寄付ラボ 第 77 回寄稿

掲載日:2018 年 10月 26日  

寄付ラボファイナル。第 7 回目は、日本の「市民社会」を、学術研究と実践領域の両方で牽引してこられた、岡本仁宏さんです。

寄付を集める、呼び掛けるための行為と、寄付を使って解決したい課題への想い。
その行為と想いの間には、矛盾を内包する可能性があります。
「真摯に寄付を集めること」への提言をいただきました。

寄付を集める者の責務 ?

このページのコンテンツは、寄稿による記事です。

活動の様子 寄付の矛盾を内包する写真のイメージ

寄付を呼び掛けること、そして寄付すること、ともにもっと自然にできればいいと思っている。けれど、僕は、相変わらず、寄付を集める時には、緊張してしまう。

 

(1) 社会的目的の重要さ

 寄付には、自分にお金を請うのと違って、社会的目的が必要である。しかし、本当に重要な社会的目的であれば、寄付に頼らず租税として強制的に集めるべきだ、という議論は正当だろう。重要な社会問題を解決するためにこそ、私たちは租税を払っているはずだ。例えば、子ども食堂の取組など、本来租税で賄われるべきではないか。
とはいえ、公共政策の手が回っていない重要な社会問題は存在するし、政府が手を付けるべきではない領域も存在する。こういう領域での寄付は、ある意味で社会的義務、さらに言えば倫理的義務である。
というと、おそらく寄付者は引くのじゃないだろうか。義務だったらなぜ私だけが払わないといけないのか、となりがちだ。義務を強調すると、責められ罪悪感を植え付けられるような気になる。なぜもっと多額の寄付をしないで、呑みに行ったりしているんだ、となりかねない。真摯でまじめな人であればあるほど、自分の寄付は偽善的ではないか、と疑ったりする。

(2) 寄付のメリット

 となると、むしろ、相手の気持ちのままに、ちょっと褒められたいとか、イベントが楽しいとか、ちょっとしたリターンや特別待遇がうれしいとか、トレンディでかっこいいとか、友達の誘いはうれしいですよね、とか、そういうポジティブな面を強調する方がいい、となる。もちろん、悲惨な子供たちの写真、助けられて笑っている母子の写真も必要だろうけれど。大口であれば、税金を払うよりも自分でお金の使い方を決められるとか、それによって社会的知名度が向上しますとか、他の人が寄付しないからこそあなたの力が必要なんですとか、特別リッチな人の(義務でなく)特権なんですとか、だろうか。寄付者に対する精神的(満足を与える)対価を工夫することが、寄付戦略にとって重要だ。

(3) 矛盾、そして媒介するものの責務

 もちろん、重要な社会的ニーズがあることは、当然強調しなければならない。そして、実は、(1) 社会的ニーズの深刻さ、問題の悲惨さが深ければ深いほど、そして、(2) 寄付のメリットの強調が楽しく効果的であればあるほど、この二つの動機付けは、矛盾する可能性がある。楽しいチャリティバザーや特権的優越感をくすぐるような寄付は、受け取る側の、深刻な社会問題の当事者にとって屈辱的であったり尊厳を傷つけたりする。当事者は「施し」が欲しいのではない(いや、時には施しでもいいから欲しい時もあるけれど)。経済心理学によれば、社会問題の統計的説得よりも一枚の悲惨な写真が効果的だそうだけれど、その一枚の写真の当事者はそのように使われて嬉しいだろうか。

この矛盾を引き受けて、マネーロンダリング(資金洗浄)することは、実は寄付を集める団体の重要な役割の一つであると、思う。あわよくば、よく考えられた事業企画によって、ともに生きるに近い深い共感を生み出したり、支援者と被支援者との互酬性関係を生み出したり、あるいは権利性を持つ普遍的なサービスを生み出すためのアドボカシーを展開したりすることは、この意味では、矛盾を引き受けるという役割を引き受ける者(団体)に不可避的に伴う責務であるように思う。寄付を呼び掛ける時に、たとえ楽しいイベントのなかであったとしても、身が引き締まる緊張を感ずるのは、この責務を思い起こさせられるからではないだろうか。真摯に寄付を集めるということは、非営利組織を芯から鍛えることになるし、鍛えられるべきだと、僕は思う。


岡本 仁宏

岡本 仁宏(おかもとまさひろ)さん

関西学院大学法学部・大学院法学研究科 教授
日本 NPO 学会 会長
社会福祉法人大阪ボランティア協会ボランタリズム研究所 所長
大阪府公益認定等委員会 委員長
公益社団法人公益法人協会 顧問

専門は、NPO論と西洋政治思想史・政治哲学。政治学の視点から市民社会を研究している。
近編著:大阪ボランティア協会『ボランタリズム研究』編集、編著『市民社会セクターの可能性:110 年ぶりの大改革の成果と課題』関西学院大学出版会、2015 年、共著『英国チャリティ:その変容と日本への示唆』公益法人協会編、弘文堂、2015 年


上へ