寄付ラボ 第 53 回寄稿

掲載日:2017 年 3月 24日  

2016 年度の連載においては、NPO・市民活動団体が寄付を集める際に直面した困難や、その時に感じたり考えたりしたこと、あるいは寄付を取り巻く社会の課題にスポットを当ててきました。

あやしい募金、詐欺かとおもわれるような寄付、ネガティブ的な捉え方、苦労や苦い思い・・・いろいろな事例をみてきました。そして今年度最後は団体にとって必ず課題となる「財政と人事」についてご執筆いただきました。

「一人一円運動」によるファンドレイジングは誰が寄付者か?

このページのコンテンツは寄稿記事です。

活動の様子 参加の機会を伴う寄付の工夫を

2002 年ノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊さんが、ノーベル賞の賞金と小柴さんのニュートリノ研究を支えた企業の経営者の個人献金の拠出によって億円の基本財産を用意して財団を設立。小柴さんが理事長を務め、梶田隆章さん(2015年同賞受賞)や小林 誠さん(2008 年同章受賞)、白川 英樹さん(2000 年ノーベル化学賞受賞)ら著名な学者、研究者が理事や評議員、監事に名を連ねる公益財団法人平成基礎科学財団が、「財政上と人事上の問題」から 2017 年 3 月末で解散することを決定した (同財団ウェブサイト「理事長よりごあいさつ」)。

ミッションに「この法人は、基礎科学に関する理解の増進を図るとともに、基礎科学に関する研究・教育活動を奨励し、もってわが国の基礎科学の振興に寄与することを目的とする」(定款第 3 条) と掲げ、地方自治体を中心とする賛助会費や寄付を財源に、児童・生徒の基礎科学への興味と関心を高めるため教育者を顕彰する「小柴昌俊科学教育賞」(2004 年度~) や、基礎科学の重要な分野のひとつである素粒子研究の実験または理論研究で優れた業績をあげた研究者を「折戸周治賞」「戸塚洋二賞」(2009 年度~) として顕彰。また、基礎科学分野の人材育成のため、第一線の研究者による最先端科学をじっくり学ぶことができる「楽しむ科学教室」を高校生と大学生を対象に 2003 年度から開催(参加費は無料、毎回の参加者数は数十人から 100 人程度)。開催地は主に東京だが、賛助会員の地方自治体の申込に応じて年に数回は地方で開催しており、開催回数は101回を数えた (2016 年 12 月に鳥取県での開催が最終回)。さらに、「楽しむ科学教室」を DVD 教材化し、全国の高等学校や大学等に無料で配布することで理科教育の普及にも取組んできた。

事業内容もさることながら、同財団のファンドレイジングから学ぶべき点や考えるべき点がある。それは、基礎科学分野の事業の財源が主として国からの財政支援に依存している現状に対して、基礎科学振興のための活動に広く国民から支持を得るための望ましい形として、毎年一人一円を寄付してもらう「一人一円運動」という小柴さんの構想であり、賛助会員になる地方自治体がその人口に相当する金額を毎年に寄付し、その寄付金により財団を運営する特徴的な仕組みだ。理事長の小柴さんが精力的に多くの自治体の首長に会い、財団のミッションとその活動、「一人一円運動」の仕組みを説明し依頼をする、いわば「著名なトップの営業によるファンドレイジング」だ。その結果、多くの自治体が賛同し協力をしてくれたという。さらに、小柴さんをはじめとする関係者の研究業績やこの特徴的なファンドレイジングの仕組みへの評価から、企業や個人も賛助会員になり、中には多額の寄付もあったという。 50 万円以上の高額寄付者が団体を信頼する理由として「代表者の人柄」が「活動実績」に次いで多いことが『寄付白書 2015 』でも指摘されているが、まさに小柴さんをはじめとする学者や研究者のファン層が核となる支援者であり、著名や学者や研究者の存在とその人脈/有するネットワークへの働きかけが「地方自治体の賛助会費 (寄付金)」という形での「一人一円運動」の具現化を支えていたと考えられる。

しかし、「財政と人事」の課題を理由に解散を決定するに至る。NPO にとって身近でよく聞く課題であり、知名度や社会的影響力のある著名人が事業やファンドレイジングに参画していたとしても、特徴のある寄付の仕組みがあったとしても、寄付に対する税制優遇が受けられる公益財団法人であっても、継続的にミッション達成に向けて取組んでいくために必要な営みであるファンドレイジングの難しさをあらためて突きつけられたニュースであった。一方で、地方自治体の財政逼迫等からの賛助会費の減額や退会により、将来の運営の見通しがつかない状況になってきたことが財政上の理由にあるが、「一人一円運動」の趣旨を考えると、「市民一人ひとりの参加」と「誰が寄付者として支えるか」が気になるポイントとして挙げられる。寄付も参加の手段の一つであることを考えると、市民の代わりに自治体の財源からまとめて賛助会費を出すことで「一人一円運動」とするのではなく、共感した市民一人ひとりが自ら運動への参加の手段として寄付を行うことが必要ではないか。仮に窓口を地方自治体や市民コミュニティ財団など仲介する団体が担ったとしても、市民一人ひとりが社会的課題の解決への取組みやそれを支える寄付を他人任せにせず、しっかりと参加していくことが求められている。社会貢献としての寄付の意識が年々高まっており、認知度に課題があるものの、国際水準でもトップクラスの内容(寄付者の寄付控除額を大幅に改善)に税制も改正され、個人寄付総額も年々増加傾向にあり、1年間を通じて寄付あるいは会費のいずれかを行った個人は 49.0% と約半数となった。その意味でも、平成基礎科学財団の特徴的なファンドレイジングの仕組みであった「一人一円運動」の趣旨に学び、一人ひとりの参加の機会を伴った具現化に各団体が取組んでいくことが、寄付を社会に根付かせていく一助になるのではないだろうか。

注 1:

公益財団法人平成基礎科学財団
http://www.hfbs.or.jp/greeting-closing.htm


河合 将生

NPO組織基盤強化コンサルタント office musubime

河合 将生(かわいまさお)さん

NPO の支援組織職員を経て独立、office musubime 代表。
(一財) 社会的認証開発推進機構・専務理事、(公財) ひょうごコミュニティ財団・理事、大学非常勤講師等。
日本評価学会認定評価士、日本ファンドレイジング協会関西チャプター共同代表。

NPO組織基盤強化コンサルタント office musubime

伴走支援を専門とするフリーランスの NPO コンサルタント。
NPO の身近な相談相手・コーチ役として、組織/事業の立ち上げ支援や組織診断・基盤強化、ファンドレイジング支援、プロジェクト運営・ファシリテート等に取り組む。

Web サイト

http://blog.canpan.info/musubime/


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