ビールがつなぐ。ビールで輝く。~社会で共に歩む、自閉症の方とのクラフトビール造り~

掲載日:2020 年 4月 4日  


通常の事業所で働くことが困難な方のための就労や生産活動の機会の提供を行っている障害福祉サービス。
事業所ごとに仕事の内容は様々ですが、京都には「ビールの醸造・販売※」を障がいのある方と行っている NPO 法人があるんです。
福祉とビールという意外な組み合わせで障がいのある方の働く場をつくっている NPO 法人 HEROES 理事長の松尾 浩久(まつお ひろひさ)さんにお話を伺いました。

西陣麦酒計画(Nishijin Ale Project)
自閉症の人とともに西陣麦酒を醸造・販売するプロジェクト

このページのコンテンツは、特定非営利活動法人 HEROES にスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

得意を活かした作業をつくるために。そして社会とつながるために。

2013 年 10 月に NPO 法人を設立し、もう 6 年が経ちました。「HEROES」という名称は、「ひとりひとりが、その人生の主人公(ヒーロー)」という法人のコンセプトから来ています。 自閉症の方とともにクラフトビールの醸造・販売を行うプロジェクトを法人設立から半年後の 2014 年に立ち上げました。

法人設立当初は、部品の組み立てなどの下請けの作業ばかりでしたが、得意なことが限られている彼らと作業をマッチさせることはとても難しく、工程マッチングがしやすい自主製品づくりを考えました。 オリジナルブランドの製品づくりを考えたときに、パンやクッキーだと多くの施設がすでに取り組まれ、後発の私たちでは太刀打ちできません。
それでも、日々食卓に並ぶだとか、日常的に使うものであれば、その度に僕らのことを思い出してもらえるので、そういったものを作りたかったんです。そこで思いついたのがビールでした。ビールの製造・販売の中には、たくさんの工程があるので、その人に合った工程を作り出せるんです。私がビール好きだから思いついたところも大きいのですが(笑)

福祉施設でビールを造りたいということをいろいろなところで話をしたら、自閉症支援の関係者 7 人が集まりました。このメンバーで自閉症の人とともにビールの醸造・販売を実現したいという思いを共有して、プロジェクトが発足しました。

西陣麦酒の醸造所を案内する松尾さん

寄付者が営業マンに? 本気の応援が支えに。

始める時に初期投資が相当かかったと思いますが、どうやって集めたのですか。

事業開始のための必要な資金集めは、メンバーの一人である児童精神科医に講師を務めてもらった連続講座で 600 万円の寄付が集まったことで、弾みがつき、それからは講演会で呼ばれた時などをはじめ、いろいろなところでビラを撒いて寄付を募りました。 福祉の分野で寄付を募るときの単価は 1,000 円~ 3,000 円というのが多いのですが、その規模では目標の金額まで届きません。
そこで、一口 1 万円で寄付をお願いしました。その結果、事業開始に必要だった 1,400 万円のほとんどを寄付で賄うことができました。高額な寄付にもかかわらずご寄付いただけ本気で応援して下さっていることが実感できました。

これだけ寄付が集まると、「できませんでした」では済みません。寄付という応援が後押しとなって、どうしたら実現できるかということだけを考えて動いていました。 また、寄付者の中には、ビールの醸造・販売開始後も知り合いの居酒屋さんを紹介してくださる方もいて、本当に支えていただきました。

ビールがつなげた出会い

近年では、他の事業所などと協働した製品づくりも行っています。その一つが、昨年から造っている農福連携でのクラフトビールです。 農福連携とは、働く場としての農業と働き手としての障がいのある方をつなぐことで、障がいのある方の社会参加と農業の持続・発展を促すための事業のことです。現在、国の施策として進められています。
僕らの事業所では地域的に農業はできないので、他の事業所に呼び掛けたところ、ビールの原料である大麦の栽培を群馬県の障がい者施設が、ホップの栽培を宮城県のソーシャル・ファームがそれぞれ協力してくださることになりました。
こうして、日本初の農福連携での国産福祉ビールを作ることができました。また、ラベルの絵も障がいのある方に描いていただきました。

