ホテルの中にシェアハウス⁉「みをつくし」の居住支援

掲載日:2026 年 5月 29日  


ひとり親家庭を取り巻く環境は深刻です。特に母子家庭では、母親の 8 割以上が就労しているにもかかわらず、住む場所がなかなか見つからない、安定した職に就けない、働きたくとも子どもを預けられない等さまざまな理由で、約半数が相対的貧困に陥ってしまう現状があります。

そんな中、京都には母子家庭が入居できる先進的なシェアハウスがあります。

場所は二条駅近くにあるホテル。その中に、母子家庭が入居できるシェアハウス「ミオ・エクレシア」はあります。

今回はこのユニークな取り組みをされている「一般社団法人みをつくし」の代表理事の松田 舞さんに、みをつくしが取り組む居住支援と、活動にあたって大切にされている「社会的連帯経済」の考え方についてお話を伺いました。

このページのコンテンツは、一般社団法人みをつくし 松田 舞さんにスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

■「みをつくし」という名前に込めた想い

――「みをつくし」という印象的な団体名ですが、どのような意味があるのでしょうか。

松田:「みをつくし (澪標) 」は、和歌などにもよく登場する古語で、船が海を渡る際に迷わない様に、海面に置く目印のことを言います。私たちは人生を「海の航路」に例えて、親子を乗せた小さな舟が、社会という荒波の中で行き先を見失ってしまった時に、そっといつでも、傍らで航路を示すような存在になりたいという想いを込めてこの名前をつけました。また、「みをつくし」は「身を尽くす」の掛詞 (かけことば) でもあります。一所懸命に頑張っているひとり親家庭の力になりたい、という私たちの想いも重ねています。

―みをつくしでは、具体的にどのような活動をされているのですか。

松田:二条駅の近くにある「ホテルエクレシア」の一角をお借りして、母子家庭向けのシェアハウスを運営しています。3 世帯が入居でき、世帯ごとに独立した個室と、入居者同士が交流できる共用ルームがあります。現在は 3 家族の親子が一緒に生活しており、お子さん同士が一緒に遊び、時には喧嘩をして仲直りをして……本当の兄弟のように暮らしています。親御さん同士もお互いに夕食を助け合ったり季節の行事をお祝いしたりと、温かい時間が流れています。また、必要に応じて専門のスタッフ 2 名が週に数回入り、お子さんの見守りや保育園の送り迎え代行、親御さんの労働・生活相談など、日々の生活のサポートを行っています。

ほかにも、ホテルの客室部分をお借りして、ひとり親家庭だけでなく地域の子育て世代の方々も対象にした子ども食堂や相談会、親子ワークショップなどを開催しています。また、シェアハウス居住者だけでなく、近隣にお住まいのひとり親家庭の訪問支援も行っています。

子ども食堂の様子

■ひとり親家庭の抱える課題と「居住支援」

――ひとり親家庭の経済課題について、教えてください。

松田:現在、日本には約 134 万 4,000 世帯のひとり親家庭があると言われていますが、そのうちの 89% を母子世帯が占めています。圧倒的にシングルマザーが多いのが現状です。

一方、ひとり親家庭の就業割合は、母子、父子世帯を比べても大きな差はありません。
ここで大きな問題になるのが、雇用の在り方です。男性のひとり親の正社員率は約 70% であるのに対し、女性のひとり親の正社員率は 50% 以下で、約 40 %の方がパートやアルバイトなどの非正規雇用で働いています。その結果、母子世帯の平均就労年収は父子世帯の約半分、ふたり親世帯と比べると約 3 分の 1 という低水準にとどまっています。

※ 数値は厚生労働省「令和 3 年度ひとり親世帯等調査」より

――働いているにもかかわらず、社会的な構造によって経済的困難に直面してしまうのですね。松田さんが「居住支援」に取り組む理由を教えてください。

松田:そうなんです。そして、私たちが「居住支援」に取り組むのは、住むことが「働くこと」、「生活すること」に直結しているからです。
 例えば、ドメスティック・バイオレンス (DV) や離婚前提の別居などで、今すぐ子どもを連れて家を出たいという女性がいたとします。実家に頼れない場合、まずはホテルや一時避難所に身を寄せることになりますが、住居が定まらないと「住民票」を移すことができません。住民票がその地域にないと保育園に申し込めず、子どもを預けられないと働くこともできません。いざ民間の不動産屋でアパートを探そうとしても、初期費用が高額であったり、定職がない、直近の収入証明が出せない等の理由から、入居審査で断られてしまうこともあります。

「住所がないから仕事が決まらない、仕事がないから家が借りられない」という、負のスパイラルに陥ってしまいます。だからこそ私たちは、まずは安心して親子で暮らせる「住まい」を確保することが最優先だと考えています。

シェアハウス (個室の様子)
ちなみに「ミオ・エクレシア」の家賃は、無料というわけではありません。家賃 4 万 8,000 円、共益費 (インターネット代・水道光熱費込み) 1 万円で連帯保証人や敷金礼金なしという設定にしています。入居者さんはそれぞれ色々な場所や、時にはシェアハウスがあるホテルで働きながら、家賃を払って生活されています。

