場面緘黙の子どもを持つ親たちの試行錯誤

掲載日:2022 年 6月 30日  


場面緘黙という言葉はご存じでしょうか? 漢字を見てもどう読めばわからない方も多いのではないでしょうか。
場面緘黙(ばめんかんもく)とは、家庭では普通に話すことができるのに、幼稚園・保育園や学校などの社会的な状況で声を出したり話したりすることができない症状が続く状態を言います。*注 1

今回は、場面緘黙の子どもを持つ親が立ち上げた「場面緘黙親の会」にスポットライトを当てました。場面緘黙の子どもを持つ親が直面する問題を取り上げるとともに、「親の会」の挑戦について紹介していきます。

*注 1 引用元:かんもくネット「場面緘黙とは」https://www.kanmoku.org/kanmokutowa

このページのコンテンツは、場面緘黙親の会 辻田 和彰さんにスポットライトをあてその活動を紹介する記事です。

「場面緘黙」について、何か基準のようなものはあるのでしょうか。

場面緘黙の医学的な診断基準としては、米国精神医学会の「精神障害の診断と統計マニュアル (DSM-5)」で、以下のように規定されています。 

  • 他の状況で話しているにもかかわらず、話すことが期待されている特定の社会的状況 (例:学校) において、話すことが一貫してできない。
  • その障害が、学業上、職業上の成績、または対人的コミュニケーションを妨げている。
  • その障害の持続期間は、少なくとも 1 ヶ月 (学校の最初の 1 ヶ月だけに限定されない) である。
  • 話すことができないことは、その社会的状況で要求される話し言葉の知識、または話すことに関する楽しさが不足していることによるものではない。
  • その障害はコミュニケーション症 (例:小児期発症流暢症) ではうまく説明されず、また自閉スペクトラム症、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない。

引用元:American Psychiatric Association (2014). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

僕の娘の場合は、1 歳の頃から場面緘黙症状があり、幼稚園から不登園、小学校も最初から不登校。そこから特別支援学級に安心な居場所を少しずつ作り、僕が毎日付き添って登校し始めています。ただ、学校で話すことは今もできません。
 うちの娘のような症状もあれば、お子さんによっては違った症状もあります。親同士で情報交換していると、場面緘黙の症状が実に多様であると感じます。学校で友達とは話せるけれど授業での発表はできない、授業では決まった言葉なら話せるけれど自由時間は話せない、家でもクラスメイトが遊びにきた時は全く話せないなど、「話せない場面」は本当に多様です。

「場面緘黙親の会(以降「親の会」)を立ち上げた理由や経緯について教えてください。

僕は娘が、1 歳の頃から人前で話すことをしないことに薄々気づき、幼稚園の年少の時に、ネットで調べて場面緘黙を疑いはじめました。しかし、ネットでもTVでも場面緘黙に関する情報が少なく、調べても調べても、どの情報が正しいのか当時はわかりませんでした。
 本を読むと「早期発見・早期治療が必要」と書いてある。「早く治療をはじめなければ」と医者や心理士、児童相談所などに相談にいきました。しかし、「しばらく様子をみましょう」と言われるばかりで、次第に相談する先がなくなっていきました。頼れる先がなくなっていったことで、孤独感を感じるようになりました。

それでもひとりで悩みを抱え込むのが苦しかったので、個人のブログで自分自身の思いを吐き出すことにしたんです。すると、他にも同じ悩みを持つ親がたくさんいることがわかってきました。
 そこで「相談できる仲間が欲しいな」という気持ちで、2020 年 9 月に妻と一緒に「親の会」LINE オープンチャットを立ち上げました。するとあっという間に参加者が100人、200人と増え・・・。ニーズの高さに僕自身、びっくりしました。それと同時に、独りじゃないんだ、たくさんの仲間がいるんだと思い、チャットだけの場所で終わらせてはいけないという使命感がわきました。
最初は僕と妻で小規模で進めていたオープンチャットですが、しっかり組織として継続できるよう事務局メンバーを増やしていき、団体活動としての「親の会」を発足させました。

場面緘黙の子どもを持つ親ならではの苦労は何でしょうか。

場面緘黙の子どもを持つ親には、子どもの代弁者としての役割がより強く求められます。娘は例えばカウンセリングにいっても、声を出せないし、表情すら出せません。親と家でしか話せない。だから、家で娘の話に耳を傾け、それを学校の先生や医者や支援に関わっている人に、わかりやすく伝え、理解をしてもらうことが必要です。

