「待つ」ことから始まる―京都の古民家で紡がれる、再出発への物語―

掲載日:2025 年 12月 26日  


日本の不登校児童生徒数は 35 万人を超え、80 代の親が 50 代のひきこもりの子を支える「8050 問題」、さらにはその状態が長期化、高齢化する「9060 問題」が社会課題になっています。内閣府の調査 (2022 年)によれば、ひきこもり状態にある人は全国に約 146 万人と推計されており、もはや誰にとっても他人事ではない状況です。
こうした中、京都で 20 年以上にわたり若者たちに寄り添い続けている団体があります。NPO 法人京都教育サポートセンターです。

今回は NPO 法人京都教育サポートセンターの代表、南山勝宣 (みなみやま かつのり)さんに、日頃の取り組みと活動で大切にされていることを伺いました。

※ 参考:文部科学省「令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」、内閣府「こども・若者の意識と生活に関する調査」

このページのコンテンツは、NPO 法人京都教育サポートセンター 南山 勝宣さんにスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

インタビュー:予備校講師からNPO 法人の代表へ

松浦:南山さんはもともと予備校の講師をされていたと伺いました。なぜこの活動を始められたのでしょうか?

南山:1999 年に京都の大検 (現在の高卒認定試験) 予備校としてスタートしたのが始まりです。当時はただのアルバイト講師として勉強を教えていたのですが、活動を続けるうちに、頑張って勉強して大学に進学した子が、対人関係などに課題を感じ、学校に再び通えなくなってしまうという現実に直面しました。そこで、学習だけでなく心理面も含めた総合的なサポートが必要だと考え、2002 年にNPO 法人として独立しました。当時は株式会社よりも NPO の方が設立のハードルが低かった、という理由もありましたが、気がつけば 24 年も続けています。

時代とともに変わる「ひきこもり」像

松浦:ひきこもり、というと「自室から出てこない」ようなものを想像しますが、現在のひきこもりの定義は異なると伺いました。はじめに、ひきこもりの定義について教えてください。

南山:かつて、ひきこもりといえば「自室から全く出ない」「家族とも顔を合わせない」ことがひきこもりだと思われていました。今でもそのようなひきこもりは「狭義」の定義にあてはまります。ただ、今はより広義な定義が採用されるようになりました。例えば、コンビニに買い物に行けても、家族以外に自由な会話ができる他者が一人もいない状態が 6 ヶ月以上続けば、それは広義な意味では、ひきこもりに当てはまります。内閣府の調査で、ひきこもりは「146 万人」という推計もありますが、現場の実感としてはもっと多いと感じています。

また、かつては「ひきこもりは男性の方が多い、そして男性がなりやすい」と思われている時代もありましたが、今は性別も年齢も様々です。発達上の特性から課題を感じているお子さんや、社会に出てから心が折れてしまった方など、ひきこもりは誰にでもなりうるものです。

千本十条の古民家で

松浦:京都教育サポートセンターでは、日頃どのような活動を行っているのでしょうか。

南山:当センターでは不登校やひきこもりなど、いろいろお困りの方に「学習支援」「フリースペース」「家庭訪問・家庭教師」「相談活動」を行っています。対象になるのは、主に小学 4 年生から 45 歳くらいまでの方です。

「学習支援」は、学びなおしも含めた個別指導学習だけでなく、対人関係トレーニングや生活能力を身に着ける支援、支援学校進学への支援なども行っています。

南山:「フリースペース」は千本十条にある事務所内にあります。1 日1500 円で、だれでも利用できます。Wi-Fi、パソコン、ゲーム、漫画があり、インターネットをしたり、本を読んだり、あるいはただ寝て過ごしたりと、自由に過ごすことができます。学習参考書も用意しているので、自習することもできます。

南山:「家庭訪問・家庭教師」「相談活動」は、文字通り家庭教師を行ったり、ご本人・ご家族のお話を伺って、気持ちの溜め込みの解消と必要に応じてアドバイス等も行っています。

松浦:家庭訪問では、どのように関わるのでしょうか。

南山:ひきこもりのご家庭に伺う際には、ご本人とお話できずに帰ることもあります。お話できる時は、信頼関係を築くためにも「一緒に遊ぶこと」が多いです。例えば、1 時間ただ一緒にゲームをしたり、アニメの話をする日もあります。一見、何も進んでいないように見えますが、この「一緒に時間を過ごすこと」が、信頼関係という土壌を作ります。

本人が「この人は自分を否定しない」と感じた時、ふとした瞬間に「実は外に出てみたい」「デザインに興味がある」といった本音がこぼれ落ちます。その言葉を、私たちは待ちます。本人の準備ができる前に「こんな進路があるよ」と情報を出すと、急かされていると感じて逆効果になることもありますから、情報は常に背後で揃えておき、求められた時にだけそっと差し出すようにしています。

「待つ」ということ

松浦:これまでお話を伺う中で、南山さんが「待つ」という姿勢を大切にされているように感じました。これは具体的にどのようなことなのでしょうか。

南山:ひきこもりのご家庭に伺う際には、ご本人とお話できずに帰ることもあります。お話できる時は、信頼関係を築くためにも「一緒に遊ぶこと」が多いです。例えば、1 時間ただ一緒にゲームをしたり、アニメの話をする日もあります。一見、何も進んでいないように見えますが、この「一緒に時間を過ごすこと」が、信頼関係という土壌を作ります。

