アルコール依存症から回復への道につなげる

掲載日:2025 年 3月 28日  


仕事や友人との付き合いの場、また、家族や親戚との集まりなど、私たちの身の回りにはお酒があります。
お酒とうまく付き合っていかなければ、健康被害やお酒にまつわるトラブルなど、さまざまな危険をはらんでいます。
今回スポットライトを当てるのは、過去に家族がアルコール依存症で苦しんでいた、アルコール問題の当事者であった田辺暢也さん。
田辺さんは、自らの経験から、アルコール問題に苦しんでいる方々のための支援者となっています。当事者から支援者へ、どのような意識で活動を始めたのでしょうか。

このページのコンテンツは、田辺 暢也さんにスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

田辺さんのご家族はどのようにアルコール依存症から回復の道に至ったのですか。

私の場合は、妻がアルコール依存症でした。当時は結婚して 10 年が経ち、5 歳の子どもがいたのですが、アルコール依存症から家庭がボロボロになっていました。
その時まで妻がアルコール依存症だと分かっておらず、彼女の性格、彼女自身の問題だと考えていました。いつもお酒を飲んでだらしない人だというぐらいの認識です。
家庭が大変で、どうにかしなければと色々と調べている中で、インターネットで「アルコール問題でお困りの方はこちらへ」と書かれた断酒会という自助グループのホームページを見つけて、すがる思いで、家族みんなで一度行ってみました。このことが回復のきっかけでした。

後々、妻からの語りの中で、私と出会う前からアルコール依存症の状態だったことが分かりました。ですので、妻の場合はアルコール依存症から回復の道につながるまで、10 年以上かかりました。

自助グループとは(引用:依存症対策全国センター)

自助グループの始まりは、1935 年の米国でアルコール依存症に悩む人々自らが結成したアルコホーリックス・アノニマス(AA)です。原則的に当事者以外の専門家らの手に運営を委ねない独立したグループであることが特徴です。依存症からの回復を目指す過程で、ありのままの自分が受け入れられる居場所を見つけたい方、回復の道のりで迷ったり、疲れ果てた方、アルコール・薬物・ギャンブルなどを必要としない新しい生き方を、似た境遇の仲間と助け合いながら創り出していきたい方、など多くの方が活用しています。自助グループへの参加は、医療機関での治療と並行して行うことも可能です。

アルコール依存症は「否認の病」

アルコール依存症は、「否認の病」と言われています。本来は治療が必要なアルコール依存症なのに、重症者と比べて「自分はこれほどひどくはない」と考えることで、依存症であることや治療を受け入れられない人がとても多いんです。
否認によって、アルコール健康障害による一般医療受診日から専門医療受診につながるまでの期間は、平均 7.4 年だそうです。この治療ギャップの陰では、患者本人のみならず、家族も大変な日々を送っておられるのです。

私の妻の場合は、回復の道につながったタイミングがちょうど子どもが小学校に上がるタイミングでした。それまでは、幼稚園への送り迎えのタイミングでお酒を飲まないようにしなければならい時間があったのですが、子どもが小学生になればそうした歯止めとなる機会が無くなってしまうことに危機感を覚えていたのです。

そんなタイミングで断酒会を訪れたときに、その会員の女性の方が妻を見て、「お子さんのために専門の病院に行ってください。」とお願いされました。
本人の状況と、周りの方の出会いのタイミングもあり、専門医療を受けることを受け入れることができたのだと思います。
そこから妻と二人でアルコール依存症専門の病院に通うことになりました。その時にお医者さんが私に対して「大変でしたね。」と声をかけてもらえたことでそれまでの私が肯定されたように感じ、救われた気持ちでした。

「否認の病」と言われるアルコール依存症。お酒をやめたい気持ちと飲みたい気持ちを抱えながら、一般診療や行政機関に何度もお世話になる人が多くいます。
お酒を飲みすぎて体を壊して治療をして、お酒が飲めるようになったらまたお酒を飲みすぎて体を痛めてしまうというサイクルから早く抜け出して、専門医療につながり、回復の道を歩んでもらうためには何が必要かを考えるようになりました。

アルコール依存症からの回復の道に進むためのお手伝い

私たち家族の場合もそうですが、アルコール依存症の状態から自助グループや専門医療につながるまでに、10 年以上がかかりました。
この期間、患者本人のみならずその家族もどこにもつながれず大変な日常を送っておられます。

そこで、「一般社団法人ひとひら」を立ち上げ、全国の行政や医療機関の窓口で地域やオンラインのグループにつながれるためのチラシを渡してもらう「チラシ一枚、いのちがひとつ」活動を始めました。
窓口の人には、チラシを渡すときに、実際に私たち当事者が言われて嬉しかった、行動しようと思えた次の言葉かけをしてもらうことをお願いしています。

  1. 大変でしたね(ねぎらい)
  2. どうか自分を責めないでくださいね(自責感からの解放)
  3. ここにつながったら気持ちが楽になった、って人がいましたよ(小さな希望)

この活動を始めた 2020 年頃は、地域によっては断酒会の会員の高齢化や固定化により、近隣の例会に参加する人が減っていました。
また、コロナ禍もあり、そもそも対面での例会が開催できない、各地域の自助グループがオンラインに対応できていない状況がありました。
そこで、「NPO 法人 ASK」の認定依存症予防教育アドバイザーとして、オンラインによる各依存症の方々が集える場をつくりました。

対面に代わる例会の場としてオンラインを始めたのですが、地方に住んでいる人はそもそも近くに行ける場所がなかったり、子育て中のお母さんは例会の時間に家を出ることができなかったり、また、オンラインにすることで顔を出さずに参加できることでハードルが下がったという、これまで自助グループにつながれていなかった層に参加してもらえることができました。

「チラシ一枚、いのちがひとつ」の活動以外にも、多くの方にアルコール依存症のことを知ってもらうために、全国各地で講演活動を行っています。

田辺さんによるアルコール依存症予防に関する講演会の様子

どこにもつながれず、孤独の中で苦しい思いをしているアルコール依存症者やその家族が、なにかのきっかけでこうした自助グループや専門医療につながることができる、そのお手伝いをしています。

当事者であった田辺さんが支援者の道へ

妻も私も子どもたちも本当な大変な日々を送っていて、情けなく思いますし、本当であればだれにも黙っておきたいことでした。 「NPO法人ASK」の「認定依存症予防教育アドバイザー」研修を受講した際に、「自分の過去が他の人のこれからに役に立つ」ということを教えてもらったんです。

NPO 法人 ASKによる「依存症予防教育アドバイザーの養成講座」の様子

自分の過去を開示することで、今苦しんでいる人たちが救われるという体験をしてしまうとやめられなくなってしまいました。本当は隠したい自分の過去の人生の意味を変えられたように思います。人の役に立つことで、自分自身も救われました。
この思いが、今も活動の原動力となっています。


今回スポットライトをあてた団体・個人

田辺 暢也 (たなべ のぶや) さん

・京都府断酒平安会 家族会みやび 会員 ・一般社団法人ひとひら 代表 ・特定非営利活動法人ASK 認定依存症予防教育アドバイザー


この記事の執筆者

団体名 京都市市民活動総合センター
名前 真鍋 拓司

副センター長補佐

Web サイト https://shimin.hitomachi-kyoto.jp/
Facebook https://www.facebook.com/shimisen


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