例えば、学校の先生であれば、生徒から話を聴けないので、気づかないし、どうすればよいかわからない場合が多いと思います。だからこそ、親としては学校側と密に連携し、先生に子どもの声をきめ細かく代弁して伝え、具体的な配慮を一緒に考えていく必要があるのではないかと感じています。

そうすると、親の役割は本当にたくさんあります。学校や園では子どもの状況を観察して先生に伝える役、家では子どもと毎日一緒にいて不安を取り除くカウンセラー役、配慮をお願いするために学校や園の先生と交渉する調整役、親自身が勉強し場面緘黙の知識を身につける役…。
一人何役もの状態が、ずっと続くんです。

こういったことに力を入れれば入れるほど多忙になり、自分だけではどうにもならないと感じることもあります。僕と同じではないかもしれませんが、場面緘黙の子どもを持つ親はそれぞれ苦労し、いろいろなところを駆け回り、忙しすぎると思います。

「親の会」では、「忙しすぎる親」でも参加できる方法が活動のベースとなっていますね。活動において工夫していることはなんでしょうか。

LINE オープンチャットのチャットルームの運営が主な活動のひとつです。

LINE オープンチャットは個人の連絡先が知られることなく、匿名で発言したり、交流できるサービスです。普段使っているアカウントとは別に名前やアイコンを設定できるため、個人情報が知られる心配はありません。発言せずに見るだけでもOK。入退会も自由です。
 何より、LINE は、子育て世代が使い慣れているアプリでもあるため、システムへの不安や抵抗感もそれほど感じずに参加することができます。

場面緘黙の正しい知識や情報が探しづらい状況もあり、親御さん自身も、困っている状況をどう整理すればよいかわからないまま、場合によっては問題を放置してしまうこともあります。オープンチャットでは悩みや不安な気持ちを分かち合うだけでなく、うまくいった対応の事例や、先生へ相談する際のコツなども情報共有されています。

場面緘黙のお子さんや親御さんが直面する悩みは、症状の出方によっても異なりますが、年齢や住んでいる地域によっても異なってきます。そのため、幅広い人達とコミュニケーションをとることができる「オープンチャット」の他に、地域別、学年別、悩み別などのチャットルームを細かく設けています。

ホームページを拝見すると、チャットだけでなく保護者交流会もあるようですが、交流会はどんな様子で開催されているのでしょうか。

活動当初から、オープンチャットとともに、保護者交流会「はぴもくcafe 」も企画していましたが、コロナ禍の影響もありリアルではまだ開催できていません。2021 年 5 月から、まずはオンライン会議システム「 Zoom 」を使って、オンラインでの「はぴもく cafe 」を 5 回実施しました。

「はぴもくcafe 」では、オンラインであっても参加者を地域ごとに限定し、できる限り、自分が住む地域の中で、同じ悩みをもつ親御さん同士が交流できるようにしています。親御さんの中には発言することが得意でない方もいらっしゃるので、できるだけ少人数開催で、具体的な相談テーマを設定し、自己紹介も主催者側で代わりに行うなど、参加することや発言することに参加者がストレスを感じないように心がけています。終了後は、HP に開催レポートを掲載し、「はぴもくcafe の様子や参加者の感想、主催者からの感想を詳しく伝えています。

今まで実施した参加者の中に「自分の住む地域で、場面緘黙の親が自分以外にもいることを初めて知りました」と感想を述べられた方がおり、地域によっては、親御さん同士がつながることができていない状況もあることを、目の当たりにしました。いわゆる「親の会」がある地域も限られています。だからこそ、オンラインでつながる仕組みが重要だと考えて、LINE オープンチャットを活用しているのですが、一方で、地域で実際に親御さん同士がつながり、地域に即した情報共有ができることは、とても意義があるとも思っています。

新型コロナウィルスの感染拡大が少し落ち着いてきたので、次回( 2022 年 7 月)は、会場参加とオンライン参加のハイブリッド型で実施する予定です。ゆくゆくは、各地域でリアルの「はぴもくcafe 」が開催できればいいなと考えています。

