寄付ラボ 第 82 回寄稿

掲載日:2019 年 1月 11日  

寄付ラボファイナル。第 12 回目は、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんです。

東南アジア、中東、アフリカなどで取材をしている安田菜津紀さん。紛争地や災害地での悲しみや、それでも前を向いて生きる人々のしなやかさを写真に映してこられました。
透明感のある写真からは、時に、現場の匂いまで感じられることもあります。

取材活動中にNGOや市民団体の取り組みを見ることも多いという安田菜津紀さん。
「伝える」仕事をされているからこそ知ることができた、「お金を送ること」「支援に携わる人々を支えること」の大切さについて、書いてくださいました。

「お金を送るだけでいいのかな」という皆さんへ

このページのコンテンツは寄稿記事です。

活動の様子 「内戦前のシリア、首都ダマスカス郊外にて。この地に一日も早く、平穏な日々が戻ることを願って」『©Natsuki Yasuda / Dialogue for People』

これまで、国内外で真摯に活動する NGO や市民団体の取り組みを拝見し、いつもその姿勢には敬意を抱いてきました。私たちフォトジャーナリストが持ち得る写真という手段は、とても間接的なものです。私たちが何枚シャッターを切っても、災害に見舞われた地の瓦礫を退かすことはできません。どれだけ写真を残したとしても、それによって難民キャンプの方々のお腹を満たすことはできません。だからこそ少しでも、現場で日々奔走する方々の声の拡声器になれればと、伝える仕事を続けてきました。

例えば今、取材を続けているシリアは、紛争が起きてから間もなく8年という月日が経とうしています。その周辺国ではいまだに、戦争によって家を追われた方々が終わりの見えない避難生活を続けています。すぐに帰れるとばかり思っていた方々の、心身の疲れと、底知れない悲しみを現場でひしひしと感じてきました。8年といえばその年に生まれた子どもたちが小学校に入学し、その当時小学生だった子どもたちが中学生になるほどの年数です。衣食住に関わる生活支援はもちろんのこと、この間、子どもたちが教育の機会を逸しないための受け皿も不可欠となっていきます。 ところがニュースは文字通り、「NEW」なこと、つまり新たに起きたことを追いがちです。「人々が国境を超えて逃げてきた」「難民キャンプが開設された」、ということは報道されても、「まだ帰れない人たちがいる」「まだ難民キャンプがそこにある」という長期化してしまった問題には光が当たりにくくなります。本来はこうしたすぐに解決が望めないものほど、ますます問題としての根は深くなってしまうはずです。時折、「まだ支援が必要なの?」という声を耳にしますが、「まだ続いているの?」と思う問題ほど、その当事者の方々や現場の人たちは一緒に疲弊しています。では私たちは日本から、どんな役割を持ち寄ることができるのでしょうか。

時折、寄付の呼びかけに対して「お金を送るだけでいいのかな」というもどかしい思いを聞いたり、だからこそ「何か形になるものを送ろう」と努めたりする方もいます。ただ、遠くに暮らしている私たちが独自に「これが必要なはずだ」と判断するよりも、現場のスタッフさんたちがその都度必要なものを考え、それを購入できる資金がそこにある方がきっと、届きやすい支援になるはずです。

また日本ではいまだに、「寄付したものは皆、支援を受ける方々のために使ってほしい。スタッフさんたちへの給与などには使わないでほしい」という声が根強いように思います。けれども現場で寄り添う人たちが身を削りながら働き続けては、支援自体が持続しません。大切なのは、支える人たちをも一緒に支える、という視点ではないでしょうか。

一人一人では無力だ、と諦めるのではなく、今必要なのは一人一人の力を信じることができる社会を築きくためのアクションのはずです。寄付という行動が、その大切な一歩となるのではないでしょうか。


安田 菜津紀

安田 菜津紀(やすだ なつき)さん

1987 年神奈川県生まれ。Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル)所属フォトジャーナリスト。16 歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBS テレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。


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