寄付ラボ 第 78 回寄稿

掲載日:2018 年 11月 9日  

寄付ラボファイナル、第 8 回目は 人気シリーズ 「海外の寄付事情―イタリア編」です。
寄稿いただいたのは、龍谷大学政策学部の大石尚子さん。現在、研究員としてイタリア南部、最大の商業都市バーリに滞在していらっしゃいます。

イタリアというと、食べ物がおいしく、人々は明るくおしゃべり好きな一方、まじめで職人気質。ルネサンス発祥の地であり、芸術や文化を大切に継承しながら生活している…そんなイメージがあります。しかし、寄付に関するイメージはあまりないのではないでしょうか。
どうやら、宗教と芸術文化が結びついた街ならではの寄付の傾向があるようです。

イタリア 寄付事情について

このページのコンテンツは、寄稿による記事です。

活動の様子 歴史地区の装飾職人の工房。サン・ニコラのモチーフがあふれています

現在、研究員としてイタリア南部、最大の商業都市バーリに滞在しています。この街の守護聖人はサンタクロースの起源と言われるサン・ニコラ。子どもや女性など無実の罪に苦しむ人々を救った逸話が多く、慈悲の神様のようなイメージです。だからか、暮らしの中で強く感じるのは、市民の宗教心の高さ。毎朝夕行われるミサには結構な数の市民が参加しています。また、若手社会的起業家にインタビューする中で、活動のきっかけが神父や司教との出会いであることが多いことに驚きます。イタリア国民の 8 割はカトリック教徒。宗教的背景から伝統的にカトリック教会など宗教活動に対しての寄付が大きな割合を占めています。イタリアでは、遺産寄付額が高くヨーロッパ諸国の中で 3 位、11 億ユーロに登りますが、子供のいない高齢者が宗教関連団体へ寄付するケースが多いそうです。

寄付推進の仕組みとしては税優遇システムがあります。イタリアの税率はヨーロッパ諸国の中でも高く、所得税は年収約 360 万円 〜 715 万円で税率 38 %。さらに消費税は 22 %、地方税・市税もあります。社会保険料負担が重く、租税と社会保険料総額は GDP 比でドイツと並び 40 %、日本、アメリカの 27 % と比べるとかなり高いのです。できるだけ税金を安く、あるいはどうせ払うのなら世の中の良いことに、という心理が働いているのでしょうか、EU レベルで推進されている税優遇システムが、ヨーロッパでもかなり成果を挙げているようです。イタリアの特徴は、所得税の一部を、宗教関連機関や登録された慈善団体を自分で選んで直接寄付できる仕組みです。この仕組みで、年間 4 億ユーロ( 約 520 億円 )が宗教機関、サードセクターに寄付されています。しかし、個人の寄付額は年間 43 ユーロと低水準。GDP 比で 0.16 % 、日本よりわずかに上回る程度です。

一方イタリアの財団は巨額の資産を保有しています。そのほとんどは銀行系の財団です。資産額は、ヨーロッパ全体の 21 % を占めます。日本では歴史的建物の修復や保存、モニュメントの設置などは公共団体の役割と考えられていますが、イタリアでは、元銀行財団が担うそうです。友人の話では、市の劇場改修や街中のモニュメント銅像等、ほとんどは自分たちが銀行に寄付したお金で賄われていて「市民の目にいつも触れるようなことすることで、市民の人気を獲得しようとしている。」と話してくれました。企業宣伝にもなっているようです。

昨今はクラウドファンディングなど新しい寄付も伸びています。イタリアでも、startup 法が制定され、ITALIACAMP などの民間団体・行政共に若手起業促進に力を入れており、それと並行して新たなファンドレイジングのあり方も議論されています。欧州連合( EU )政策においても、若者の失業対策も含め、社会的起業促進とその財源として寄付促進を図るため、各国の財団をネットワークでつなぎ、資金の流動化と寄付システムの進化を図っているようです。これは、EU 諸国の財団の活発なリサーチ・政策提言によるところも大きいでしょう。ただ、国によって事情は異なり、例えば国民寄付率が EU 諸国第 1 位( 85 % 以上)のオランダでは、寄付やボランティア活動は個人の振る舞いとしても、公益に対する経済的貢献という観点からも、社会システムに組み込まれています。一方で、ドイツなどは行政主導で、寄付人口も 30 % と低いのです。これは、イタリアと同様、社会保障税の高さが影響していると思われます。しかし、EU 全体として、持続可能な経済発展の文脈の上に寄付を捉え、各国のグッドプラクティスをネットワークによって広げようとしていることは明らかです。 日本の NPO への寄付促進のためには国家レベルでの戦略が必要に感じます。


大石 尚子

大石 尚子(オオイシナオコ)さん

龍谷大学 政策学部 准教授

研究内容

  • 衣食と農を通じたソーシャル・イノベーション(主に農村地域)
  • オルターナティブ(持続可能)なライフスタイル

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