寄付に関するさまざまな思いやエピソードを多様な立場の方にそれぞれの視点で執筆をお願いし、みなさまに生の情報をお届けする「寄付ラボ」。
第 10 回となる今回は、前回に引き続き、カナダの寄付事情をお伝えします執筆も引き続き、立命館大学政策科学部准教授の桜井政成さんにご寄稿いただきました。カナダの NPO は、どんな仕組みで寄付を集めているのでしょうか。
前回の記事で、カナダの寄付が盛んな文化は、地域で寄付をする機会が数多くあることと、NPO等による多様に工夫されたファンドレイジングとが組み合わさった結果ではないかと述べた。前回は地域での寄付の機会について紹介したので、今回は NPO 等によるファンドレイジングの話を紹介しておきたい。
私が滞在していたトロントでは、地域ごとに、とりわけ経済的に困難な地域では、必ずといって良いほど、地域を包括的に支援する NPO が存在していた。それらは各種社会サービス(保育・介護・移民支援・語学学校・フードバンク…)を提供する他、住民の参加を促し住民相互のつながりを強化する役割も担っていた。彼らは、自分たちはコミュニティ・セクターだという言い方をする。コミュニティの代弁者であるという意識が強い。これは社会でも認識されており、NPO への支援 = コミュニティへの支援という図式が成り立っている。企業が地域貢献をうたって寄付をする際には、こうした NPO が必ず受け皿となる。支援を受ける NPO の側は、こうした企業を「問題解決のパートナー」として捉えている。
そうした地域密着型 NPO でも、日本の NPO 業界と同じように、クラウドファンディングや社会的企業による事業収入の獲得、ソーシャル・インパクト・ボンド(民間投資を使って、地域の問題解決のために政府が NPO 等に資金を与える仕組み)といった新たな資金獲得の仕組みに強く関心を持ち、また活用したりもしているが、それらのことは、分厚い寄付集めの取り組みがあった上でのことであるのを見逃してはならないだろう。
ファンドレイジングのためのバザー、ディナーなどはどこでも活発に行われていた。ある難民支援の NPO では、その団体を取り扱ったドキュメンタリー番組(すでに CBC = カナダの公共放送で放映済み)のテープを借り、映画館を使って上映会と当事者が語るシンポジウムを行い、参加費プラス寄付や月々の口座引き落としを募るという企画を行った。冒頭には、そのドキュメンタリーを撮影した監督も挨拶に登壇した。日本で、これだけ大がかりなファンドレイジングイベントを、地域の一 NPO ができるかどうかと言われると悩むところだ。NPO の能力ではなく、それを可能にする関係者・団体の協力があってこそ、だからである。その面でも、日本の寄付文化はまだまだと言わざるを得ないだろう。
前回の投稿で、クリスマス前にはチャリティも盛り上げることを紹介したが、2013 年からは NPO が合同して、歳末バーゲンの後は寄付を!というキャンペーンを始めた。バーゲン初日が「ブラック・フライデー」(黒の金曜日)と呼ばれることから、「ギビング・チューズデー」(寄付の火曜日)と名付けた。こうした NPO が共同して取り組むファンドレイジングも、日本でもっと行われてもよいように思う。
立命館大学政策科学部准教授
桜井 政成さん
長野県生まれ。大学生時代に阪神大震災を経験し、ボランティアとして被災地を訪れた経験が原点。NPO 職員、大学ボランティアセンターのスタッフ等を経て、2006 年から現職。2013 年から 2014 年までトロント大学客員教授。主著として『東日本大震災とNPO・ボランティア』(編著、ミネルヴァ書房)、『ボランティアマネジメント』(単著、ミネルヴァ書房)。博士 (政策科学)。
立命館大学政策科学部 |
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