春のお花見シーズンがあっという間に過ぎ、新緑の季節がやってきました。ほかの植物にもれず、この時期にニョキニョキと新芽を伸ばしている「絶滅寸前種」の姿があります。
秋の七草の一つとして知られる藤袴(ふじばかま)。秋になると淡紫色の可憐な小さな花を咲かせます。
今回は、絶滅の危機に瀕している藤袴の保全・育成活動に取り組んでいる源氏藤袴会の馬場備子さんにお話しを伺いました。
藤袴は、源氏物語や万葉集などの古典にも登場し、本来は川辺や野辺に自生している、日本人になじみのある花です。地面に直接植える「地植え」では背丈が 2m 近くまでのび、一度根をはると 5 年近く生きる丈夫な花です。京都でも河川敷などで藤袴を見ることができましたが、河川工事や宅地開発、除草剤の使用などの環境の変化により数を減らし、今では環境省のレッドデータブックで「準絶滅危惧種」、京都府では「絶滅寸前種」に登録されています。
確かに、藤袴と聞くとホームセンターや生花店で苗を見かけることも多く、絶滅が危惧されていると思えない方もいらっしゃるかと思います。実は、藤袴は観賞用に品種交配された「園芸種」と野生の「原種」とを区別することができます。園芸種については絶滅の危惧はありませんが、野生に生えている「原種」は生育地が限られ、個体数も少ないことから絶滅寸前種に登録されています。京都市内では、2000 年ごろに西京区大原野地域で野生の藤袴が発見されていて、他にも冷泉家の原種、京都府内では丹波の原種があるそうです。
原種もそれぞれ発見地によって遺伝子が異なり、それぞれに特徴があります。例えば、丹波に生息している藤袴は京都市内に自生しているものと比べると葉が小さいという特徴があります。
源氏藤袴会では、京都市内に自生している、大原野と冷泉家の「原種」の保全・育成活動をしています。
※藤袴の詳細な分類については、諸説あります。
※冷泉家の原種は冷泉家の庭で発見されたものです。
主な活動は、藤袴の原種を育て保全していくことと、藤袴を活用した製品づくりや、満開に咲いた藤袴を飾る「藤袴祭」を開催し藤袴を知ってもらうことです。
寺町通りにある革堂行願寺の一角をお借りして、藤袴を育てています。藤袴の育成は、まず、春の時期に土を作るところから始まります。新しい土を使って育てたいのですが、莫大なお金がかかるため、新しい土と落ち葉、京大馬術部から頂いた馬糞等を混ぜながら古い土を再生して使っています。
5 月になると、冬を越した株の茎を切り「挿し芽」を作ります。これは藤袴の原種を保全するために、とっても大切な作業です。藤袴を育てる時に「種子」を使うと原種以外の DNA が混ざっているため、原種の保全にならないのです。藤袴会では、地植えで育成した藤袴から「挿し芽」を 5000 株用意して、鉢に入れ替えていきます。「挿し芽」で、原種の遺伝子を持つ株を確実に増やし、種の保存を図っています。
鉢に植え替えた藤袴は自団体だけではなく、ボランティアの方、地域の保育園・小学校の子どもたちの力を借りてそれぞれの自宅、学校でも育ててもらっています。
このようにして「挿し芽」で藤袴の保全に取り組んでいますが、実はこのやり方では「いつまでも準絶滅危惧種のまま」というジレンマがあります。環境省のレッドデータブックから解除されるには「自生地で個体数が増加する」必要があります。つまり、鉢植えで数を増やしていっても自生地で繁殖しない限り、準絶滅危惧種のままという現状があります。それでも、この活動は、自生している藤袴に何か起こったときの「保険」として、大切な役割を担っていると考えています。
藤袴は 10 月になるときれいな花を咲かせます。そこで、普段活動している革堂行願寺のみならず、寺町通りの丸太町から二条にかけて満開に咲いた藤袴を飾る「藤袴祭」を開催しています。藤袴は古典にもよく登場するので、京都の文化のことも一緒に知ってほしいとの願いで地元の文化遺産を巡るスタンプラリーも一緒に開催しています。いつか、京都の秋の風物詩として定着してほしいと思っています。
