「ほっとけないを、ほっとかない」をスローガンに掲げる京都市市民活動総合センターがチカラを注いでいる、「寄付文化の醸成」。そのカタチのひとつが「寄付ラボ」です。
4 年前に始まった「寄付ラボ」も、とうとう今年度で 5 年目、最終年度を迎えます。2018年度の「寄付ラボ」はテーマを設けず、様々なお立場の方から寄付に関する提言をいただく予定です。
トップバッターは下澤 嶽さん。
市民による国際協力、とりわけフェアトレードのトップランナーであり、日本の寄付文化を牽引してこられた方です。寄付とソーシャルビジネスの課題について提言いただきました。
近年のソーシャルビジネスの隆盛は、多くの人が知るところだ。私の教える学生たちも「寄付をくださいというのは、正義の味方みたいで恥ずかしい」「ビジネスならクールで対等な感じがする」「ビジネスなら持続的だ」といったわかりやすい反応が返ってくる。
東京での NGO 経営の仕事を辞めて静岡県浜松市の大学に職をかえ、地域の NPO に触れるたび、地方都市の寄付市場の厳しさを改めて感じることが多い。ゆえに、ビジネス事業のもつ可能性にやはり期待を持ってしまう。
ソーシャルビジネスの機運の高まりに、注意を喚起する声も絶えない。その主なものは、寄付は NPO と市民を共感でつなぐ行為であり、ソーシャルビジネスに偏ると、市民の参加のない一方通行の活動になりやすい、といった主張だ。自分の生活を見直すことなく、高い無農薬野菜を買う人々、そんな例を挙げて矛盾を指摘した人もいた。つまり商品流通量の分の変化は生まれても、消費者の意識は変わらないのが問題だ、ということだ。
たしかに、一理あると思う。反面、この二分法で議論をすることにも単調さを感じる。NPO の商品*注 1は、どこまでいっても商品でしかなく、社会を変える力を生み出さないのだろうか?たとえばフェアトレードの商品はどうなのだろう?
商品の持つ強みをもう一度振り返ってみるといくつか気づくことがある。
商品は「可視的で人の反応が早い」「気軽にアクセスができる」「繰り返し利用する」ことが多く、少し社会問題に関心のある人々との接触の「多さ」「速さ」「広さ」「持続性」において、通常の NPO 活動にはない強い力を持っている。少しだけ関心があるという人に、小さな役割を提供することができる。私は、NPO 活動の活動基盤を広げていく方法として、商品の力をもっと利用すべきだと思う。その消費者がゆくゆく、NPO そのものの活動に関心をもち、プレーヤーなるための入口として、商品は有効な役割を果たせるのではないか。
商品そのものがもつ材料、使用目的や方法、名称、クオリティそのものが NPO の持つメッセージであることは当然だ。さらに重要なことは、商品購入の後、どのような価値観や社会観に人々を導けるか、そういった仕組みやメッセージがセットされているかだ。こういった設計に名称をつけるなら「商品のソーシャル・ガイダンス機能」となるだろうか。
フェアトレードの統一ラベルが 90 年代に生まれ、大手企業がフェアトレード商品づくりに積極的にかかわり出した。日本のフェアトレードラベル商品は 400 を超え、どの地方都市でもコーヒーやチョコレート、バナナなどのフェアトレード商品が買えるようになった。しかし、商品にフェアトレードラベルが表示されているが、フェアトレードの意義や生産地のストーリーが紹介されていることは稀だ。説明のためのポップもない。それどころか、販売員がフェアトレード商品の説明ができない、そういった商品を売っていることも知らないことが多い。日本のフェアトレードラベルの認知度はまだ 6.3 % 程度*注 2なので、多くの人は知らないままその商品を買うことになる。これでは商品購入後、次の問題意識に進むソーシャル・ステップがまったくない状態で、あきらかにまずい。社会変革の価値とつながらない、一時的な消費物としての商品であれば、やはり市民不在のひとりよがりの活動になる可能性はある。
NPO の積極的な商品開発と販売とともに、「商品のソーシャル・ガイダンス機能」をもっと皆と議論してみたいものだ。
サービスやイベントもあえてここでは商品としておく。
注 2:日本フェアトレード・フォーラム 2015 年の調査より。
下澤 嶽(しもさわたかし)さん
(特活)シャプラニール=市民による海外協力の会の事務局長、(特活)国際協力 NGO センター事務局長を歴任後、現在は、静岡文化芸術大学教授。
平和構築 NGO ジュマ・ネット共同代表
専門は国際協力、NPO、市民社会など。
著書『開発 NGO とパートナーシップ 南の自立と北の役割』(コモンズ 2007)他、