今年度の寄付ラボでは、「海外の寄付事情」として、日本と同じ文化圏であり、地理的にも歴史的にも非常に近い“台湾”を取り上げ、2 回にわたって「お隣さん・台湾」の寄付事情についてお伝えしています。
後編では、SNS を活用した寄付行為にスポットをあて、その背景にある台湾人の「助け合いの精神」を解説いただく他、台湾寄付事情の課題にも触れていただきます。
前回は、台湾の寄付文化は人々がより良い社会を実現するための実践に基づいて形成されたことと、マスメディア の報道、 チャリティ 番組が大型災害の支援金に大きな影響力を持つことを紹介した。
今回は、マスメディアに加え、台湾の寄付行為の多様化に寄与した Facebook (ソーシャルネットワークサービス) の活用事例を挙げ、同時に、Facebook によって顕在化された団体と個人へ寄付するそれぞれの社会的背景、問題点について述べる。
Facebook の有効アカウントが 1500 万を超えた台湾では*注 1、Facebook の利用と寄付に関する情報の流通と行為とは密接な関係がある。もちろん、各慈善団体が Facebook を通じて寄付に関する PR をすることは多くみられているが、直接個人に寄付するお願いの記事がシェアされ、1 週間で百万円超えの募金を集める事例もある。
筆者の Facebook は、週 1 回の頻度でこのような記事が現れる。数多くの Facebook の利用者の関心を集められる特徴としては、まず、病気、障害そして経済能力がない弱者を紹介し、「助けてあげてください」のような記事、あるいは本人が販売している商品を「購入してあげてください」との要請記事が、同情心を煽るストーリーとインパクトのある写真を付与している。次に、記事の作成者は、本人ではなく、ジャーナリスト、小型非営利団体、本人の知り合いである。客観的な視点で書くため、信頼性も高いとみられる。また、寄付側にとって、このような記事は小額の寄付金で要求されるために、寄付者にとって負担が少ない。そして、大型 NGO ・ NPO 団体へ寄付するような間接寄付と比べ、個人宛の寄付行為は援助対象を即座に、直接に助けることができる。
興味深いのは、台湾は寄付の税金優遇制度が存在しているが*注 2、個人宛の寄付には、税金申告用の領収書が発行できない場合が多く、もちろん税金優遇の対象外である。それでも、Facebook の例のように、個人宛の寄付行為が盛んでいる。台湾では、前編でも言及したように、根強く「因果応報」の信念、政府への不信感、国際社会での孤立など要素によって、民間が慈善、福祉に深く関わっている。
しかし、台湾での寄付文化の隆盛には、寄付金運用状況の不透明さ、不均等などの問題が大きく存在している。
市民から公益団体、 NPO ・ NGO など組織が義捐金の運用状況を公開して欲しい声が高まっている。
特に、2008 年のモラコット台風以来、慈善という名義を用い、政党、企業財団と NPO ・ NGO が金銭と権力を争ってしまい、社会からの義捐金はうまく運用されていないような批判がよく知られているため、市民が資金運用を見守る責任があると提唱されてきた。
結論として、台湾人は助け合いによって、より良い台湾社会を構築しようとする願望が強いと見られる。しかし、問題の改善についての追求および慈善団体の資金運用を確認することは今後の課題である。
新聞記事 (取得閲覧:2015年11月23日)
http://www.appledaily.com.tw/appledaily/article/finance/20140228/35670111/
台湾政府は公益事業を促進するために、個人が教育、文化、公益、慈善組織あるいは団体に寄付すれば、税金待遇制度に関する法律を創った。具体的には、個人は寄付金額が年間総所得の 20 % 以内、寄付金額の 6 % ~ 40 % (所得レベルによって違う)が税金控除できる。企業、営利機構の場合、所得の 10 %以内であれば寄付金額の 10 % あるいはそれ以上の税額が控除できる。また、2015 年草根影響力文教基金会の「台灣民衆愛心有多少?(日本語訳:台湾人の思いやり)」調査によれば、67 % の台湾人が寄付経験を持つが、わずか 21 % の人が税金控除申告を行う。
http://twgrassroots.org/site/index.php/component/content/article/14-roksprocket-mosaic/165-20151112002
李 旉昕(リ・フシン)さん
京都大学防災研究所 巨大災害研究センター 特定研究員