寄付ラボ 第 48 回寄稿

掲載日:2017 年 1月 13日  

LTC という言葉を耳にしたことはありますでしょうか。生命を脅かされる病気 (Life-threatening conditions) のことをいいます。

LTC や難病の子どもの治療やケアを募金や寄付で支えようという取組みはかねてからあり、それによって人生を生き抜くことができる子どもたちがいます。しかし、2016 年秋、残念なことにその取組みを悪用した詐欺事件が起きました。このことから、今回は、寄付を通して「生きる」ことを支え、寄り添うことができる社会づくりの取組みについて執筆を頂きました。

誰かを支えるから、社会を変える手立てとしての「 寄付 」に

このページのコンテンツは寄稿記事です。

「TSURUMIこどもホスピス (TCH)」は、16 年春、鶴見緑地にオープンした日本初のコミュニティ型の子どもホスピスで、「 命を脅かされる病気 (LTC)」 の子どもを中心に、難病の子どもたちの成長を支援する活動を行っています。ホスピスと言っても、成人向けのホスピスとは違い、治療や医療的な緩和ケアを目的とした医療機関ではありません。病状をきめ細かく把握した看護スタッフが見守る安心・安全な環境で、難病児のまなび、あそび、ふれあい、やってみたいことを叶えたり、ご家族がゆったりくつろげる場を提供しています。

突然の発現により「生きる」意味を問う間もないまま、病気と闘う子どもたち。大切に慈しみながら育てているわが子を失うかもしれない親の気持ち。この抗いようのない理不尽さは、どんなに覚悟をしても受け入れがたいことなのは言うまでもありません。こどものホスピスは、まさに子どもの尊厳を守ろうとする―そういう活動なのです。実際、子どもの病気の状態や成長段階は多様で、子どもの状態に応じた個別な内容を提供します。そのような私たちの活動は、公平原理の税金では対応しきれないことから、民間の「慈善寄付」によって運営を進めています。

限られた命の子どもの尊厳を守る活動を進めるとき「病気の子に寄り添うことを支えてください」というメッセージを発することになります。しかし、このメッセージ自体、潜在的な支援者層にどのように響くのか―。私たち (推進する側) は、社会への映し出され方を踏まえ、ファンドレイジングを進める必要があるように感じています。なぜなら、そのメッセージは、ともすると、当事者を「可哀そうな状態」にある人とラベリングしてしまいかねません。昨年秋、子どもの心臓移植を行うための募金詐欺事件がありました。「病気の子を救いたい」という強いメッセージを利用することに対し憤りを禁じえませんが、その課題のシビアさが持ち得るニュース性があったがゆえに起こったことだったのでしょう。

「病気の子 = 可哀そう」というのではない、個々の「生きる」を支えるとはどういうことか。その子と家族それぞれの「尊厳」を守るとは何か … に、社会の側が思いを馳せてもらえるような伝え方をする、それが託されている使命のように思います。私たちにとってのファンドレイジングは、子どもの尊厳を守るための「資金集めの手段」であるとともに、彼らのしんどさに様々な寄り添い方がある社会をともに創っていきましょう、というメッセージを込めています。私たちの取り組みはまだ始まったばかりです。個別な関係性を一つずつ紡ぎながら、社会の小さな変化をたくさん作る!様々な連携が豊かさを生み出す!そんなチャレンジを繰り返す中で、また多くの発見や変化をお伝えしていきたい思いでおります。


水谷 綾

一般社団法人こどものホスピスプロジェクト「TSURUMIこどもホスピス」事務局長&ボランティアマネージャー

水谷 綾(みずたにあや)さん

地域社会で子どもが大切にされるコミュニティをともに創ろうとする人たちをコーディネートしながら、地域基盤の確立に取りくんでいる。活動における指針は“Make a difference”。

一般社団法人こどものホスピスプロジェクト「TSURUMIこどもホスピス」

一般社団法人こどものホスピスプロジェクト

日本では馴染みの薄かった子どもホスピスの必要性を訴えた有志が結集し、2010 年 12 月に法人設立。
2016 年 4 月、念願であった「TSURUMI こどもホスピス (TCH)」を大阪の鶴見緑地に開設し、コミュニティ型の子どもホスピスという存在を日本社会に根付かせる活動を進めていこうとしている。

Web サイト

一般社団法人こどものホスピスプロジェクト - http://www.childrenshospice.jp/


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