共用ルームの様子

■ホテルとの出会い

――ホテルの中にシェアハウスがあるというのは非常にユニークな気がします。
どのような経緯で実現したのでしょうか。

松田:実は、最初からホテルでやるつもりだったわけではないんです。京都は「空き家」が非常に多い街なので、当初は空き家を活用してひとり親家庭が孤立せずに暮らせるシェアハウスを作ろうと動いていました。
そんな中、コロナ禍で大打撃を受け、一時休業せざるを得ない状況に追い込まれていた「ホテル」と出会いました。コロナ禍後、ホテルを再開するにあたって建物のオーナーは「ただ利益を追求するだけのホテルではなく、地域貢献や社会的意義のある形で建物を運用してくれる人」を探していらっしゃいました。そのタイミングで運よく出会い、建物のオーナーさん、ホテルの運営会社さんが私たちの活動に深く共感して、協力してくださることになりました。

シェアハウス「ミオ・エクレシア」が入居するホテル

――ホテルの収益が、活動の原資になっていると伺いました。

松田:ホテルの運営自体は別の株式会社が行っていますが、ホテル再開当初からみをつくしの活動を念頭に置いて協力してくださっています。お客さんがホテルに宿泊すると、その宿泊費の一定割合がそのままシェアハウスの運営資金として寄付されるモデルになっています。京都の観光やビジネスでこのホテルに泊まってくださるだけで、社会貢献になる仕組みです。

また、ホテルそのものが「就労の場」としても機能しています。例えば、小さなお子さんを保育園などに預けているお母さんにとって、一番働きやすい時間帯は、子どもが園にいる「午前 10 時から午後 3 時まで」の間です。ホテルの客室清掃の仕事は、まさにこの時間帯にぴったり一致します。シフトもフレキシブルに組むことができるため、現在は入居者の一人が、ここで清掃スタッフとして働いています。

■社会的連帯経済との出会い

――松田さんがこの構想を温め始めたのは、10 年ほど前だと伺いました。

松田:2015 年頃に「社会的連帯経済」という概念に出会ったことが大きな転換点でした。
社会的連帯経済とは、簡単に言えば「新自由主義的な、利益だけを求める経済」に対する代替案です。「人間や環境を経済活動の中心」に置き、協同組合や非営利団体、あるいは社会的企業が、民主的に経済を回していく仕組みを指します。フランスや中南米などではすでに国を挙げて先進的な法律や支援制度を整えていますが、日本では「生活協同組合(生協)」や「労働者協同組合 (ワーカーズコープ)」といった形で個別の法律に縦割りされてしまっており、まだ一つの大きな概念としては十分に認知されていません。

私は、学生時代にボランティアや市民活動をしていた若い人たちが就職を機に活動を離れてしまう姿をたくさん見てきました。若い人たちが取り組みたいこと、例えば地域貢献や人間らしい雇用、正当な対価の支払いを両立させながら社会を良くしていこうという取り組みが、「食べていける仕事」になり、社会のためになる、そんな仕組みを作りたいと思っていました。この事業の立ち上げには、10 年来の友人が携わっています。当時は、まだ何をしていいか迷っていた学生や若い友人たちが、今では取り組みたいことを見つけ、自身の仕事として建築、不動産、法律などの分野でプロフェッショナルになり、ホテルの中にシェアハウスをつくるという前例のない試みに対して、旅館業法や宅建業法などの複雑な行政交渉や契約書作成を専門家として協力してくれました。

■これからの展望

――今後、新しく挑戦したいと考えているプロジェクトはありますか。

松田:二条駅周辺の「商店街子育て応援マップ」のようなものを作れたらいいなと少しずつ、動き出しているところです。
このマップを完成させて配ること自体よりも、『みんなで一緒に調査をするプロセス』そのものを大切にしたいと考えています。調査には、シェアハウスの親御さんや、私たちが主催する子ども食堂に集まる地域の人たちと一緒に、実際に商店街の店舗を一件一件歩いて回りたいと思っています。この調査プロセスそのものが、人と地域を巻き込むアクションになります。商店街の中に「あそこに行けば、ちょっと子どもを座らせて水を飲ませてくれるな」「おばちゃんがいつも声をかけてくれるな」という顔の見える関係がたくさんできれば、少しずつ日常が変わっていきます。商店街のお店も、すでに協力してくださる店舗が出てきています。地域全体で子どもたちを緩やかに見守る関係性を、京都のまちの中に張り巡らせていきたいです。

――最後に、この記事を読んでいる方が「みをつくし」の活動に関わるための方法を教えてください。

松田:一番身近で大きな応援になるのは、京都にお友達やご親戚が来られる際に、「ホテルエクレシア」への宿泊をお勧めいただくことです。観光で京都を訪れることが、そのまま地域のひとり親家庭の支援へと繋がります。
また、団体への寄付やサポート会員(賛助会員)も随時募集しています。空き家活用もあきらめたわけではありません。もし、京都市内で「親から相続した空き家の使い道に困っている」「社会のために活用してほしい」という方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にご相談ください。


今回スポットライトをあてた団体・個人

一般社団法人みをつくし 松田 舞 (まつだ まい) さん

代表理事

団体名 一般社団法人みをつくし
代表者 松田 舞
団体について

主に、ひとり親家庭の居住支援やひとり親の自立生活支援を通じて、ひとり親家庭に安心して子育てできる環境を提供し、だれもが子育てしやすいまちづくりに資するとともに、ひとり親家庭の子どもがのびのびと健全に成長できる環境づくりを目的としています。 ひとり親家庭の居住支援 (シェアハウス運営)、就業支援、子どもの学習支援や見守り事業に取り組んでいます。

メール mio294.kyoto@gmail.com
Web サイト https://mio294.net/
Instagram https://www.instagram.com/mio294.kyoto/

この記事の執筆者

名前 松浦 旦周

事業コーディネーター



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