阪急東向日駅から歩くこと25分。
住宅地の先にぽっかりと見えてくる竹林が、今回スポットライトを当てる「籔の傍(やぶのそば)」の活動の拠点です。
乙訓地区は、平安時代より竹細工やタケノコなど、竹の産地として知られてきました。けれども近年、国産の竹の需要が減り、竹林は放置されるようになりました。
手入れをされず増えすぎた竹は、雑木林に侵入してほかの木を枯らしてしまったり、生態系を壊してしまったり、浅くはった竹の根が山崩れの原因となったり……長く人々の暮らしを支えてきた竹林は、いつの間にか厄介者扱いされるようになってしまいました。
そんな現状をなんとかしようと活動しているのが「籔の傍」です。放置竹林を舞台に、タケノコ掘りや竹の整備作業はもちろん、タケノコ料理作りや、間伐した竹を使った18畳もの竹桟敷づくり、秘密基地や茶室づくり、大きくなってしまったタケノコでメンマを作ったり、竹を使ったバウムクーヘン焼きなど、竹に関わることならなんでもあり!? の自由自在な活動っぷり。
小さな団体でいったいどうしてここまでできるんだろう……と興味津々で、代表の小関さんにインタビューさせていただきました!
お邪魔したのは秋晴れの日曜日。竹林に着いたのはちょうどお昼の時間帯で、参加者の皆さんが焚火を囲んで豚汁と焼きそばを食べているところでした。
それぞれが好きな場所で思い思いに過ごしているようでいて、「〇〇さん、これ食べた?おいしかったで」なんてあったかいやり取りが聞こえてきます。
その横では、京都建築専門学校の佐野校長先生率いる学生チームが、甲斐甲斐しく竹桟敷の建築作業に励み、他方、にこやかに焚火の番をされている男性がいるかと思えば、その方(大塚さん)は竹で自動車を作ってしまうほど竹を愛する、竹製品の会社の会長さんなのだとか…。佐野先生も、大塚さんも、いつの間にか小関さんに引っ張り込まれたのだと苦笑い。でも、お二人ともこの空間が好きで、今ではすっかり団体にとってなくてはならない存在なのが伝わってきます。
そのほかにも竹炭発電に取り組む方や、地元の保育園の園長先生、わざわざ名古屋から参加しに来た方など、竹林に集う多彩な顔ぶれには驚きです。
団体の活動内容を見ると、代表はどんなパワフルな方かと思ってしまいますが、実際にお会いした小関さんは、竹のようにそよそよとした、やわらかな雰囲気の女性でした。
「私なんにもしないんです。見てるだけ。全部やろうとするとしんどいでしょう?」
確かに、見ていると小関さんは好きな時に好きな場所で座っていたり、のんびりおしゃべりしていたり。誰かに指示を出したりする様子がありません。それでもいつの間にか誰かが午後から始まるバウムクーヘン焼きの準備に移っていて、みんなが自然と手伝いはじめ、プログラムはちゃんと進んでいきます。
子どもたちは子どもたちで、大人といっしょにバウムクーヘン焼きに挑戦している子もいれば、竹をつたって急斜面をよじ登ったり、竹林を探検している子や、活動メンバーのおじいちゃんに思いっきり遊んでもらっている子、大工仕事が得意で専門学校生のお兄さんやお姉さんたちの竹桟敷づくりを手伝っている子など、これまた好きなように過ごしていて、そんな子どもたちを、近くにいる大人がそれとなく見守っています。
「子どもたちにとって、ほったらかしの時間って大切だと思うんです。あんな斜面でも、自分たちで次はどこに足をかけようかって工夫して登っていくし、転んで痛くても、それも体験で、次は気を付けようって思うでしょう?」
小関さんは子どもたちを見ながら目を細めます。
「ほったらかし」と言いながら、小関さんは参加している子どもたちのことをとてもよくご存知でした。ちゃんと見守っているけれど、手も口も出さない。これ、簡単そうだけれど、なかなかできないのではないでしょうか……。
この日初めて参加した、と最初は少し心細そうだったご家族も、気がつくといつの間にか空間に溶け込んで、お父さん、お母さん、お子さん、それぞれが自分の好きなことを見つけて夢中になっていたのも印象的でした。あたたかく見守られながらもほったらかしの空間は、大人も子どもも元気にしてくれるのかもしれません。
竹林を案内していただきました。
今、みんなが遊んでいる竹林はよく手入れされていて、高く伸びた竹の隙間からお日様の光が降り注ぎ、風が吹くたびにサラサラと葉擦れの音が聞こえてくる気持ちのいい空間です。でも、「籔の傍」が活動を始めたときは荒れ果てて鬱蒼とした暗い竹藪だったそう。倒れた竹を取り除いたり、茂って密になった竹や、年数が経って育ちすぎた竹を切って運び出したり、大掛かりな作業が必要でした。春には、どのタケノコを残し、どのタケノコを収穫するか、ということも竹林の状態を見ながら慎重に選びます。
切り出した竹は茶室や秘密基地をつくる材料に。また、飯盒代わりにお米を詰めてご飯を炊いたり、乾燥させて燃料にしたり、細く割いて籠を編んだり、もちろんタケノコはタケノコご飯にしておいしくいただいたり、とにかく隅々まで使われていて、小関さんによると「みんなで楽しく遊んでいるうちに(放置竹林が)きれいになってしまった」のだそうです。
