寄付ラボ 第 83 回寄稿

掲載日:2019 年 1月 25日  

寄付ラボファイナル。第 13 回目は、奈良市立一条高校前校長で、教育改革実践家の藤原和博さんです。

元々ビジネスの世界で活躍されておられた藤原さんですが、東京都における義務教育初の民間人校長として杉並区立和田中学校に赴任し、様々な教育改革を実践されました。

自営業者やホームレスなど様々な立場の社会人の講義を聞くなどして世の中について学習する「よのなか科」は、みなさんもご存知なのではないでしょうか。

今回の「寄付ラボ」では、アイデアマンの藤原さんが仕掛けてきた「寄付集め」の事例を通して、寄付を募る側の工夫やアイデアの重要性を書いてくださいました。

「面白い!」「カッコイイ!」気持ちが大事

このページのコンテンツは寄稿記事です。

活動の様子 japan311 雄勝石文字盤

寄付を募る側がどういう工夫をすると募金活動がうまくいくかを記してみたい。
 私は、どんなに社会性が高い募金でも、それが災害直後の支援であっても、寄付する側の良識と自己犠牲に頼っているだけでは限界があると考えている。
 だから、素朴なボランティア精神とは一見反するように感じるかもしれないが、大きな寄付を集めたいなら、寄付者が「面白い!」「カッコイイ!」「これは参加しないと後悔するかも」と感情を動かすような仕掛けが必要だ。
 私自身が仕掛けた例から 2 つのケースを紹介しよう。

 一つは、東日本大震災直後に宮城県石巻市雄勝で、流された神社の太鼓を買い戻し重要無形民俗文化財「雄勝法印神楽」を復活させようとした時の話だ。
 私はその前から趣味でオリジナルの腕時計「japan」シリーズをプロデュースしていて、ネットだけで欲しい人に売っていた。だから、雄勝名産の石を使った腕時計をデザインし、それを売った収益金を太鼓の購入費として寄付しようと考えた。
 「雄勝石」は硯に使われる石だが、ちょうど東京駅の改修工事で屋根瓦として仕上げが行われていたところを津波が襲ったのだ。流されたものと思って地元でも諦めかけたところ、ボランティアが沈み込んでいるのを瓦礫の中から発見。それを洗い清めて急いで東京駅に送り届けたので工事が間に合ったという逸話がある。
 流されなかったラッキーな瓦を一つだけ貰い受け、スライスして文字盤に加工した。「雄勝石」で作った世界初の腕時計「japan311」*注 1 が完成。30 台だけ売って 300 万円を寄付することができた。この時計はカッコイイから売れたのだ。

 

 もう一つの話は、昨年まで私が校長として勤めていた奈良一条高校の新講堂建設にまつわるもの。60 年経って耐震構造が弱いことが判明したため、保護者や卒業生から建設費の1割程度を目標とする寄付集めを開始。奈良市に建て替えの決断をしてもらうべく、「ふるさと納税」を含めた寄付キャンペーンを先行させたのだ。
 設計は無名の頃から 30 年の付き合いのある隈研吾。今やオリンピックスタジアムの建築家として有名だ。当初は世界的建築家のパトロンになれますよと四方八方に営業を仕掛けた。一口 1000 円とハードルを低く設定したのは、在校生でもお小遣いから出せるようにとの配慮だ。お年玉から 1 万円をご祝儀袋に入れて校長室に持ってきた生徒もいたのには涙した。それでも、どうも今ひとつ寄付に加速がつかない。
 そこで考えついたのが、新講堂の座席の一席一席のネーミングライツを売るという前代未聞の方法だ。5 万円で椅子のスポンサーになってもらい、完成したら座席の背面の名盤に寄付者の名を刻む。これなら OB・OG のプライドをくすぐり、カッコイイ寄付と感じてもらえるだろうと思った。
 現在までの寄付総額は 3600 万円超に達し、そのうち、この「想い出の椅子(レガシーチェア)」プロジェクト*注 2 で 1150 万円集めている。もちろん、私自身もスポンサーの一人だ。将来、その椅子に座れることがあったら嬉しい。

注 1:

「japan311」のリンクページ

注 2:

「想い出の椅子(レガシーチェア)」スポンサー募集ページ


藤原 和博

藤原 和博(ふじはら かずひろ)さん

教育改革実践家/元リクルート社フェロー
奈良市立一条高校・前校長/和田中学校・元校長

リクルートのトップセールス、新規事業部長を経て初代フェローというスーパービジネスマンの世界から転じ、東京都初の民間中学校長や奈良市一条高校校長として様々な改革を断行。講演回数 1400 回超の人気講師で書籍も 81 冊累積 145 万部。詳しくは「よのなかnet」 に。
「よのなかnet」
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