寄付ラボファイナル。第 3 回目は、狂言役者の茂山あきらさんです。
京都では「市民狂言」や「お豆腐狂言」など、茂山家によるさまざまな取組みのお陰で、狂言を″身近な伝統芸能”と感じている方も多いかもしれません。
茂山あきらさんは、狂言を親しみやすくする取組みだけでなく、実は危機を迎えている京都の舞台芸術活動を再生する取組みにも尽力されています。
そんな茂山あきらさんに「寄付に関する提言」を書いていただきました。
狂言役者さんらしい切り口・語り口で展開していく「寄付ラボ」をぜひお楽しみください!
ぼくの生業は狂言です。狂言を演じ、狂言を教え、狂言を素材として現代のいろいろの芸能と関わりを持っています。一般にぼくの職業は狂言師と言われています。狂言師?「師」?、師って先生のことですね。教師、医師、牧師、これはその通り師匠です。陰陽師、傀儡師、相場師、少し怪しくなってきました。如何様師!、これはかなり危ないですね!
種々の芸能のうちでも「師」が付く職業はあまり多く有りません。なぜ、狂言や能楽を生業にしている者に師が付けられるのでしょう?これは江戸を中心とした武家の時代に能と狂言が「式楽」であったからのようです。式楽とは、その時代の為政者の正式芸能のことです。能狂言は少しは尊称を与えられていました。役所やお城の中で正式に行なわれる「式」、年始や節季などの他、冠婚葬祭の時にはこの式楽が上演されます。古くは平安貴族の時代には、輸入芸能とも言える雅楽や伎楽でありました。明治以降は現在に至るまで正式芸能は、驚くことに雅楽と共にクラシック音楽だそうです。古来から天皇家に伝わるいろいろな儀式には昔どおりに、宮内庁式部職による雅楽が演奏され、舞楽が演じられます。しかし、雅楽を演奏している皆さんは洋楽をもちゃんと勉強してクラシックの演奏を海外からの要人の歓迎パーティーなどでは演奏されるとのことです。このように、為政者に認められた芸能は大切に後世に伝えられます。
ところで、現在私たちが古くから伝えている芸能は、雅楽や能狂言だけでしょうか?いや、それ以上に今も、庶民により作られ親しまれて来た芸能、歌舞伎、人形浄瑠璃(文楽)、落語などがあります。もっと範囲を広めれば各地に伝わる民俗芸能も、私たちが昔から愛してきた芸能です。このように古くから伝わる芸能は、為政者がパトロンとなった古典芸能と大衆の中から生まれ育ってきた古くからの民衆芸能のふた通りがありそうです。
ヨーロッパでクラシックと言われる音楽は、各国の王室や貴族がパトロンとなってきました。しかしヨーロッパでも現在音楽の主流と思われるのは、ロックやジャズ、ポピュラーと言われる民衆から起こった音楽です。そしてそのパトロンは一般の人達です。演劇でも、イタリアの古典演劇コンメディア・デラルテに発して、フランスのコメディア・フランセーズに伝わり現在のシェークスピアやサーカスのピエロに通ずる演劇、もっと古くはギリシャ演劇に端を発するお芝居が現在も演じられています。このように古今東西、演劇や音楽と言われる芸能は、政治と大衆の「両輪」により作られ、楽しまれてきました。これは人々が芸術を欲し、芸術を必要としている証です。しかし現在、この国の文化予算は微々たるものです。両輪の一方が小さな状態です。イタリアは少し前に国家が破産状態となった時がありました。その時でも国家予算の1パーセントは芸術系の予算が組み込まれていたと聞いています。せめて国家予算の1パーセントは文化予算に欲しいものです。それが叶わぬ時に両輪のもう一方、大衆の支持が大きな支えとなります。
昔は大旦那という一部のお金持ちが芸能を支えていた時代があります。しかしその大旦那はいまや社長さんや会長さんとなり、自身の蓄財も自由に使えない時代です。少し前の景気の良い時にはメセナと称する企業の寄付が流行ったこともありました。あの言葉はどこへ行ったのでしょう。
いまこそ一般の寄付が芸術を支える時です。いまや大旦那では無く「小旦那」が芸術、ひいては文化を支える時代と言えるでしょう。小さな寄付がまとまって大きな力となります。
あなたのお心待ちを文化に使って頂くことを切に願っています。
茂山 あきら(しげやまあきら)さん
狂言役者。
二世千之丞の長男。
1976年、花形狂言会を発足。従兄弟の正義(現 千作)、眞吾(現 七五三)と主宰する。
古典狂言のみならず、小松左京作 SF 狂言「狐と宇宙人」他、『木竜うるし』(1978)『死神』(1981)等の新作狂言や千年振りの復曲「袈裟求」など演じ、狂言の大衆化に力を注いできた。
多才な演劇人である父・千之丞の影響を受けテレビ、ラジオ、新劇、実験劇に参加。またアメリカ人ジョナ・サルズと共に「 NOHO(能法)劇団」を主宰。ベケット・イエイツの不条理演劇、英語狂言など海外公演を行う。
千五郎・七五三と共に、桂米朝一門を巻込み『お米とお豆腐』を立ち上げるなど、新たな試みに挑戦中。
その他演出家としても関西歌劇団・関西二期会等のオペラ、新劇、能法劇団、新作狂言、パフォーマンス、ファッションショーの企画・構成・演出など手掛け「舞台マルチ人間」を目指している。
著書に「京都の罠」( KK ベストセラーズ)がある。
最近では、一般社団法人アーツシード京都理事として京都に100年つづく小劇場を!プロジェクト「Theatre E9 Kyoto」に携っている。
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