寄付ラボ 第 60 回寄稿

掲載日:2017 年 10月 13日  

「自分の髪を寄付する」若者が増えているのをご存知ですか?
ヘアドネーションというチャリティ・スタイルです。芸能人やモデルがこのヘアドネーションを行なったことを報告する事例も多く、ロングヘアからショートカットへと劇的に変化する「ビフォー&アフター」を SNS で投稿していることなどから、「自分もやってみたい」と話題になったようです。

ファッションの一つのようにヘアドネーションというチャリティ・スタイルが広がりを見せているのは、寄付文化が広がるためにも、重要な要素だと思います。しかし、「寄付をした髪の毛がどのような経緯を経て、何に活用されるのか」ということについて、しっかり理解が広がっているとは言えません。また、「どうやって髪を寄付するのか」という方法も注意点も知られていませんし、ヘアドネーションを行っている美容院もまだまだ少ない状況です。

そこで今回は、実際にヘアドネーションを行った子どもの保護者の方に、髪を寄付するまでに起った出来事を通して感じられたことを、ありのままに寄稿いただきました。そこには、親がハッと驚くような「子どもの成長」がありました。

娘の成長とヘアドネーション

このページのコンテンツは寄稿記事です。

活動の様子

9 歳の娘が髪を伸ばし始めたのは、5歳の頃だったか。ディズニーアニメの主人公に憧れ、「地面につくまで伸ばす」と宣言したのは覚えている。当時、七五三や卒園式など、和装する機会もあったので、親としても伸ばしてくれたほうが都合がよいと、見守っていた。

伸ばし始めて数年経ち、いつの間にか毛先はお尻に届く長さになっていた。 さすがにいろいろ大変だなぁと感じていたので、何度か「切ったら?」と言ってはみたものの,「切らない!」の一点張り。 8 歳の頃、そこまでして髪を伸ばし続ける理由を聞いてみたところ、「周りからいきなり切ったといわれるのが嫌」と、意外な答えだった。髪を伸ばし始めたことにも、髪を切れないことにも、娘なりの「理由」があるのだと感じた。

そんな娘が、今年の夏を目前に突然「髪を切る!」と言い出した。理由はわからない。親としては「このタイミングを逃すまい」と、急いで美容院探しを始めた。

実は、娘の髪を梳かしながら、私も夫も「こんなに長いと寄付ができるね~」と日々話していた。ヘアドネーションに強い思いがあったというより,せっかくこれだけ伸ばした若い髪なのだから、何かお役に立てるのではないか,という些細な気持ちだった。だから、切った髪の毛をきちんと寄付してくれる美容院を探さなければならなかったが,いざその時になると,どうやって髪を寄付するのか、切った髪がいったい何に使われるのか、具体的には知らないことだらけだった。

まずは「ヘアドネーション」で検索してみた。切った髪の送り方が書いてあったが、自分でやるにはハードルが高く感じた。ヘアドネーションをしてくれる美容院も検索できるようになっていたが、娘にとって初めての美容院になるので、飛び込みで行くのも勇気がいった。 そこで、同じくヘアドネーションをしたという子のお母さんに訊ね、ようやくここなら、と思える美容院を見つけることができた。 そうして、とうとう娘の髪にはさみが入った。娘が「髪を切る!」と言ってから、約 1 ヵ月が経っていた。

娘が髪を切ると言いだしたことで、私は初めてヘアドネーションが小児ガンや無毛症、先天性の脱毛症、不慮の事故などで髪の毛を失ってしまった方々に、医療用ウィッグを提供するための活動だと知った。

そのことを娘にもきちんと伝えなければと、娘に「寄付した髪がどうなるか知ってる?」と聞いてみたが、ナント、娘は堂々と「病気の子どもに使ってもらうんやろ?」と返答。 娘は「自分の髪が社会のどんな課題に対し役に立つのか」について、私以外のルートから情報を仕入れていたようだ。

娘はこの先、自分の髪を寄付したことを忘れてしまうかもしれない。だが、自分が誰かの役に立てたという経験は、記憶がなくなったとしても蓄積されていて欲しいと思う。親の価値観に左右されず、これから娘に訪れる様々な経験が、社会とつながっていると感じながら進んでくれることを願った出来事だった。

注 1:

今回お世話になった美容院
「PESCO PESCA ペスコペスカ」http://pesco-pesca.com/


小林 明音

フリーコーディネーター

小林 明音(こばやしあかね)さん

京都市在住のフリーコーディネーター。
夫と 9 歳の娘と 3 人暮らし。家庭を大切にしながら社会に貢献できる働き方を実現するべく奮闘中。

フリーコーディネーター

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