哲学を学術の世界から日常へ――対話と「問い」を通じて、誰もが自分の言葉で語れる社会をつくる

掲載日:2026 年 7月 31日  


「哲学」という言葉を聞いて、みなさんはどのようなイメージを抱くでしょうか。「難解な本を読む学問」「現実から離れた抽象的な議論」など、遠い世界の話のように感じられるかもしれません。

しかし、NPO 法人世界哲学会議推進会の事務局長で、「哲学コミュニケーター」として活動する大角 康 (おおすみ やすし) さんは、「哲学は生き方やこの世界の見方、人間とは何かといった根本的な問いに向き合う学問であり、実は一人ひとりが意識していなくても自分の哲学を持っているもの。それを論理的に表現していこうとするプロセスが哲学だと思っています。」と語ります。

大学での研究、禅寺での修行と出家、通信制高校での勤務や新たな通信制高校の立ち上げ、そして MBA (経営学修士) での学びを経て、2025 年に「NPO 法人世界哲学推進会」の設立に関わった大角さん。なぜ哲学を専門家だけのものにせず、広く社会に開こうとしているのか、その歩みと熱い思いに迫ります。

このページのコンテンツは、特定非営利活動法人世界哲学会議推進会 にスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

人間関係の苦悩から出会った「問い続ける学問」

高校までは野球に打ち込んでおり、哲学には何も興味がありませんでした。

私が哲学に関心を持つきっかけとなったのは大学進学直後の人間関係の悩みです。自分としては親切のつもりでやったことで相手を傷つけてしまったり、逆にこれはやめておこうと控えていたことが実は相手が私にやってほしいことであったりして、「自分は根本的にズレているのではないか」と自己不信に陥ってしまいました。
優しさとはどういうことなのか、人とどのように接したらよいかが分からなくなり、その暗闇から抜け出すヒントをもらえないかと大学の図書館に行き、心理学をはじめ広く人文学書を読む中で哲学と出会い、その面白さに惹かれました。

はじめは正解を求めて哲学書を読んでいました。しかし哲学を探究するうちに相手と自分は「分からない」という前提に立ち、決めつけずに問い続けることこそが大切なのだと気づきました。

哲学者の中でも、西洋哲学の概念と自身の「禅」の体験や精神を融合させた独自の思想体系 (西田哲学) を構築した西田幾多郎に深く感銘を受け、私自身も禅寺で坐禅をしたり、修士課程の途中には 1 年間休学して出家修行まで経験することになります。

挫折と教育現場での発見―「人生の役に立つ哲学」を目指して―

研究者となることを目指して大学院の修士課程・博士課程に進みましたが、アカデミックな哲学研究のあり方と、人生のための学びを深める哲学のあり方の間に葛藤を抱き、大学を離れる決意をしました。

教員免許を持っていたこともあり、通信制高校に就職し、キャンパス長として働いた後、別の法人に移籍して通信制高校の立ち上げに携わりました。学校を立ち上げるというのは、どのような社会を目指し、そのためにどのような人間となってもらうためにどのような教育を行うかという問いへの一つの答えをつくることです。絶対的な答えが無いなかで論理を組み立てるプロセスは哲学そのものでした。

学校立ち上げのプロセスで「哲学が仕事になった」経験をしたと同時に、「人生の役に立つ哲学」をもっと社会に広めるためには経営学の知見が必要だと思い、MBA (経営学修士) へ進学しました。在学中から地域社会へ飛び出し、市民向けのワークショップを始めました。

例えば子育て支援施設で「家族にイライラするのはなぜ ?」というテーマの対話の場をつくりました。「家族は身内 (自分の一部) だからこそイライラして当然」という前提を共有した上でレヴィナスという哲学者の「他者論」をヒントに日常の家族との接し方を捉え直すことを試みました。難解な専門用語を使わず日常の言葉で解きほぐすこと、参加者に哲学を学んでもらうのではなく哲学を通じて参加者一人ひとりの人生にとって意味のある気づきを得てもらうことを意識して開催しました。参加者からは「すごく心が軽くなった」と大きな反響をいただいています。

2028 年「世界哲学会議」を契機に、社会全体へムーブメントを

「世界哲学会議 (WCP)」は 1900 年から続く歴史的な国際学術大会です。2028 年に日本で初開催することが決定し、これを機に学術界の知を社会へ還元する受け皿として結成されたのが「NPO 法人世界哲学会議推進会」です。

学術大会の成功はもちろんですが、真の目標はこれをきっかけに日本社会の中で哲学の面白さや有用性を伝え、対話の文化を根付かせることです。学者や専門家だけの閉じた世界にするのではなく、市民一人ひとりが自分の頭で考え、対話できるコミュニティを広げていきたいと思っています。

他者と異なる意見を尊重し合いながら論理的に思考する力を社会全体に育むことは、民主主義と市民自治の礎となると思っています。
変化の激しく先の見えない現代だからこそ、誰かの言動に振り回されるのではなく、自分自身の言葉で考え、異なる意見を持つ人とも温かく対話していく姿勢が求められています。
日常の中で「なぜだろう」と立ち止まったとき、すでに哲学は始まっています。


今回スポットライトをあてた団体・個人

特定非営利活動法人世界哲学会議推進会 大角 康 (おおすみ やすし) さん

理事・事務局長

団体名 特定非営利活動法人世界哲学会議推進会
代表者 河野 哲也
所在地 京都市上京区寺町通今出川上る上塔之段町 472 番地
団体について

哲学の活用機会の醸成を願う人々に対し、自らの言葉で自らの思いを論理的かつ体系的に述べる能力、機会、コミュニティの開発に資する事業を行い、哲学の活用機会の創出に寄与することを目的として、日本初開催となる第 26 回世界哲学会議の実行委員有志によって設立されたNPO法人。

世界哲学会議の開催が、日本の哲学史における転回点としての位置づけを得られるよう、その開催と運営を下支えすることを目下の活動としている。

メール hyoue.zazen@gmail.com

この記事の執筆者

団体名 京都市市民活動総合センター
名前 真鍋 拓司

副センター長補佐



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