優れた芸術(アート)は、ときに人を癒し、慰め、また元気づけてくれます。誰もがそのような恩恵に浴したことに思い当たることでしょう。アートは人のこころにさまざまな作用をもたらします。今日では、子どもの成長過程においてもアートの果たす役割や効果が認められ、学校などの教育機関をはじめ、行政や企業などにおいても注目されています。そして、アートを通して子どもの健全な成長を促していこうとする取り組みが行われつつあるといいます。
今月のNPOスポットライトでご紹介するのは、そのような、従来の学校教育とは異なった取り組みを実践されている「NPO法人子どもとアーティストの出会い」さんです。同法人のプログラムディレクターを務めておられる浜崎聡さんにお話をうかがいました。
学校現場で従来から行われてきた芸術教育は、教師による楽器演奏や歌唱、音楽鑑賞といった「音楽」と、絵を描いたり立体物を作ったりする「図画工作」の授業を通じて、豊かな感性や創造力、表現力、造形的な見方・考え方を育もうとするものが主でした。これらは「道徳」や「社会科」の授業とあわせ、情操教育の一環として取り組まれてきました。
これに対して、実際に芸術創造に取り組んでいるアーティストが行うワークショップを体験し、その創作活動に参加することで感性や創造性を養おうとする取り組みが、「アートを通した子どもの教育」です。
私たち、NPO法人子どもとアーティストの出会いが行なっている活動は従来のような授業ではなく、実際にアーティストが子どもたちの元を訪れ、共に芸術創造活動を行うことです。つまりアーティストと出会うことを通じて子どもたちがアーティストの感性や創造性に直接触れ、その体験によって新しい気づきや発想に出会う機会をつくる活動をしています。
この活動の原点は2004年にトヨタ自動車と各地域のNPOが連携してスタートした「トヨタ・子どもとアーティストの出会い」にあります。これは“子どもがアーティストとの出会いを通じて多様な価値観と豊かな感性を育むこと”を目的に全国各地で展開され、その際に実行委員会事務局として京都での「トヨタ・子どもとアーティストの出会いin京都」で企画・運営を行いました。実行委員会の解消後、2008年にはNPO法人の法人格を取得しました。これが子どもとアーティストの出会いの団体としてのスタートで、現在では関西を中心に全国の学校や児童館などでのワークショップが主な活動になっています。
現在の主な取組みは次の3つです。
■「まちくさみっけ!」
■「カンカン塔のみはりばん」
■「サファリパークをつくろう」
それぞれの活動についてご紹介します。
■「まちくさみっけ!」
「まちくさみっけ!」の“まちくさ”とは街中にどこにでも生えているさまざまな草のこと。コンクリートの隙間や道路のひび割れなど、いろいろなところから顔を出しています。普段、私たちはこうした「草」を雑草として意識を払わずに見過ごしています。でもこうした草たちをよく観察すると、それぞれ独特の生え方、生える場所があって、またユニークな形をしていたりします。こうした“まちくさ”を探しにまちへ出て、見つけた草の写真を撮って、自由に名前を付けたり物語を作ってもらいます。

このワークショップは、重本晋平さんという京都在住のアーティストと一般財団法人NISSHA財団とともに行なっています。重本さんは日々、まちくさを研究し日本全国の町へ旅に出てまちくさの図鑑や地図などを作っており、『まちくさ博士』と呼ばれています。
「まちくさみっけ!」では、撮影した写真をもとにまちくさ図鑑を作って発表してもらいます。子どもたちは自分の見つけた”まちくさ”のイメージを膨らませて付けた名前や物語をお互いに披露し合うことを通して、相手と共感したり自分とは違う発想に触発されたりという体験をすることができます。また想像力豊かな子どもたちのまちくさを見た先生方からは「新たな一面を知ることができた」というお声もいただいています。

■「カンカン塔のみはりばん」

「カンカン塔のみはりばん」は、神戸の音響機器メーカーTOA株式会社による音の防災・減災の人形劇です。たくたく堂という人形劇団とアコーディオン奏者によるチームで、災害を知らせる音の意味や重要性に気づいてもらうための取り組みとして行っています。
あまり知られてはいませんが、街中には防災無線などの名前で大型のスピーカーが屋外に設置されているところがあります。京都市においても緊急速報メールや防災ラジオなどの多様な手段で情報提供される仕組みがあります。市北部の原子力災害対策重点区域には防災用の屋外スピーカーが設置されており、非常時にはこのスピーカーから緊急放送が実施されます。その他にも、身近なところでは自動車のクラクションや遮断機の音など、危険を知らせるための「音」が街中には多く存在しています。しかし、身の回りにはさまざまな音があふれており、その中から必要な音(情報)を聞き分けるという意識はおろそかになりがちです。そこでこの人形劇に参加することで、普段聞き慣れない音を傾聴することの大切さを体感してもらおうとしています。
参加した家族からは「楽しかった!」という声とともに「危険を知らせる音についてよく知ることができた」という感想をいただいており、親子で防災について考える機会にもなっています。

■「サファリパークをつくろう」
「サファリパークをつくろう」は、HANA★JOSSというアーティストによるインドネシアの伝統的な影絵である「ワヤン」と打楽器「ガムラン」を体験するワークショップです。このプログラムでは子どもたちが思い思いに動物の影絵人形を作成します。これらの影絵人形を自分の手で動かして、ひとつのサファリパークの中での物語を参加者全員で創作します。そしてその伴奏音楽としてガムランが演奏されるというものです。子どもたちは伝統的な民俗芸能の体験と動物の影絵を作って自分で動かすことを楽しみながら、光と影でつくる物語を通して想像力や表現力を養うことにもつながっていきます。こちらもNISSHA財団のワークショップとして地域の児童館などを中心に行なっています。

これらの活動はアーティストの方々のご協力なくしては成り立ちませんが、併せて、各企業の社会貢献活動として保有技術や活動資金、ネットワークなど多大のご支援をいただくことで実施できています。これからも皆さまのご理解・ご協力も仰ぎ、活動の幅を拡げるべく様々な企業や団体の方と共に活動していきたいと考えています。
プログラム ディレクター
| 団体名 | 特定非営利活動法人子どもとアーティストの出会い |
|---|---|
| 代表者 | 井手上 春香さん |
| 団体について |
NPO法人子どもとアーティストの出会いは、子どもたちの成長をより豊かなものとすることを目指して、学校や地域で行われる教育活動をアートによって支援します。支援にあたっては、学校や行政、企業などさまざまな関係者と密接に協働し、子どもたちがアーティストと共に創造的な活動を行う機会を創出します。これらの活動により、人々がそれぞれのアイデンティティを尊重しつつも多様な価値観を認め、さまざまな人々や文化が共存する社会をつくることを目指します。 |
| 電話 | 070-5655-6903 |
| Web サイト | https://www.npo-kad.com/ |
| 団体名 | 京都市市民活動総合センター |
|---|---|
| 名前 |
近藤 忠裕 事業コーディネーター |