寄付ラボ 第 75 回寄稿

掲載日:2018 年 9月 28日  

寄付ラボファイナル。第 5 回目は、日本の公益法人制度改革に尽力された、太田達男さんの寄稿です。

なぜ日本の個人寄附金は、米国に比べ極端に少ないのでしょうか。
日本には寄付文化がないから?
欧米はキリスト教に基づく献金の文化があるから?
それとも、日本は寄付税制が遅れているから?
従来からよく言われている言説の検証と、「寄付をいただくための組織となるために何が必要か」に関する提言をいただきました。

寄附を増やすための提言 ― 組織の健全性こそ最重要 ―

このページのコンテンツは、寄稿による記事です。

活動の様子 大阪中之島より見える橋

わが国の寄附金控除の対象となった非営利組織等への個人からの寄附金総額は、大雑把に 2000 億円、これに相当する米国の個人寄附金は 28 兆ドル (30 兆円)、GDP 比で見ても 0.03% 対 1.5% と彼我の差にはため息をつくのみだ。
 その原因はどこから来ているのか、従来からよく言われていることは、米国ではキリスト教の博愛精神(フィランソロピー)や利他主義が寄附文化を支えているのに対し、日本ではおよそ日常生活において宗教的環境に欠けていること、加えて強調されていたことは、日本では米国のような手厚い寄附金奨励税制に欠けるとの言説であった。

しかし、宗教的博愛精神が涵養されていないからというのは、本当か。公助が十分ではなかった江戸幕藩体制下においては、長屋の大家さんや店子が困っている人の面倒を見る、お寺が檀家の生活を見守る、など今でいう社会福祉が互助で支えられていた。寄附ということでも、戊辰戦争で賊軍の汚名を浴び、維新政府から冷遇された会津の人たちは、有為の人材を育てるため育英制度をつくったが、その基金の半分弱は 2 万人を超える会津住民からの寄附だった。明治 34 年( 1901 年)設立の財団法人会津育英会の前身だ。福山藩を襲った文化元年(1804 年)の大飢饉の際、窮乏した藩に代わって、救貧活動を続けたのは 7 人の庄屋たちだった。今の一般財団法人義倉の前身だ。水の都大阪の八百八橋 (実際には 200 位だそうだが) のうち 9割は、河川両岸の住民の不便を解消するため、私財を投げ打って豪商などが作ったものだ。水利の悪い安積平野を開拓し、今の郡山の繁栄の礎となったのは、現在の一般社団法人郡山耕整会の前身で商人たちが作った開拓組合だ。
 日本全国枚挙にいとまがないこのような事例を見ると、私は日本人が西欧人に比べて元々博愛精神に欠けるとは全く思わない。

それでは税制はどうか。2008 年以降の改正以来公益法人や認定特定非営利法人、社会福祉法人、学校法人などに対する寄附金税制の手厚さは、世界でもトップクラスだから税制の差を強調することはできない。ただ、公益法人や特定非営利法人の認定要件が厳しく、手厚い寄付税制が受けられる適用件数が少ないということは指摘できよう。

それにしても、なぜ冒頭に述べたように日本の個人寄附金は米国に比べ極端に少ないのか。私は、明治維新後富国強兵を強力に推進する中で、社会的課題は政府が解決するもので、みだりに民間が手を出すものではないという思想が明治時代に確立され、戦後も公益法人や社会福祉法人は政府の補完的機能を果たすものという考えが支配的で、特定非営利活動促進法の成立や公益法人制度の抜本改革により、法制的な建前としては民間の自発的な公益活動を奨励し支援するという考え方に変わったものの、一般社会では未だにそのことが十分に認識されていないことが一番の原因だと思う。つまり NPO 法人や公益法人は、社会が抱える問題解決のため、民間の立場から活動する団体だという認識がほとんど浸透していない、それどころかこのような団体は、なんとなく胡散臭い信頼できないという気持ちすら抱く人が多いのではないかというのが、一番大きな原因ではないかと思う。

World Values Survey Association というオーストリアの研究機関が 5 年ごとにアンケート調査している中の一項目で、社会を構成する各機関(裁判所、行政機関、国会、軍隊、警察、大企業、慈善団体など 19 機関)の信頼度調査がある。これによると慈善団体を「非常に信頼する」と「やや信頼する」を合計した比率は、日本は 20.2%で、米国 60.6%、英国70.2%、独 74.1%、仏 65.8%に較べ、突出して市民からの信頼感がないことが分かる。

このような状況にあって、私たちが寄附金をいただくためには、二つのことが最低要件だ。一つは、活動や組織の内容を徹底的に公開し、多くの人たちにその事業について理解と共感を深めてもらうこと。
 そしてもう一つは、組織をしっかりしたガバナンスの下で運営することである。法令要件は当然だが、非営利組織としての高度の倫理観を持って公明正大に運営することである。いくら立派な公益活動をしていても、組織がワンマン体制、理事会、監事、会員総会が機能していない、会計が不明朗、財政状況が破たん状況、役員の選任過程が不明朗、これでは寄附しようとする人が逡巡してしまう。ただ、一般市民が非営利団体の組織上の健全性を見抜くことは難しい。欧米では、市民に代わって専門の評価機関が組織の健全度を評価し、社会一般に参考資料として提供する事業が以前から存在する。日本では、一般財団法人社会的認証開発推進機構が 2011 年から京都地域で実施し、一定の成果を収めていたが、これを全国に拡げようということで、一般財団法人非営利組織評価センターが 2016 年に誕生した。事業評価や社会的なインパクト評価の必要性が叫ばれる昨今であるが、先ずその前に組織運営の基本である組織の健全性を評価する制度の定着こそ、寄附金やボランティアなど広く市民の参加を求める上で最重要のことと思う。


太田 達男

太田 達男(おおたたつお)さん

公益財団法人公益法人協会 会長

44 年間の信託銀行員生活の後、2000 年より公益財団法人公益法人協会理事長、2017 年 7 月より同会長。この間、110 年ぶりの公益法人制度改革を民間側の立場で推進、現在はライフワークの公益信託制度の抜本改革にも注力。


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