寄付ラボ 第 61 回寄稿

掲載日:2017 年 10月 27日  

高負担高福祉のイメージが強い、北欧の国、デンマーク。今回から 2 回にわたり、デンマークの寄付文化についてお届けします。
今回は福祉国家ならではの社会サービスや寄付に対する考え方について寄稿いただきました。
日本とは全く違う、制度・文化の中での寄付の形とはどういったものなのでしょうか。
福祉国家ならではの「平等」の考え方と、1990 年代の政策転換が深く関係しているようです。

必要な人にどうぞと言えるのが福祉国家

このページのコンテンツは寄稿記事です。

2017 年 5 月 5 日、南デンマークのボーゲンセにある「ノーフュンス・ホイスコーレ」にお伺いしました*注 1。成人教育の現場に触れることで、福祉国家と言われるデンマークをより深く知ることができると考えたためです*注 2。2017 年度、私は立命館大学の学外研究制度で 1 年間、オールボー大学の客員研究員として、デンマークに滞在しています。その事前調査で訪れた 2016 年の夏にも、この学校に足を運んで設立者の千葉忠夫さんと懇談の機会を得ましたが、今回は短期研修部のモモヨ・ヤーンセンさんにミニレクチャーをお願いしました。

福祉国家とは「それぞれの財産を国に預け、必要な時には自分にもサービスが還元される」構図であるとモモヨさんは説明されました。デンマークでは教育や福祉は無償で提供されていると捉えている人は多いでしょう。しかし、社会サービスには提供するための原資と提供される上での理由が必要とされます。国家が保障しているからと言って、食べ放題のレストランで元を取るように振る舞っては、国が持ちません。そのため、福祉国家とは必要なときに必要な人がサービスを受けられる、結果の平等が重要とのことです。

EU の報告書『欧州連合のボランティア』(2010 年)によると、デンマークでは 1980 年代に財政破綻を憂慮し、1990 年代には社会経済開発の担い手を多様化する政策が展開されるようになりました*注 3。1998 年には社会福祉法の改正により市民セクターへの財政支援が明確にされ、今「新しい福祉ミックス」の時代を迎えました*注 4。実際、1992 年に設置された全国社会福祉ボランティアセンターでは、1990 年には人口比で 26% だったボランティア人口が 2017 年には 40% に、過去5年間にボランティア経験があるデンマーク人は 65% に至ると分析しています*注 5。また ISOBRO(デンマーク資金調達協会)が会員 131 団体の収入構造を比較したところ、2012 年と 2016 年では、補助金・助成金(547%)、事業収入(21%)、遺贈(16%)、会費・寄付金(15%)と、全ての項目で資金調達額が増えたそうです*注 6

英国「慈善援助協会」が 2010 年から毎年発行する世界寄付指数によれば、デンマークは総合 21 位(寄付額が 18 位、1 ヶ月以内の見知らぬ人への手助け経験が 40 位、ボランティア時間が 58 位)です*注 7。また、デンマーク政府統計局の年報によれば、2014 年の平均世帯が会費や寄付金に用いたお金は収入の 2.9%(約 21 万 4 千円)とのことです*注 8。数字で言われてもピンと来ないかもしれませんが、日常生活の中に他人の幸せを妨げないための仕組み、仕掛け、場をよく目にします。そこで次回は必要な人に届くようにと、やさしい気持ちが捧げられている現場をいくつか紹介します。

注 1:

http://nordfyns.nu/ja/
ホイスコーレとは日本語では国民高等学校と訳される北欧独特の学びのシステムで、宗教者であり詩人であり政治家であり理想家のニコライ・グルントヴィの導きのもと、教育者クリステン・コルによって 1844 年に創設されたものです。

注 2:

この日は各地のコミュニティ・デザインに取り組む Studio-L の西上ありささん、山崎亮さんらと共に往訪。当日の様子は雑誌 『BIO CITY』72 号(2017 年 10 月 10 日発売)の特集「北欧のサービスデザインの現場」で紹介されています。

注 3:

http://ec.europa.eu/citizenship/pdf/doc1018_en.pdf、46 ページ。

注 4:

https://doi.org/10.1007/s11266-011-9221-5、468 ページ。

注 5:

http://frivillighed.dk/guides/fakta-og-tal-om-danskernes-frivillige-arbejde

注 6:

http://www.isobro.dk/fileadmin/filer/Indt%C3%A6gtsunders%C3%B8gelse/Indtaegtsundersoegelse_i_perioden_2012-2016.pdf

注 7:

https://www.cafonline.org/about-us/publications/2017-publications/caf-world-giving-index-2017

調査は米国の民間調査会社ギャラップ社が担当(2017 年版の対象は 139 ヶ国)、日本は総合 111 位(寄付額が 135 位、1 ヶ月以内の見知らぬ人への手助け経験が 46 位、ボランティア時間が 18 位)。

注 8:

http://www.dst.dk/en/Statistik/Publikationer/VisPub?cid=22257

なお、2017 年の統計書は 2014 年の家計調査がまとめられている。


山口 洋典

NPO 法人きょうと NPO センター監事

山口 洋典(やまぐちひろのり)さん

1975 年静岡県磐田市生まれ。学生時代の阪神・淡路大震災のボランティア活動で NPO 界隈に浸り始める。2011 年に立命館大学共通教育推進機構准教授となり、2017 年度、オールボー大学人文科学部コミュニケーション・心理学科の客員研究員としてデンマーク王国に滞在中。

NPO 法人きょうと NPO センター

~社会と共にあることを願って~
1998 年、きょうと NPO センターは、多くの関係者の理解と支援、期待を背負ってここ京都における初めての中間支援組織として産声をあげました。1999 年 10 月に特定非営利活動法人として運営を開始し、以来、「市民が支える市民社会の実現」を目指して、数多くの挑戦と新たな社会機能・組織・人材の輩出を行ってきました。

きょうと NPO センターは、現在、中間支援組織としての原点に回帰しながら、中間支援機能の新たな展開を模索しています。災害発災時における多様なステークホルダーを巻き込んだ支援環境の構築や平時ネットワークのゲートキーパーの役割、「市民が支える市民社会の実現」にむけた政策提言を行っていくことも重要な機能であり、社会から期待されている姿のひとつであると考えています。

多くの社会課題と対峙し公共サービスを担うことは、すでに行政だけの役割ではありません。さまざまな民間団体が「ほっとけない」との思いから始められた活動を「ほっとかない」活動を行うことを使命として、社会と共にありたいと願っています。

Web サイト

きょうと NPO センター HP - http://kyoto-npo.org/


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