“生きづらさ”を絆にかえて

掲載日:2023 年 1月 27日  


人は誰しも生きていれば、ネガティブな気持ちになることがあると思います。しかし一人で抱え込むことで、自分では抱えきれなくなり、それが“生きづらさ”や“弱さ”へと変わってしまうことがあります。その苦しさで日々の生活に影響が出ている人がいることを皆さんはご存じですか? 
それを、人々のつながりによって、前向きに変えることができないかということから作られた、同じような大変さを抱える人同士が集まれる「場」があります。
それが今回ご紹介する「ぴあの会」です。
自分の“生きづらさ”や“弱さ”を持ち寄り、当事者研究会を通して、人々と話し合い、想いを伝えることで、新しい自分の助け方につながればという想いで活動されている、そんな「ぴあの会」について詳しくお話を伺いたいと思います。

このページのコンテンツは、ぴあの会 写真右より 景井 由佳子さん(代表)、大山 由紀子さん(副代表)さんにスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

ぴあの会で行われる当事者研究とは?

当事者研究は、北海道・浦河町にある精神障害をかかえた人びとの地域活動拠点「べてるの家」で始まりました。当事者研究はこの「べてるの家」の人たちが、その地域で暮らしていけるようにするために始まった取り組みです。同じ境遇にある人同士で集まり、話をする中で自分のことを研究・探求して、自分を知ることで回復を図ります。
ぴあの会では、この同じ境遇にある人同士で集まり、話をする中で自分を知っていく方法に注目して、およそひと月に1回、京都市の東山いきいき市民活動センター(以下、東山いきセン)で当事者研究会を開いて話す場を作られています。
ぴあの会の研究会では、参加者自身が「その日に呼ばれたい名前」、「その日の気分や体調」を話すことから始まるそうです。その日に思っている「困っていること」「悩んでいること」がテーマになることもあったり、「自分のことを話す」がテーマになることもあれば、それぞれから出た意見をもとに各々が感じたことを伝えあったりと、自分の思うことを話して、自分以外の人の意見を聞くなかで内容を深めていくと伺いました。
「まずは研究というより、話す場として参加してもらえたらという気持ちで続けています。」と、ぴあの会を運営されている代表の景井さんと、副代表の大山さん思い思いに語ってくれました。

ぴあの会を始める経緯

精神疾患の当事者でもある景井さんは、自身の回復のために、自己理解を深めるべく当事者研究を始められたそうです。その理由として、一人で考えていくとどうしても行き詰まることが多かったそうですが、研究を通して他の人と話すことで、「自分自身こういうことを思っていたのか。」や「他にこういう方法があったのか。」などと気づくことによって気持ちが楽になった経験が大きく影響している、と話されました。また当事者ではなく支援する側にいたる大山さんも、自身の生活の中で日々がしんどく感じる時期があった時に、当事者研究を通して話をしたことで気持ちが楽になる経験があったそうです。そんなお二人のご経験から、この場をもっとたくさんの人に知ってもらいたいと感じ、また場ができることでつくられる新しいつながりが、自分自身や参加した人の助けにもなれば、という想いから会を立ち上げました。

会の名前の由来は?

障害のあるなしに関係なく、支援する支援されるなども関係なく、対等に一緒に参加してもらえたらという想いから英語の「対等な仲間」という意味の「Peer」を日本語で表現して「ぴあの会」としたそうです。
自分には苦手なことが或る人にとっては得意だったり、或る人のできないことが逆に自分の得意なことだったりと、お互いが補い合いながら、お互いに得意なことを差し出しあいながら協働していくことで会がうまく運営できたらと、そんな沢山の想いが会の名前に込められていました。

みんなで作る場と「ライブ感」

当事者研究を開催するときに、ぴあの会では以下のことを大切にしているそうです。
「是非を問う」や「急いで答えを出す」などが必要ないと感じてもらえるように会を進め、一人で抱えこまずに皆で考えたり、お互いに思っていることを差し出しあったり、自分以外の人の世界を知って楽しんだりと、参加した人みんなで作る場になればと考えていました。また来る人によって毎回雰囲気が変わることもあるそうですが、その時に集まってくれた人との間で起こること、つまり一期一会の「ライブ感」を大事にしているのです。
このライブ感にまつわる面白いエピソードを伺いました。代表のお二人も含めて、研究会の進行を務める人がいるのですが、ほとんどの研究会では最初のキッカケづくり以降は進行する必要がなくなる状況が起こるそうです。その時は絶え間なく様々な話が行き交っている状況で、「進行をしなくなってからが本番なのです。」と景井さん。その話の内容も最初は、2つの話が同時に行き交っていたり、脱線したり、と話が平行線を進んでいるかのように見えていても、実は同じ話をしていたことがわかり、不思議と最後は話が落ち着くところに落ち着いていることが多いようです。まさに参加している人で作り上げるライブ感が生み出しているのでしょう。