ここに展示する藤袴は、伏見や大原野等市内で保全に取り組んでいる他の団体の藤袴も展示をしています。
藤袴を目当てにやってくる「渡り蝶」がいます。アサギマダラというきれいな蝶で、海を越え日本へ渡ってくる蝶です。藤袴には毒があり、この毒をオスのアサギマダラが吸い、鳥から身を守るという「共存」の関係にあります。しかしながらこちらも温暖化の影響で飛来数が減少していて、アサギマダラの会報告によると、2024 年には 1/10 程まで減ってしまったそうです。
源氏藤袴会では、活動資金をつくるために「咲き終わった後」も藤袴を活用しています。藤袴は乾燥させると良い香りがします。そこで藤袴を乾燥・加工させて、ボディ―ソープや入浴剤、匂袋を作って革堂行願寺で販売しています。自然由来のものなので、環境にも優しく、また冷え性などにも効果があります。製品は障がい者施設の方に協力いただき、作成しています。
こどもの日の「しょうぶ湯」は有名ですが、藤袴のことと、藤袴の持つ効能を知ってもらうために、京都市内にある銭湯に協力してもらい「藤袴湯」の日をつくってもらいました。小学校で子どもたちが作った藤袴を乾燥させ、子どもたちが藤袴を銭湯に届けています。京都にはたくさんの銭湯が残っていますが、銭湯に入ったことのある子どもは少なく、これをきっかけに藤袴だけでなく、銭湯文化にも触れてほしいと思っています。
活動を始めたきっかけは、京都市都市緑化協会の理事長をされている森本先生の講演に参加したことがきっかけでした。講演で森本先生は「歴史ある京都で、古典にもよく登場する和の花“藤袴”が今にも絶滅しそうである」、「藤袴がなくなると、海を渡ってくる蝶までも絶滅してしまうかもしれない」と生物多様性を関連づけたお話をしてくだり、「これはえらいことだ」と感じました。
当時は、藤袴がどんな花なのかも、そもそも秋の七草が何かも知らないような状況でしたが、衝撃的な話を聞き、すぐに「やってみよう」と森本先生に相談をしました。その時に地植えではなく、鉢植えでも育てることができると教えてもらい、また活動する場所も寺町通りであれば「糺の森」や「京都御苑」といった大きな森に近く、アサギマダラもやってくるだろうということで、活動を始めました。
これまでいくつかの団体が藤袴の保全・育成に取り組んできましたが、どの団体も人手不足に悩んでいます。京都市内では、私たち以外にも伏見・深草や、京都固有種の発見の地である大原野でも保全活動が行われていますが、大原野はメンバーの高齢化、藤袴耕作地入手困難を理由に活動が止まってしまいました。これまで個人的なつながりで活動していることも多かったですが、より多くの人と協力し合いながら活動をしていきたいと思い、NPO 法人として活動していきたいと思っています。
藤袴を一緒に育ててくれる、ボランティアのメンバーも募集中です。気になったら是非お気軽にご連絡ください。
代表
団体名 | 源氏藤袴会 |
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代表者 | 馬場 備子 |
団体について |
秋の七草のひとつである藤袴。源氏藤袴会では、京都に自生する藤袴固有種の保全・育成活動を行っています。また、毎年 10 月には寺町通りにある革堂行願寺と下御霊神社をメイン会場に町内を 1200 鉢の藤袴で飾ります。 |
電話 | 075-241-2084 |
メール | kyotofujibakama@gmail.com |
Web サイト | https://kyotofujibakama.com/ |
名前 |
松浦 旦周 事業コーディネーター |
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