寄付ラボ 第 9 回寄稿

掲載日:2014 年 10月 10日  

寄付に関するさまざまな思いやエピソードを多様な立場の方にそれぞれの視点で執筆をお願いし、みなさまに生の情報をお届けする「寄付ラボ」。

第 9 回となる今回は、海外の寄付事情について、今年夏までカナダに滞在されていた立命館大学政策科学部准教授の桜井政成さんにご寄稿いただいています。次回も続編をお届けします。

カナダの寄付事情 (その 1 )

このページのコンテンツは寄稿記事です。

活動の様子

カナダは「寄付大国」である。15 歳以上の国民の 84 %が、平均、約 4 万円以上もの寄付を年に行っている (イマジン・カナダ調べ。2010 年の調査)。カナダ、そして北米でなぜ、これほど寄付が盛んであるかについては、日本にいる時、主に 2 パターンの言説に触れることが多かった。まずひとつに、宗教の影響である。キリスト教の教義に沿って、慈善的に寄付をする人達が多いからだ、という主張である。もう一つが、税制優遇の影響である。手厚い税制優遇制度によって、税金で治めるよりも寄付を選択する個人 (または法人) が多いためだ、という説明だ。しかし、カナダで見聞きし感じたことは、そうした宗教、あるいは法制度の影響よりも、地域社会に根ざした文化の影響が大きいのでは無いか、ということである。寄付に抵抗がないほどに、地域で寄付をする機会が数多くある、という現状と、NPO 等による多様に工夫されたファンドレイジングとが絡み合い、そうした状況を生み出しているように見てとれた。

息子が通っていた小学校からは、毎月のように、寄付を依頼するメールで来ていた。「 ○ 月 ○ 日に、途上国の子ども支援のために、よかったら 2 ドル子どもに持たせてね」というものもあれば、小学校のファンドレイジングのお知らせもあった。単純な募金ではなく、「 ○ 月 ○ 日は、このパン屋で買い物をしたら、売上げの 10% が学校の寄付になるから、行ってね」というものもあった。さらに学期末には大々的なお祭りがあったが、それもファンドレイジングイベントであった。食事や小物・古本の売上げや、ゲームの参加費が学校の運営資金になるようであった。

また、カナダのクリスマスは、日本で言えば盆と正月が一緒に来たようなイベントである。誰にでも公平に喜ばしくクリスマスが迎えられるように、と、その前の時期には数多くのチャリティが行われる。マスコミでは一大キャンペーンが張られるし、消防署ではおもちゃを集め児童施設等に消防隊員が配布する。私が住んでいたマンションでも不要品が集められ、近くの NPO のフリーマーケットに活用された。

さまざまなスポーツイベントのほとんどは、チャリティイベントだった。私が登録したマラソン大会でも、参加費の一部を寄付するようになっており、20 以上ある寄付先から子ども病院を選んだりした。また、子どもの誕生日パーティでも、「プレゼント不要。その代わりこちらの NPO に寄付して下さい。」という案内を送る人も多い。街中を歩いていると、NGO のジャンバーを来た若い人達にしょっちゅう出くわした。

とにかく、市民生活のあらゆる面で、募金や寄付は身近なものとなっていて、それに子供の頃から触れる機会が多いのである。さらに寄付を集める側になる機会も多く、そのためか、慈善団体への信頼も厚い(世界価値観調査より)。また、日本では「辛さ」や「痛み」を共有する・緩和する訴えが多いのに対して、カナダでは「喜び」や「楽しみ」もシェアしようという意図の募金が多々あったのも印象的だった。

(その 2 へ続く)

桜井 政成

立命館大学政策科学部准教授

桜井 政成さん

長野県生まれ。大学生時代に阪神大震災を経験し、ボランティアとして被災地を訪れた経験が原点。NPO 職員、大学ボランティアセンターのスタッフ等を経て、2006 年から現職。2013 年から 2014 年までトロント大学客員教授。主著として『東日本大震災とNPO・ボランティア』(編著、ミネルヴァ書房)、『ボランティアマネジメント』(単著、ミネルヴァ書房)。博士 (政策科学)。

立命館大学政策科学部

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