苦労に価値を生み出している

会で出てくる話は、すぐには解決できないことが多いそうですが、「その解決ができないことと共に一緒に生きていく心の強さ」を共有できるのも会の魅力の一つだと伺いました。
また当事者研究では、話す人が経験した「苦労」を宝として扱って、その経験を前向きにとらえて、分かち合って共有することを大事にしているそうです。
例えば、お話を聞いたときに「そんな苦労をして大変だね。」ではなく「そんな苦労したのは、すごいね!そんな経験を私はしたことがないよ」などと苦労の経験を自分の宝として前向きにとらえられるように、視点を変えることで違ったものの見方に気づくことができるのも当事者研究会の面白いところだとお話しいただきました。

当事者研究以外の活動について

ぴあの会では当事者研究会以外にも活動がいくつかあるそうです。
その一つである「生き方研究会」は、全く違う分野のゲストを招いて話を聞いて学びあいます。自分の知らない世界を知ることで新しい視点に気づいてもらうのが狙いで、2019年に第1回目を終えました。その時のゲストは、宇宙の研究をされている天文学の教授の先生で、とてもスケールの大きなお話を聞く中で、「自分の悩みはなんて小さいのだろう」と大きな学びや気づきがあったと伺いました。
他に「出張当事者研究」は、会場として利用している東山いきセン以外の場所に出向いて、当事者研究を体験してもらうという取り組みです。実際に街中のカフェや病院に出向いて研究会を開催されています。開催依頼を随時受付されているそうなので、希望される方はぜひお声がけください。

コロナ禍の中で生まれた新しい試み

「ぴあの会」にとって、コロナ禍による影響は大きかったそうです。特に対面で話すことが厳しい状況になったのをきっかけに、Zoomを利用したオンラインでの開催や対面とのハイブリッドの当事者研究を行い、活動を続けられました。繋がりを保てたことは良かったそうですが、様々な課題もでてきました。画面越しになることで参加者と進行役との場の温度感を感じにくく、対話がうまく進まなかったことがあったそうです。また画面越しからの話が、リアルに感じることができず、雲の上の人が話しているかのように受け止められることが起こるなど、ぴあの会が大事にしている「対等」な関係をキープすることが難しくなりました。改めて対面の重要さとライブ感の大事さを感じたと伺っています。
そんな状況のなかで、ぴあの会が当事者研究で行っていることを紙面上で再現しようという試みが始まりました。つまり声を発する対話ができないのであれば、紙の上で対話をやってみようというものです。やり方はとてもシンプルなものでした。対面で行っていた時と同じで、円形に集まり話をせずに「呼ばれたい名前」「気分や体調」「困っていること」や「悩んでいること」「自分のこと」などを各々が思っていることを、紙に書いて隣の人に渡します。書いてあることに対して、受け取った人が更に思ったことを書き足してまた隣に渡します。それを一巡するまで繰り返しました。そうすることで、対面で行っていた対話を、紙の上で文章として表現することができました。実際に対話をしているかのようなライブ感が感じられるものに仕上がったので、これをそのまま新聞として発行したのです。
その新聞は、当事者研究を通して各々の想いをもとに話し合ってつながっていく、そんな人と人との繋がりを紡いでいきたいという想いからイタリア語の「糸」という意味である「Filato」と名づけられました。
反応は上々のようで、当事者研究会に参加している人たちからも、「自分の話を新聞に書いて発表したい。」と反響があったそうです。

ぴあ新聞 創刊号「Filato」 PDFファイルのダウンロードはこちらから→  Filatoのダウンロード

話ができる・聞いてもらえる場

生きていれば誰しもが抱えることがある“もやもや”したもの、それを発散できる場所が世の中にはまだまだ少ないと感じています。そのストレスが溜まることで“生きづらさ”や“弱さ”となって表れてくるのではないでしょうか?
当事者研究会の様に、自分の話を伝えたり、意見を聞いたりすることで気持ちが楽になれたり、他の人の話を聞くことで気づける機会が得られる場所は、障害のあるないに関係なく今の世の中には必要な場所なのではないかと、お話を聞いて感じました。
ぴあの会の活動が活発になることで、話をして気持ちが楽に感じられる機会が増えてくれることを願っています。


今回スポットライトをあてた団体・個人

ぴあの会 写真右より 景井 由佳子さん(代表)、大山 由紀子さん(副代表) (かげいゆかこ、おおやまゆきこ) さん

団体名 ぴあの会
代表者 景井由佳子
メール peernokai.kyoto@gmail.com
Web サイト https://peernokai.jimdofree.com/
Facebook https://www.facebook.com/PeernokaiKyoto

この記事の執筆者

団体名 京都市市民活動総合センター
名前 向井 直文

事業コーディネーター

Web サイト http://shimin.hitomachi-kyoto.jp/
Facebook https://www.facebook.com/shimisen


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