、教育部門担当、対人援助学マガジン副編集長として現在も活動。2020 年「家族支援と対人援助 ちばっち」としての活動を始める。家族療法、家族支援、障害、ソーシャルワーク等に関する講演等の活動を継続的に実施。同時に児童福祉、特に里親支援に関するソーシャルワークと援助職養成にも関わっている。

※ 個人の肩書や所属する団体は、執筆時点 (2021年1月) の情報です。

団体名 家族支援と対人援助ちばっち
代表者 千葉 晃央
所在地 〒600-8127 京都市下京区西木屋町通上ノ口上る梅湊町 83 番地の 1 ひと・まち交流館 京都 2 階 京都市市民活動総合センター内
団体について

2001 年から毎月開催してきた「家族をテーマにした事例検討会」の活動を軸にしています。現在、20 年目に入り 210 回以上継続しています。参加者は福祉、心理、教育などの対人援助職の方々です。現場の事例を取り上げて、検討するとともに、援助職のネットワークの構築にもつながっています。そのネットワークは、困ったときに相談できる存在です。そうして各援助職の現場に寄与することになり、それが利用者の方に届くということを目指し活動してきました。現在はコロナ禍に対応し、オンラインでの会となっていますが毎月継続中です。

ひきこもり、少子化、介護問題、不登校、障害者問題、依存症等、多くの社会課題の背景には必ず家族があります。様々な対人援助の領域において家族へのアプローチが不可欠となっています。しかし、援助専門職の養成では家族に関して学ぶ機会は限定的です。そうした状況を補い、改善できることを願っています。家族に関して学ぶ機会の提供、家族を学ぶ援助専門職を支える仕組みづくり、家族療法等の知見を活かしたプログラム等の開発と普及を目指しています。 

電話 090-927-75049
メール chibachi@f2.dion.ne.jp
Web サイト https://r.goope.jp/chibachi

この記事の執筆者

団体名 京都市市民活動総合センター
名前 真鍋 拓司

事業コーディネーター

Web サイト http://shimin.hitomachi-kyoto.jp/
Facebook https://www.facebook.com/shimisen


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