寄付ラボ 第 72 回寄稿

掲載日:2018 年 7月 27日  

寄付ラボファイナル。第 2 回目は、社会活動家の湯浅誠さんです。
派遣労働者問題や貧困問題に取り組んでこられたトップランナーであり、今、こども食堂の安心・安全の整備に注力していらっしゃいます。

貧困やひきこもりを個人の問題としてとらえるのでなく、社会全体の問題としてとらえるように発信してこられた湯浅さんだからこそ、長年感じてこられた違和感があったそうです。
そんな違和感を基にした「寄付に関する提言」=「寄付ラボ」です。

寄付について

このページのコンテンツは寄稿記事です。

「寄付頼みでは続かない」という言い方にずっと違和感を覚えてきた。寄付だけで、ずいぶんたくさんの活動を立ち上げ、そして 10 年以上続いている取組みもあるのに、と。
だんだんわかってきた。そう言う人は「寄付頼み」を「人々の善意をアテにする」という意味で使っている。「頼み」という言い方がすでに「他力本願」というイメージを織り込んでいる。
しかし、やっている人たちはわかると思うが、寄付は頼むものだが、寄付頼みではない。寄付頼みでは寄付は集まらない。

寄付は販売よりも難しい。販売なら、お金を出してくれた人に何かモノを渡す。缶コーヒーとかボールペンとか。しかし寄付は、お金を出した人にモノを渡さない。だが、何も「売って」ないわけではない。ビジョンやミッション、活動の意義を売っている。そして寄付する人に参加感を渡している。
だから、ボールペンが手に入ればそのメーカーのミッションは知らなくてもいいという人はたくさんいるだろうが、寄付をするのにその団体のミッションを知らなくていいという人はいない。つまり、寄付集めとは厳しく活動の意義を問われる行為だ。逆に言えば、ビジョンやミッションを考え、語る力を「ふつうの会社」より鍛えられるのが、寄付集めだ。他力本願の対極にある。

そして時代は今、それを理解し始めているように感じている。まずビジネスの世界本体でモノよりサービスという流れがある。そしてサービスも、共感や経験を重視するものが増えた。CD は売れなくなったがフェスには人が集まる、体験型ツーリズムに旅行客が集まるのは、その一例だろう。しかもグローバルレベルでの競争激化の中、今までよりもずっと意味や意義が問われるようになっている(「ストーリーのない商品は売れない」)。安さ競争には、勝ち目も将来性もないからだ。結果として、ビジネスは顧客との接点を増やしてストーリーを共有し、いかにユーザーコミュニティを形成するかに腐心するようになっている。

これって…そう、私たちがやってきたことだ。私たちは活動の意義を伝え、それが切り拓くフロンティアのわくわく感や、課題解決された世界のすばらしさを人々に伝え、共感を得て、そこに参加したい、一緒に夢を見たいと思う人たちから寄付をいただき、ミッションを達成するコミュニティをつくってきた。先進的なNPOと、時代の流れに敏感な人たちが集まるベンチャービジネスなどの境目がどんどんなくなっているのには、そうした理由がある、と私は考えている。

そこから見返すと「寄付頼みでは続かない」という言い方と発想は、いかにも古い価値観からの発言に思えてくる。今という時代に合った見方を普及させ、古さを古さとして位置づけ、意識と時代を更新していくことが、日本における寄付文化の次のステージを開くだろう、と私は考えている。


湯浅 誠

湯浅 誠(ゆあさまこと)さん

社会活動家・法政大学教授


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