2017 年度の寄付ラボのテーマは「ジャパニーズ・チャリティ スタイル」。
特に「単にお金を提供する寄付」ではなく、市民(寄付者)の参加やアクションが土台となっている取組、社会的課題や時代のニーズを逆手にとった寄付の取組、一石三鳥の取組など、何かしら特徴のある寄付の仕組みを取り上げます。
今回取り上げるチャリティースタイルは「バスツアー」。
旅行代金の一部を寄付する「寄付つきツアー」ではなく、ツアー代金のほぼ全額を寄付する「チャリティ・バスツアー」。この取組みの背景には、観光客のニーズの変化が関係していました。
常に人気観光都市上位にランキングされる京都。そこに事業所を構える旅行会社の取組みを寄稿いただきました。
私自身、寄付といえば阪神・淡路大震災や東日本大震災等の大きな災害でしか経験がありませんでした。
しかし、2016 年から京都市市民活動総合センターの運営委員会として関わらせていただき、身近にある日々の生活の中でも様々な問題と向き合う NPO の方々と出会うことにより、「旅行業者として貢献出来ることはないか」と考えるようになっていきました。
そんな中、2016 年の 12 月に開催された市縁堂*注 1で、「これだ!」と感じる取組みのプレゼンテーションを聞く機会を得たのです。それが「天若湖アートプロジェクト実行委員会」が取り組む「あかりがつなぐ記憶」*注 2でした。
日吉ダムに沈んだ天若地区には、かつて 5 つの集落と 120 戸の家屋がありました。「あかりがつなぐ記憶」では、水没した一戸一戸の真上にあかりを浮かべ人々の営みを再現。全長 4 ㎞ にわたる巨大アートとして、湖岸道路の随所から眺めることができるのです。
訪れた人々は湖岸道路からダムに沈んだ村に思いを馳せ、地域の歴史や文化を知り、人々の思いに心を傾けます。それはまさに、「旅先で現地の人ともっと話がしたい」「その土地を深く味わいたい」というニーズの高まりの中で広がってきた「着地型観光」*注 3とも呼応する取組みでした。
市縁堂は、NPO がプレゼンテーションを行い、共感した活動に対しその場で寄付をすることで、応援の気持ちを伝えることができる聴衆参加型のイベントです。しかし、ただ寄付をするだけでなく、現地を訪れ地域の歴史や価値を多くの人に深く知って頂くことこそが旅行業者にできる大きな役割と考え、寄付つきバスツアーを企画しました。
よくある寄付つきツアーは、旅行代金に寄付を上乗せするか利益の一部を寄付するのが普通ですが、このツアーはそもそも NPO への応援が目的ですので、ツアー代金のほぼ全額(旅行保険等を除く)を寄付しました。このようなチャリティーツアーは京都では前例がなく、地元テレビや新聞でも取り上げていただきましたが、集客にはなかなか結びつかずに苦労もしました。
バスツアー当日は、集中豪雨の影響もあり中止も心配されましたが何とか出発。「天若湖アートプロジェクト」の嘉田由紀子実行委員長(前滋賀県知事)が一緒にバスに乗り、参加者と対話しながら天若湖の事や他地域のダム問題について解説してくださいました。
見学地では、迫力満点のダムの下に水没した集落のあかりがともり、何ともいえない感動に包まれました。ボランティアで添乗した私自身もダムについて考える良い機会になったことはもちろん、参加者の満足度も非常に高かったと感じました。
近年注目されている着地型観光は、地域の価値を引き出し、守りながらその価値を高めていくことができるような企画こそが求められているのだと思います。ですがその実態が、現地の資源や生活を消費し搾取するだけでは持続性がありません。
NPO を応援することで地域活性化にもつながる今回のチャリティーバスツアーの試みを、旅行業界が積極的に取り組んでいけるように働きかけていきたいと思います。
京都市市民活動総合センターによる主催で、2013 年より毎年開催。
注 2:日吉ダム建設時に水没した天若集落夜景を、現在のダム湖面に再現するノスタルジックなアート企画。
注 3:旅行者を受け入れる側の地域(着地)側が、その地域でおすすめの観光資源を基にした旅行商品や体験プログラムを企画・運営する新しい観光の形態。
アルファトラベル株式会社代表取締役
森野 茂(もりのしげる)さん
アルファトラベル株式会社 |
京都観光・京都発ツアー・ウオーキングツアーを企画・実施 |
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Web サイト |
チャリティーバスツアー案内ページ - http://alphatravel.co.jp/duration/1daytrip/awk_art_prj2017/ |