手前の広場はもう手入れのしようがないほど整ってしまったので、今度はその奥の 3000 坪ほどもある放置竹林の整備が始まりました。同じひと続きの竹林で、広場からほんの 20 メートルほどしか離れていないのに、まだ手入れされていない竹林は薄暗く、隙間なく茂った竹と枯れて倒れた竹が入り乱れ、踏み込めないほど荒れています。
これを 3000 坪も整備するなんて、考えだけで気が遠くなりそうですが、小関さんと籔の傍の仲間たちならきっと、軽やかに楽しみながらきれいにしてしまうのだろうな…そんな風に思えてきます。
「この間は、ご縁があったスター食堂の社員さんたちが SDGs の一環でお手伝いに来てくれたんです。手際よく竹を切ってくれて、本当に助かりました。」
小関さんは嬉しそうに話してくださいます。
楽しく人を巻き込んだり、頼ったりできるというのは、実は市民活動団体としてのすごい強み。私がお邪魔させていただいた日は、なんと総勢 60 名の参加者がこの竹林にやってきて、竹を切ったり、桟敷を作ったり、楽しく遊んだりしていました。
こんなにいろいろな活動を、いったいどうやって実現されているのか、その秘訣を小関さんにお聞きしてみました。
「みんなやってみる前から諦めてしまうことが多すぎると思うんです。法人格を持たない団体だから無理、女性だから無理、年を取っているから無理…って。でも、やりたいことはとりあえずやってみたらいいと思うの。私なんか、団体は法人格もないし、ずっと主婦だったから知らないことも多いし、70 過ぎの高齢者だし、(条件で言ったら)いいことなんて一つもないけど、やりたいと思って動いてみると、いろんな人が助けてくれて何とかなります。」
確かに、なにかをやってみる前に、自分で制限をかけて動けなくなってしまうことって、意外と多いような気がします。
「それに私がなんでもやってしまったら疲れるし、それだったら私がいなくなったら団体が続いていかないでしょう?みんなができるようになって、活動がずっと続いて行ってくれたらいいなと思っています。生まれたばかりの小さな頃から遊びに来てくれている子もいて、そんな子たちが竹林を好きになって、大人になってから何かの時に思い出してくれたら……」
どこまでも自然体。無理なく、楽しく。そんな居心地の良さに、たくさんの人が集まってくるのでしょう。
「世界に類を見ない美しい竹林を、この先もずっと残していきたい」そんな小関さんの熱い想いは、「竹林での楽しい記憶」として、参加する人たちに託されているのかもしれません。
よく手入れされた「籔の傍」の竹林の中は、開放感があるけれど守られている、そんな感じでしょうか。さわやかな風に焚火の匂い……うっかりすると取材を忘れて長居をしてしまいそうになる心地よさでした。
18 畳の竹桟敷が完成したら、有効活用してくれる人を募集中。現時点では、ヨガ教室の開催が決まっているとのことで、こんな場所でヨガができたら、抜群のリラックス効果が期待できそうです!
小関さんがさりげなく話してくださった言葉の中には、市民活動のヒントがたくさん詰まっているような気がしました。ひとつの活動モデルとして、こんな取組みが広がっていったらいいなと思います。
籔の傍 代表
1947 年 大阪府池田市生まれ
1967 年 相愛女子短期大学被服科 卒業
2006 年 京都伝統工芸専門学校 陶芸科 卒業
2007 年 滋賀県近江八幡市にて任意団体「八幡酒蔵工房」設立。
放置町家の再生活用を行うかたわら、八幡山の竹林整備に参加
2011 年 間伐竹のゼロエミション活動・水郷の舟で渡る中洲の放置田圃を開墾。廃棄物対策事業、間伐竹の 3R で竹リキシャを制作し、旧市街地で運行
2012 年 放置田圃を畑に再生し、竹構造材の温室「バンブーハウス」を制作
2017 年 任意団体「八幡酒蔵工房」閉鎖
2017 年 大阪府箕面市(自宅)にて任意団体「籔の傍」設立。京都府向日市物集女町長野の放元タケノコ畑(放置林竹)の整備をはじめる
2018 年 間伐竹を使い冒険小屋づくり/竹小舞茶室制作
2019 年 玉ねぎ茶室を制作/純国産メンマづくり実践
2020 年 京都府向日市寺戸町に拠点を移す。18畳の竹桟敷制作。「竹の径」に倣い深田垣・寺戸垣を制作
※ 個人の肩書や所属する団体は、執筆時点 (2020年10月) の情報です。
団体名 | 籔の傍 |
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代表者 | 小関 皆乎 |
団体について |
日本各地では放置竹林の拡大が社会問題となっています。広葉樹林に竹が侵入し生物の多様性を脅かす危機に直面しています。 |
電話 | 080-873-19686 |
メール | 8minako@gmail.com |
https://www.facebook.com/yabunosoba/ |
団体名 | 京都市市民活動総合センター |
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名前 |
吉田 智美 事業コーディネーター |