辻田さんを始め、運営を担う事務局メンバーも「場面緘黙の子どもをもつ親」の立場かと思います。運営面で工夫していることがあれば、教えてください。

事務局のメンバーも各地に散らばっています。基本的には LINE ワークスを使って情報共有し、役割ごとにグループ機能やZoomをつかって、運営業務もスマホひとつでできるようにしています。
また、メンバーの合意を取ることにいろいろな配慮を試みています。全員がその場で意見を言えるわけではないので、アンケートフォームを使って意見を募ったり、やろうとしていることの意図を丁寧に説明し、理解してもらえるようにしています。

ハイブリッド型交流会に向けての練習も兼ねて、理事会をハイブリッド型で開催。(しみセンの オンライン会議機材貸し出しサービス を活用いただきました)

会を続けて行くには、運営資金も一定必要です。無料と有料の 2 段階の会員制度を作り、有料会員には WEB サイトにある会員限定の記事を読むことができるほか、交流会などのイベントへ会員価格にて参加できるなどの会員特典もつけています。

会費や寄付の入金もスマホひとつでできるよう、クラウドファンディングサイトを活用して、クレジットカード決済ができるようにしました。会員限定記事はこれから充実させていく予定です。

これから力をいれていきたいことがあれば、教えてください。

親御さん同士のつながりづくりや情報共有も大切ですが、同時に、正しい知識や研究情報を社会に発信し、広めることも大切だと考えています。

繰り返しになりますが、場面緘黙に関する情報は他の障害と比べて少ないのです。社会的認知度は決して高いわけではないので、場面緘黙という存在を知らず、親や先生からも場面緘黙だと認識されていない子どもは、一定数いるのではないでしょうか。

例えば親御さんに知識がないと、子どもに対して何をすればよいかわからないまま、いたずらに時が過ぎてしまうでしょうし、医師や先生にもうまく相談できていないでしょう。子どもの苦しさをわかってあげられない状況というのは、きっと親御さんにとっても辛いものだと思います。

知識を持つことで、親御さんも楽になれる部分はあるかと思いますし、親御さんが先生や医者をはじめとする支援関係者に上手く相談をしていくことで、支援関係者にも場面緘黙の親子が直面している課題がより明確になり、支援の現場もより良く変わっていくのではないかと思っています。

今後は、社会全体として理解が進むことを目指し、研究者と連携しながら支援者や市民向けのセミナーを開催したり、親の声をまとめて記事にして配信していくことも予定しています。正しい情報をわかりやすく社会に届けていく活動にも取り組んでいきたいです。


今回スポットライトをあてた団体・個人

場面緘黙親の会 辻田 和彰 (つじたかずあき) さん

1975 年生まれ。京都市在住。
インターネット黎明期よりIT企業や広告代理店で働いた後、フリーランスの編集者、Web コンサルタントとして企業の情報発信やマーケティングのコンサルタント業務に携わる。
2020 年、娘が場面緘黙を発症後、幼稚園を不登園になったことをきっかけに、仕事を辞め、子育てと家事に専念。
場面緘黙の娘をもつ親として、日々の奮闘や悩みを綴ったブログ 「場面緘黙症の子供を治療したいパパのブログ」で発信し、LINE オープンチャットから親の会を立ち上げる。これまで培ってきた、ITやマーケティング、情報発信の力を活かし団体運営を行っています。
また、副会長の妻が研究者なので、場面緘黙について研究視点を重視し、二人三脚で親の会の発展を目指しています。

※ 個人の肩書や所属する団体は、執筆時点 (2022年6月) の情報です。

団体名 場面緘黙親の会
代表者 辻田和彰
団体について

場面緘黙親の会は、場面緘黙症の子どもを持つ親や支援者のための任意団体です。場面緘黙は知られていない事が多いため、交流の場としてLINEオープンチャットやはぴもくcafe、Web サイトでの記事配信など保護者主体で運営しています。
「場面緘黙の子どもたちが生涯にわたり、自分らしさを受け入れてもらえる社会へ。自信をもって、生き生きと暮らすことができる社会へ」
この目標を実現すべく、親の会事務局を中心に、親の会に参加する全ての会員とともに活動しています。

Web サイト https://www.selectivemutism.jp/

この記事の執筆者

名前 土坂のり子

京都市市民活動総合センター 副センター長



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