また、地域との連携も行っていて、今年の 2 月には、大谷大学とコラボした商品「まんまビーア!」が完成しました。
周山街道の奥に中川という地区があるのですが、もともと林業の盛んな地域でした。現在は、林業の衰退や高齢化といった地域課題を抱えています。そこで、この課題を何とかしたいということで、大谷大学のコミュニティデザイン学科の学生たちがフィールドワークを行い、地域の方との交流の中で、まんま茶を商品化しました。まんま茶とは中川地区で作られお茶で、お茶の日本伝来時のままの、原種に近い茶葉だそうです。
この活動を広げるために、まんま茶を使ってビールにできないかと声をかけていただきました。原種に近い茶葉とビールの掛け合わせで難しいこともありましたが、2020 年 2 月に完成することができました。このビールの売上の一部は、学生の活動に使われ、中川地区に還元されることになっています。

他にも、私たちの事務所がある西陣の地域で行っているマルシェに出店しています。この出店で儲けるというよりも、地域が活性したらいいなということで協力させていただいています。

西陣マルシェでの出店の様子

京都発の福祉ビールを全国に

ビールの醸造・販売を始めて 3 年になりました。順調に醸造・販売する種類や量を増やしていくことができています。この 3 年間、地域福祉を大事にして、主に京都市内の飲食店さんや酒屋さんとの取引をしてきました。 今年からは活動の広がりを見据え、東京や大阪ともつながりをつくろうと、コンペへの出展を予定しています。

ますます活動の広がりを見せる NPO 法人 HEROES さん。
このお話を伺った後に、東京で行われたコンペに出品し、見事に賞を獲得されたそうです!

品質や見た目で手に取る人、作り手や商品のストーリーを重視する人のどちらにも選んでもらえるように戦略を練ったブランディングが功を奏しています。
「福祉製品だからと言ってお涙ちょうだいで買っていただける時代はとっくに過ぎていると思います。商品として美味しいというのは当たり前だと思って造っています。」と語る松尾さん。このビールを手に取ると、福祉へのイメージがガラリと変わるはずです。

京都から始まった自閉症の方とともに造るビールが、全国のお店やお宅で楽しまれている光景が目に浮かびます。


今回スポットライトをあてた団体・個人

特定非営利活動法人 HEROES 松尾 浩久 (まつお ひろひさ) さん

特定非営利活動法人 HEROES 理事長

2001 年社会福祉法人西陣会に入職し、レスパイトサービスコーディネーター、デイサービス事業(支援費制度)の立ち上げ、生活介護事業及び就労継続支援 B 型(障害者自立支援法)のサービス管理責任者、自閉症支援担当主任などを歴任する。2008 年西陣会在職中に米国ノースカロライナ大学 TEACCH 部でアセスメントに関する短期トレーニングを受ける。

2013 年 10 月特定非営利活動法人 HEROES を設立。2014 年 1 月~生活介護事業、2017 年 3 月~居宅介護事業、2017 年 10 月~生活介護事業の授産製品であるクラフトビール「西陣麦酒(にしじんばくしゅ)」の醸造・販売などをとおして、自閉症、行動障害の方など関わりにくい方の地域生活支援をおこなっている。

※ 個人の肩書や所属する団体は、執筆時点 (2020年4月) の情報です。

団体名 特定非営利活動法人 HEROES
代表者 松尾 浩久
所在地 〒602-8216 京都市上京区竪門前町 414 西陣産業会館
団体について

「HEROES に関わる全ての方々が、その人らしい人生が送れるように寄り添い共に歩み、地域社会での多様な生活の実現を目指します。」という法人理念のもと、総合支援法に基づく生活介護事業、居宅介護事業(居宅、行動、重訪)、その他にも講師派遣、私的サービス等を実施している。

電話 080-251-43441
FAX 075-366-3628
メール nishijinbeer@762npo.jp
Web サイト https://www.762npo.jp/
Facebook https://www.facebook.com/nishijinaleproject/
Instagram https://www.instagram.com/nishijinbeer/?hl=ja

この記事の執筆者

団体名 京都市市民活動総合センター
名前 真鍋 拓司

事業コーディネーター

Web サイト http://shimin.hitomachi-kyoto.jp/
Facebook https://www.facebook.com/shimisen


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