本人が「この人は自分を否定しない」と感じた時、ふとした瞬間に「実は外に出てみたい」「デザインに興味がある」といった本音がこぼれ落ちます。その言葉を、私たちは待ちます。本人の準備ができる前に「こんな進路があるよ」と情報を出すと、急かされていると感じて逆効果になることもありますから、情報は常に背後で揃えておき、求められた時にだけそっと差し出すようにしています。

松浦:これまでお話を伺う中で、南山さんが「待つ」という姿勢を大切にされているように感じました。これは具体的にどのようなことなのでしょうか。

南山:ひきこもりの支援というと、「外出できるようにすること」を想像される方もいるかもしれません。実際、ひきこもりのご家族の方からお問い合わせを頂く際にも、外出できるようになって欲しい、というようなお問い合わせをいただくこともあります。

ただ、私が大切にしているのは「待つ」ということです。社会復帰や外出に向けた第一歩は、本人が自らの意志で踏み出さない限り、本当の意味での解決にはつながりません。外部から無理に連れ出そうとしても、本人が動こうとする準備ができていなければ、支援側ができることは「待ち続けること」で、「最後は本人がやるしかない」と思っています。

一緒に生活しているご家族にとって、動けない本人を毎日見守りながら「待つ」ことは、想像を絶するほど大変なことで、体力のいることです。焦りから「いつまでこうしているの?」「どうしたいの?」と声掛けをすることもあるでしょう。でも、これは避けていただきたいことです。本人は自分でもどうにかしなければならないと、誰よりも分かっています。そこで問い詰められると、唯一のつながりである家族さえも「自分を責める敵」に見えてしまい、話せる関係性を自ら壊してしまうことになるからです。

松浦:ご家族もまた、本人と一緒に戦っておられるのですね。

南山:その通りです。だからこそ、ご家族だけで抱え込まないでほしいです。現在の行政の制度では、本人への直接サポートがないと支援の対象にならないといった課題もありますが、私たちはご家族の話を聞くだけでもいいと思っています。支える側が倒れてしまうのが一番の悲劇ですから。まずはご家族が元気でいて、支える家族も自分の趣味を楽しむ時間を持っていてほしいと思っています。

松浦:社会へ一歩踏み出すためのエネルギーは、どこから湧いてくるものだと思われますか。

南山:僕は、立派な理由はなくてもいいと思っています。ひきこもりや不登校を脱して「働かなければならない、学校に行かなければならない(Must)」という義務感ではなく、「お金を稼いで遊びたい」「かっこいい服を買ってモテたい」といった、個人的な欲求(Want)こそが、一歩踏み出すため一番のエネルギーになると思っています。

過去には、ひきこもり当事者が「自分は働きたくない」、「親が残してくれたお金があるから、好きなこと(勉強)だけをして生きていく」とハッキリと断言した方がいました。世間一般の価値観や社会的な視点では賛否があるかもしれませんが、たとえそれが「働かない」という選択であっても、本人が納得して覚悟を決めたものであれば、私は一つの自立の形であると考えています。

本人が覚悟を決めて選んでいるなら、それも一つの生き方です。僕の役割は何かを「してあげる」ことではなく、本人が「したい」と思った時にその舵取りをサポートすることだと思っています。

今回南山さんのお話を伺って、何ごとも先回りせずに「待つ」ことの大切さを改めて感じました。

京都教育サポートセンターさんは活動を始めて24年目のベテランの団体です。かつての利用者が、社会に出て何年も経ってから「元気にしてる?」とLINEを送ってきたり、ふらりと事務所に遊びに来たりすることもあるそうと伺いました。

昨年には、22年間活動の拠点として親しまれてきた河原町三条の事務所から、南区・千本十条にある古民家へと拠点を移されました。

現在、NPO法人京都教育サポートセンターさんはこの大切な場所を守り、さらに発展させていくための挑戦として、「市縁堂」に参加されています。詳しくは市縁堂特設サイトをご覧ください。


今回スポットライトをあてた団体・個人

NPO 法人京都教育サポートセンター 南山 勝宣 (みなみやま かつのり) さん

代表

団体名 NPO 法人京都教育サポートセンター
代表者 南山 勝宣
所在地 〒601-8446 京都府京都市南区西九条高畠町 21 番地 (旧 建文塾)
団体について

不登校・ひきこもり・学校中退など社会の中で生きにくさを感じて動きにくくなっている青少年 (小学生~45歳くらいまで) を対象に「社会の中で生きていくための勇気と自信を培う」そのための総合サポート活動を行っています。「他人との関わり」「心のエネルギーの充電」をしながら社会に向けて「こうしたい」「こうなりたい」を湧いてくることを目指し、そのためにすることを「自分で決めて」進むことをお手伝いします。

電話 075-757-0054
メール soudan@ksce.jpn.org
Web サイト https://ksce.jpn.org/
Instagram https://www.instagram.com/ksce7/

この記事の執筆者

名前 松浦 旦周

事業コーディネーター



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